~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

帰ろう、掛け違えた場所まで。





白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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ドラマ『視覚探偵 日暮旅人』第2話に、こんな場面があった。
http://www.ntv.co.jp/tabito/



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政財界に睨みを利かせる大物政治家
雪路照之(ゆきじ てるゆき)の私設秘書をしていた
日暮旅人(ひぐらし たびと)の父 日暮英一(ひぐらし えいいち)は
http://www.ntv.co.jp/tabito/chart/

親交があり
ありとあらゆる闇を暴くと評判だった
ジャーナリスト山田快正(やまだ かいせい)から

暴力団 鳥羽組とも繋がりがあり
黒い噂の絶えない雪路照之のスキャンダルをはじめ

政財界のありとあらゆる黒い疑惑が記された手帳
通称「山田手帳」を命の危険にさらされると預かっていたが

表沙汰になることを恐れた雪路照之の命によって動いた鳥羽組によって
事故死を装い両親ともども殺された。



だが、手帳は行方知れずだった。



旅人は両親が殺される前

手帳を取り戻そうと躍起になっていた鳥羽組によって保育園から誘拐され
英一を脅迫するために

鳥羽組のドラッグデザイナーが作った強力な違法ドラッグ
「ロスト」の実験台にされていた。



「ロスト」は当初

五感のブレーキを壊して
極限まで解放する作用があると思われていたが

実は解放後に五感が徐々に失われていくという
恐ろしい副作用も併せ持つ危ういもの。

それ故「ロスト」と呼ばれるようになった。



両親が殺され

事情を知る由もない子どもであることから
用済みとなり解放されたものの

長期間に渡る大人でも耐え難い監禁の後遺症と
ロストの深刻な副作用によって旅人は

聴覚
嗅覚
味覚
触覚が失われ

視覚だけが残った。



それも苦痛から心身を守るために
防衛本能から感覚が遮断されただけでなく

ロストの副作用による後遺症が残っているために
ただ見えるのではなく

匂いや音
人の感情などが模様となって見える

特殊能力として残っていた。



旅人は大人になると両親の死を独自に調べ始め

事故死ではなく殺されたことを掴み
そこに雪路照之が関与していることを突き止めると

照之の息子でアウトローの雅彦(まさひこ)が
鳥羽組絡みで瀕死の重体にあるところに偶然を装って巧みに近づき
命を助けることで恩を売り

いつしか「ユキジ」「アニキ」と呼び合いタッグを組んで
警察では手に負えないトラブルを旅人の特殊能力で解決する

「探し物探偵事務所」を開業する。



雅彦が鳥羽組の破天荒なヤクザ「リッチー」から預かった

旅人を苦しめたロストの生みの親
ドラッグデザイナー百代灯果(ももしろ とうか)の子ども百代灯衣(ももしろ てい)と

血の繋がらない親子として事務所兼自宅で一緒に暮らしながら。



雅彦
旅人
灯衣

互いに心の奥底や真実を知らぬままに。



リッチーが旅人の両親を殺したことを知らずに。



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ある日

事務所(2階)の下で営業する病院コスプレキャバクラ「全治三ヶ月」で
「ギプス」の名で働くシングルマザー宮川恵理(みやがわ えり)が

5歳の娘「さくら」が行方不明で見つからず
探してほしいと駆け込んできた。



警察には既に届けているが2日経っても見つからず

旅人は自身も幼い頃
耐え難いほどの環境で監禁されたことがあったために

唯一残っている感覚視覚を酷使すれば
失明するまでの時間が早くなるとの雅彦の忠告も聞かず

(重体の雅彦を連れて行った診療所の医者で旅人を診察した榎木(えのき)の忠告でもある)

居ても立ってもいられないと依頼を引き受け探し始める。



空間や物に残された感情からも模様が見えることから
旅人は恵理のアパートを訪ね
手がかりを求めて住人に話を聴いていく。



6部屋あるうち

103号室
201号室は空室。

101号室は恵理の部屋。

202号室の矢口凜子(やぐち りんこ)
203号室の狭川洋一(さがわ よういち)

