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一花

Photo:さくら By:sirius_1984
Photo:さくら By sirius_1984



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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高校卒業後新聞社で働いていたぼくは二十歳のとき

運とご縁で本屋さんに転職できる機会に恵まれ
絵本大好きでもあったことから

天にも昇る心地だった。



でも数年後

本屋さんの店内でお客様に見た目を理由に罵倒され
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-308.html

こころに深い傷を負った。



あまりの精神的ショックで
仕事で人前に立つことができなくなった。



そんなぼくを自邸に招き

遠い昔に伐採(とは名ばかりで倒木と言った方が近い)されるところを譲り受け
居を構えるたびに一緒に移ってきたという桜を見せてくれながら

こんなことばをかけてくれた人がいた。



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あの桜を見にな、毎年ようけ人が来る。このへんの人だけじゃなくてな、どこでどうなっとるんかわかりゃせんけどな、外人さんまで来るでびっくりだわな。咲く準備しとる頃からはじまってな、散ってまったあとも人が途切れん。

蕾が顔出したらな、「わしらも、冬眠から覚めなな」て、みんな口開けて見惚れとる。咲きはじめたらな、「はよぉ、はよぉ、満開になってくれんかぁ」て、勝手なこと言うて見惚れとる。満開になったらな、「花見、いつするだ、いつ」て、わいわい見惚れとる。

終わりに近づきゃ「(桜吹雪)舞っとる舞っとる、きれいなもんだ」て、酒の中に花びら入れて呑んで見惚れとる。散ったら散ったで、「どっかに花咲か爺さんおらんか」て、見惚れとる。葉桜になってもな、「はよ来年こんかぁ」てもう来年のこと考えて、いつまででも見惚れとる。

そんな愛されとる存在、他にはないわな。


桜って不思議だろう。カレンダーも時計もありゃせんのに、毎年春になったらちゃあんと咲きよる。「おぉ、すまんすまん。咲くの忘れとったわ」とかないわなぁ。今まで何十年と見てきたけどな、そんなこと一度もありゃあせん。


・・・君も、桜みたいにな、そのときが来る。

咲く日が来る。
いつかきっと、咲く日が来るで。
咲かん桜なんてありゃぁせん。

それまで焦らんと、桜のように生きてったらいい。




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今は誰も信じられんと孤独を感じとるかもしれんけど

桜みたいにな
誰からも愛される存在に君はなる。

そうも言ってくれているようでこころに沁みた。



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働いていた本屋さんで出逢い
ふとしたきっかけから可愛がっていただけるようになり
一店員だったぼくにこんなことばまでかけてくれた愛称「じぃじ」。



じぃじが亡くなるときぼくは遺言で
かかりつけの樹木医さんと力を合わせながらの桜のお世話を託された。

遠く離れて暮らすご家族からも了解を得て
屋敷の管理と併せて託された。



おうちを傷めないようにと風を入れに来たり
掃除をしにちょくちょく来ながら春を待つ。



春告げ鳥がささやきはじめ

ピンクのクレヨンの先っちょみたいな蕾が「やぁ」と顔をほんのり覗かせたら
この桜を介してつながった人たちに

早咲き桜の落花の花びらを一輪分招待状にそっと忍ばせ
開くとはらりひらりと花びらが舞う

そんな観桜会の招待状を贈る。



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今年も遠路はるばる名古屋を離れた人たちが来てくれて
じぃじの写真を囲んだ満開の宴は過ぎ去り
今は葉桜となったときだった。



招待客最後のひとり
友人「一花(いちか)」が訪ねてきた。



邸内からお庭の葉桜を眺めながら
名残惜しそうに歓談している人たちを背に
縁側にふたり腰掛けて話した。



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一花:いつもは満開の時期だけど、葉桜もいいね。

ヒロ:

だろ?
そう、ぼくも好き。

みんな咲き始めや満開、桜吹雪の頃はちやほやするけど、散り果てて葉桜になった途端誰も見向きもしなくなる。花のない桜、新緑の桜見て、あれが桜の樹だって気づかない、もう忘れちゃってる人もいる。でも、新緑が眩しいっていうか、溢れる生命力を感じるっていうか、見向きもされなくなっても散り果てた姿で来年見据えてスタート切ってる。あの姿にじぶんを重ねて見てる。

一花:そうそう。
ヒロ:そうそう。

一花:そうそう。
ヒロ:そうそう。


ヒロ:あははは。
一花:なに?急に笑いだして。
ヒロ:さっきから「そう」しか言ってないじゃん。

一花:ホントだ、ははは。「そう」だけで話す?
ヒロ:ははは、それおもしろい。


一花:そうそうそうのそうそうそうに、
ヒロ;ははは、なに言ってんだかわかんないわ。

一花:

えぇ?
そっちがやろうって言ったのに!
しかもヒロ、振るだけ振ってぜんぜんノッてないし。

ひどい。
遊びだったの?
やり逃げ?