ふたりにはさくらの居なくなった時間にアリバイがあり
容疑者リストから外れた。



ただ凛子は
さくらがママの帰りを待つまでの間
互いに一人なことからよく遊んであげていたという。



102号室の江園は
恵理の話ではここ数日不在。

さくらが行方不明となったことと併せて怪しい人物で
どんどんと扉を叩いても気配はやはりない。

旅人がドアノブをひねると開いたが
やはり中には居ない。



なんともやばい空気が漂う中そこへ

同じ事件を追う墨東署のドS刑事 増子(ますこ)すみれが
相棒の土井(どい)を連れて現れ

令状が取れず家宅捜索できないとこぼすや否や
雅彦に強烈な回し蹴りを食らわして部屋の中へとふっ飛ばすと
不法侵入の現行犯として容疑を確定するためという口実を作り

旅人は渡りに船とばかりに江園の部屋を調べ始める。



そこで旅人が見たのは

ガラスのコップの数々
部屋の天井
本棚にあった植物図鑑
流しの下にあったドッグフード

これらに強い執着心が見て取れた。



旅人には

部屋に植物がないのに植物図鑑に執着心があること
犬を飼っていないのにドッグフードにも執着心があること

ふたつが引っかかっていた。



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進展がないまま恵理のアパートを訪ねた時だった。

一匹の犬が
まるで我が家のようにアパートの階段下へとやって来て座り

おとなしくなにかを待っている。



この犬は灯衣が先日街ナカで出逢い
大型犬故に飼うことが叶わなかった犬で
旅人らは見覚えがあった。



ただその後

野良犬として保健所に通報されたことを知った灯衣は
殺処分されるのではと心配でならなくなり

出逢ったときに近くに居て
犬が懐いていた河原のホームレスの男性から
廃業した国道沿いの家具店に居た犬だと聞くと

通っている保育園のおせっかいな保育士
山川陽子(わやかわ ようこ)と一緒に探していることを

旅人らはこの時まだ知らなかった。



一方

犬がじっと座って待つ姿を見た雅彦は
江園の部屋にあったドッグフードと関連付けるが

恵理の話では野良犬で
懐いていたのは202号室の凜子だと言う。



旅人が凜子の部屋を見上げると
部屋の前にプランターがあるのが見えた。



そのとき、凜子が悲鳴にも似た声をあげた。



犬の首輪に
さくらにプレゼントした指輪がくくりつけられていた。

旅人の目には
指輪に持ち主が助けを求めている模様が見えた。



すると犬は
まるで旅人らを案内するかのように
どこかへと歩き始めた。



後を追って着いた先は
廃業した家具店ハピネスファミリー。



そこには

ドラマの最初の事件で関わることになり
後に探偵事務所の助手となった亀吉(かめきち)も
灯衣・陽子と一緒になって犬を探してくれていたようで

探し疲れ
家具店のフェンスを乗り越えたときに足を怪我した灯衣をおんぶして

誰かを待っているようだった。



事情を知り

犬を探して
陽子がひとりで中へ入っていったことを知った旅人と雅彦は

亀吉に灯衣を任せ
事件性があることをまったく知らない陽子が危ないと中へと入っていく。



閉店後日が経ち雑然とした店内には

江園
さくら

2人が居たが
江園は頭から血を流して鎖に繋がれ

さくらはショッキングピンクのドレスを着て
同じく鎖に繋がれていた。



異様な姿を目にした陽子。



そこへ計画を邪魔されたくないと
包丁を手にした凛子が背後から襲いかかろうとしたその時
間一髪旅人が飛びかかって阻止し事なきを得た。



幼き頃の自分とさくらが重なり

理性を失って感情が爆発し
凛子を壁際に追いやって腕を押しやり首を絞め
殺しかねないところを雅彦が止めに入ると

冷静さを取り戻しながらも
異様な光景を前に訳が判らない旅人らに

凜子は観念し事の顛末を話し始めた。



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(旅人は口の動きを見て会話出来る)

凛子:

ここ、最近まで働いていた職場なんです。18年働きました。頼りにされるのが嬉しくて、結婚だ産休だ育休だって言う同僚の分まで働いた18年でした。でも、あっさり潰れてクビです。

雅彦:いや、そのことと今回のこととなんの関係があんだよ。

凛子:

さくらちゃんとは毎晩一緒に遊びました。
まだ5歳ですからねぇ、ひとりで留守番は無理ですよ。

陽子:それが、どうして?

凛子:

恵理さんが帰ってくると、さくらちゃんはすぐに部屋に戻ります。

(ふたりが手を繋いで階段を降りていく後ろ姿を見ながら)

わたしはふたりの笑い声を、自分の部屋で独りで聞く羽目になるんです。わたし、気が付いたんです。会社の同僚もこの親子も、みんな誰かを踏み台にして幸せになってるんです。だからわたしも幸せになるためには、誰かをちょっと不幸にするぐらいじゃないと駄目なんだって。

陽子:それでさくらちゃんを?

凛子:

(丸テーブルにキャンドルとケーキを準備し独りで食べる凜子の回想)

あの日は40歳の誕生日でした。
わたし、毎年自分で自分にプレゼントを買っていたんです。
今年は自分に何あげようって考えていたら

(ドアをノックする音)
(「おねえちゃん、きょうは遊ばないの?」さくらが訪ねて来た)

その時、今までありきたり過ぎて馬鹿にしてた家族やら子どもやらを手に入れたら、わたしも手っ取り早く幸せになれるかなって。

(離れて座っているさくらを見遣り)

さくらちゃんが自分への誕生日プレゼントです。

どうですか・・
わたし最低でしょ?

(さくらの隣に居た旅人が立ち上がって)

旅人:どうしてひとりじゃないと気づけなかったんですか?

凛子:は?

旅人:

江園さん、あのこれ、間違ってたらごめんなさい。
あなたは、矢口凜子さんのことが好きですよね?

凛子:はぁ?
江園:どうしてそんなふうに思うんです?

旅人:

あなたの部屋から、無数のコップの跡が見えました。それも壁ではなく天井から。あなたは天井にコップを当てて、凜子さんの部屋の音を聞いてましたよね?コップの跡から、強い執着心の模様が見えました。

江園:

(訝しげに)うん・・うん?
なにが見えるって言いました?

旅人:

すいません、あの僕、感情が見えるんです。あなたの部屋にあった植物図鑑やドッグフードからも同じ模様が見えました。そして、タバコの吸殻からも。

(旅人はアパートを訪れた時階段下に落ちていた吸い殻もあざとく見つけていた)
(階段下で凛子に懐いていた犬にドッグフードをあげる江園)
(タバコを吸いながら凛子の部屋を見つめる江園の姿の回想)

つまりあなたの執着とは、凛子さんへの強い愛情のことだと思いました。ただ判らなかったのが、カレンダーの印(23日に☓印)からも愛情が見えたことでしたが、先程理解出来ました。あれは

江園:

矢口さんの誕生日です。
告白しようと思ってました。

・・わたしは、矢口さんが好きです。
好きで好きでたまらなくて、矢口さんが育ててる花の名前を調べたり

(矢口の留守を見計らって玄関前のプランターの花の写真を撮り図鑑で調べる)

可愛がっている犬と仲良くなろうとしました。

(ドアの隙間から階段下で犬にごはんをあげる凛子を見て)

でも、そもそも女の人と話すのが苦手で、結局つい出来心で・・

(天井にコップを当てて凛子の独り言を聞く江園)

そしたら、独り部屋で発泡酒を呑みながら言う矢口さんの愚痴に共感してしまい、ますます好きになり。だからあの日の夜も、まさか誘拐だとは思わずに跡をつけました。

(手を繋いでどこかへと出掛ける凛子とさくら)

偶然のふりして道ですれ違って、きょうこそ話しかけようって。

(跡をつけた家具店の店内)
(キャンドルを前に鎖に繋がれたさくらを見つける)
(その瞬間背後から凛子に殴られて気を失う江園)

気がついた時には、わたしも鎖で繋がれてました。でも、この数日矢口さんと一緒に居れて、う~ん、逆に楽しかったかもしれません。

凛子:

からかわないでください!
今までろくに話したこともないのに、どうしてそこまで?

江園:ですから、あなたの愚痴が好きなんです。
凛子:なんですか、その理由。

(自分勝手な言い分ばかり述べるふたりに我慢ならなくなり)

陽子:

いい加減にしてください!さくらちゃんのことも考えてください!こんなにちいさいのに誘拐されて、何日もこんな所に閉じ込められていたさくらちゃんの気持ちを!