ヒロ:

やり逃げ言うな。
ここだけ聞いたら(後ろの人たちに)勘違いされるだろうが。

一花:

ははは、ごめんごめん。
ヒロが「そうそう」言うから。

で、なんの話だっけ?
あたしもわかんなくなっちゃった。

あぁ!
そうそう。

ヒロ:ははは、また「そうそう」。
一花:ははは。なんなんだろうね、つい言っちゃう。


(真顔に戻った)一花:

欅(=女性アイドルグループ 欅坂46・けやきざかフォーティーシックス)のさ、「二人セゾン」の「花のない桜を見上げて 満開の日を想ったことがあったか」って歌詞。

聴くたびに思うんだよね。
自殺サバイバー同士、お互いいろいろあったもんね。
わかる。

ヒロ:

うん。
ぼくもあの部分だけいっつも何度も聴いちゃう。

で、ぜんぜん最後まで聴けないっていう。
曲の尺なんてとうに過ぎてるのに。

一花:ははは、そうそう。
ヒロ:ははは、またじゃん、「そうそう」。




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一花:

この前ね、ずっと閉じこもってて、あ~このままじゃホントあたしダメになるって思って、ちょっと空気入れ替えて(気持ち)切り替えようと思ってベランダ開けたの。そしたら、床に桜の花びらがあったの。一枚だけ。

(そう言って鞄から和紙の包みを取り出す)
(開くと正真正銘 桜の花びらが一枚入っていた)

すごくない?

前にあきほちゃん(=ぼくのパートナーの名前)と遊びに来てくれたからヒロも知ってるでしょ?うちの周りに桜なんてい~~~っぽんもないのにさ、どこからきみは来たんだよ。


・・・見ながらさ、思ったんだ。おかあさんもあたしも家庭複雑子ちゃんでしょ?おかあさん、独りで産んで独りで育てて、独りで家出てって独りで死んじゃって。仲悪かったから、まともに話した記憶ってなくて。

いつだっけ?ヒロが話してくれたじゃん。初めて出逢った人の名前、語源だっけ、成り立ち?書いてある辞書でどんな意味か調べて、「コミュニケーション音痴のぼくはお近づきになるきっかけにしてる」って。

あたしも調べてみた、由来聞いたことないから。おかあさん、花が好きだったのは覚えてて、一本の花のように華のある女性になぁれ、一輪挿しの花のように凛とした女性になぁれって意味で名付けてくれたんだって思った。そう信じていたかったっていうのもあるけど。

でもね、ベランダに落ちてた花びら拾ったとき思ったんだ。おかあさんもこの景色見てたんじゃないかって。もちろん住んでたところは違うし、産まれた町には桜があって、あたしんちとはぜんぜん違うんだけどね。


・・・あたしのこと、独りで産んで育てるって決めたとき、不安で不安でたまらなかったんだと思う。親は反対してたって言ってたから誰も助けてくれないし、頼れないしで。おかあさんとケンカしたとき言われたことあるから。

(和紙の上にちょこんと乗っている花びらを見つめながら)

不安で不安でたまらなかったとき、ふわってどっかから飛んできたんだと思う、おかあさんのところに。


桜って、入学とか入社とかはじまりをお祝いしてくれるものじゃない?
踏み出したんだと思うんだ、桜の花びらで。
産んでくれたと思うんだ、あたしのこと。


一枚の花びらで、「一花(いちか)」。


(和紙の上にちょこんと乗っている花びらを見つめながら)

ヒロ:この花びら、ハート型。
一花:ホントだ!

ヒロ:お母様も同じハート型見てたのかなぁ。
一花:だといいなぁ、親子だもん。




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ヒロ:

桜前線はまだ一花のところには着いてない頃だよね。
名古屋とか咲き誇ってるところから、渡り鳥みたいに数百キロ風に運ばれたんだろうな。
こんなことってあんだね。

それだけでもすごいけど、途中休憩とかもしたのかな。
風に運ばれていって、どっか行っちゃったりしないで、しおれたり、破れたりしないで。

それもまたすごいけど、マンションとか戸建てとか一花の住む街にはぎっしりみっちり星の数ほどあるのに、そのなかから一花のおうちのベランダに舞い降りるってすごくない?


一花:

で、その日にこれ(=観桜会の招待状)が来てたんだよ。
すごくない?




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