(興奮気味の陽子にさくらは無邪気に)

さくら:えっと、さくらは大丈夫だよ。

(凛子の方へと向き)

だって、さくらも大好きだから、凛子おねえちゃんのこと。

凛子:えっ?
さくら:あと、ポンタもおねえちゃんのこと好きだと思う。

雅彦:ポンタ?
旅人:(首輪にファミリーと書いてあったので)ファミリーのことですね。

凛子:

以前ここで飼われていた犬です。
動物が居ると、家族連れが来てくれるから。

さくら:

でもポンタはここがなくなってからも、おねえちゃんの家(うち)見つけ出してまで遊びに来てたんだもん。それって、おねえちゃんのことが好きだからだよ。みんなおねえちゃんのこと好きだからさ、こんなこともうしないでほしい。

凛子:

またそう言ってわたしを除け者にして、幸せになっていくんでしょ。

(さくらと凛子の想いのすれ違いをもどかしく思った旅人)

旅人:ユキジ、目薬もらっていいかな?

(榎木が処方してくれた失明への症状を遅らせる効果がある目薬)
(同時に旅人の特殊能力を最大限にする効果もある諸刃の剣)
(それ故乱用を防ぐために普段は雅彦が目薬を持っている)

僕はあなたを許せません。

(目薬を差すと凛子らの感情が鮮明な模様となって浮かび上がる)

でも、僕にはあなたの憎しみの根っこが見えるんです。憎しみは途中までは、愛情と同じ形をしています。ただ何かを掛け違うと、愛情の根っこから枝分かれして、憎しみが育っていくんです。あなたは、さくらちゃんを可愛がり過ぎて、その愛情が間違った方向へ育ってしまった。

江園さんもそうです。
愛情が、盗聴するような執着心へと変わってしまった。

(一転して微笑みをたたえ)

旅人:そして、さくらちゃんも。
さくら:あたしも?

旅人:

うん。指輪に助けてほしいという気持ちを込めたよね?その根っこから愛情が見えたよ。助けてほしいのは、自分のためだけじゃなかったんだよね。

(さくらの視線が凛子へ)
(立ち上がり凛子の傍へと歩み寄る)

さくら:

凛子おねえちゃん。
捕まっちゃう前に、誰かに助けてあげてほしかったの。

旅人:

人の感情の殆どが愛情から生まれているんです。
だから、間違ったら戻ってください。
あなたが愛情を動機に行動していた所まで。

(身勝手な思いで連れ出したさくらにそれでも抱きしめられ凛子は涙が溢れた)




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「ニコルン」

ライフワークをする中で出逢った
そんな愛称で呼ばれる友人の女子高生が

夏休みに家族の歴史を辿る
ファミリーヒストリーを創りたいから手伝ってほしいと

ぼくを訪ねてきた。



訪ねてくる今の今まで

石田ニコルさんや藤田ニコルさんみたいに
「ニコル」という名前だから「ニコルン」って愛称かと思っていたら

「どう見ても純ジャパ(=純粋なジャパニーズって意味らしい)でしょ」

大笑いしていた。



愛称でいつも呼んでいたから
本名を実は知らなかった。



「ニコルン」という愛称は

周りにいる人を
出逢った人をいつのまにか笑顔にする=ニコるんです

どんなにぶすっとしている人でも
ニコルンの笑顔につられて気がついたら笑っていることから付いたらしく

トークバラエティ A-studio でアシスタント MC をしている
モデルの emma(エマ)さんみたいにいつも笑顔を振りまいているけれど

ここでは詳しく書けないが
実はご両親と不仲で人知れず闇を抱えていて

ぼくが虐待を受けた両親との不仲な関係を
ファミリーヒストリーを創ることをきっかけにして変えていったことから

ニコルンも事情は違えどそうしたいと願って訪ねて来てくれたのだった。



高1は入学したてでふわふわしてて
高3は大学受験か就職かで余裕がなくて
高2の今なら、今だから出来ることだからと。



ファミリーヒストリーを一緒に創るにあたって
ぼくは、ニコルンにこんなことを話した。



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この夏に始まった『ごめん、愛してる』ってドラマでね、主人公の律(=岡崎律 おかざき りつ http://www.tbs.co.jp/gomen_aishiteru/chart/)は、ピアニストの母親が人気絶頂期の頃に著名な指揮者と不倫関係になって宿した子どもなんだけど、どちらも自分の立場やキャリアを守りたい一心で、律は産み落とされてすぐに付き人の手によって秘密裏に養護施設に捨てられた。

その後律はまだドラマだと詳しくは描かれてないんだけど10歳で韓国へと渡って、でも日本人の、それも子どもが独りで生きていくなんて、想像を絶するものだったと思う。もちろん似た境遇でも立派に生きてる人もいるだろうけど、律は地を這うような生活を経て裏社会、韓国マフィアのボディガードになってた。「律」ではなく、「リュウ」と名乗って。

でもある日、律のことをアニキと慕ってくれてた跡取り息子の誕生日パーティーの席で、敵対するマフィアから銃撃された彼を守ろうと盾になって何発も撃たれた。幸い命に別状はなくて助かったけど、撃たれたときに手術では取り除けないところ、脳の根幹に関わる部分にね銃弾が残ってしまって、じきに身体が動かなくなって、やがて死へと至るって医者から告げられる。

マフィアからは最初こそ跡取り息子だけがお見舞いに来てくれたけど、その後はすぐに用済みと判断されて、多額の手切れ金を渡されてそれっきり。律は残された人生をどう生きるか考えて、日本に帰り母親を探そうと決める。

手がかりは育った養護施設と、捨てられたときに一緒に置かれていたお守り袋に入った「律」と書かれた紙片、そして、母親が身に着けていたであろう宝石の付いた指輪。

探し始める律に、ピアニストの母と指揮者が不倫関係の末子どもを捨てたことを掴んで記事にしようとしてるフリージャーナリストが近づいてきた。

居場所を教えられた律は早速会いに出かけたものの、家は見上げるほどの大豪邸。お金持ちであること、何不自由なく暮らしてることはすぐに想像できた。母親だから自分のことに気づいてくれると思って本名の「律」ではなく「リュウ」って名乗ったけど、母は自分のことなんて腹立たしいほどきれいに忘れてて、律を見ても何も感じない。息子サトルを溺愛してる姿を目にして、激しい憎しみを憶える。ジャーナリストにそそのかされて秘密を暴露して、復讐してやろうとまで。

でも母が不倫関係の清算で自殺を図って、そのときの後遺症でピアニストとしては致命的な右手に障害が残ってしまって、人気実力共に絶頂期だったのに事実上の引退に追い込まれたことを知ったり、捨てられた自分と違って溺愛されて幸せに映ったサトルも、夢絶たれた母の夢の代わりにされて、すべてはママの言う通り。操り人形のようになってる。

男の子がするような遊びは指を怪我するからってすべて禁止されて、おまけに心臓の持病があるから出掛けることもままならない。そんなんでいつも家に居るから、母親の愛情もエネルギーもすべてがサトルにのしかかってピアノに打ち込まされて、友達はいない。部屋で他にすることといえば、ゲームだけ。

母親にとってはサトルがすべて、サトルが人生の中心。息苦しいだろうなって思った。でもサトルは母親に見捨てられたくないから、必死で良い子でいようとしてる。

それぞれの事情を知って律は、出逢ったときに抱いた印象も、感情も、変わっていくのね。

捨て子として一切関わるつもりがないなら「律」って名付ける必要もないし、紙片もいらない。指輪も後々接点が判ってしまいかねないから持たせてしまうことはリスクがある。それでもお守り袋に入れて一緒に置いたのは、この子のことをどうか守ってほしいって母心っていうのかな、願いがあると思ったし、いつか律が自分のことを探して会いに来てくれることを期待してたんじゃないかなって思って見てた。今のところは気付いてないし、ぎくしゃくしてるけど。

事情をもし知ることがなかったら、律は自分のこと捨てただけでなく、きれいに忘れてもうひとりの息子と幸せに暮らしてることをただただ恨んで、ジャーナリストにそそのかされて復讐してたと思うのね。でも事情を知って、一度は乗った暴露にブレーキを掛けた。

印象に残ってるシーンがあってね。

日本に帰ってきてまっさきに児童養護施設を訪ねたとき、律は幼馴染みの若菜(わかな)と再会して若菜の部屋でしばらく厄介になるんだけど、若菜は律が施設を出ていったときに大好きだったから「どこ行くの?」って後を追いかけていったときに事故に遭って、脳に障害が残って、身体は大人でも心の発達が7歳のときで止まってる。

そんな若菜に律は、再会した母親と自分の知らない息子サトルのことを、コウノトリを例えに出してどう思うか聞いてみる。

コウノトリが母親のところへと双子の姉妹を運んでるときに誤って姉(=若菜)をゴミの山に落としてしまい、妹だけが母親のところへと運ばれ幸せに暮らしてるとする。お金持ちで、何不自由なく暮らしてる。「おまえはどう思う?妹に対して」って問いかけた。

すると若菜は、「よかったねって思う」って答えた。「でも、おまえはゴミの山だぞ」と食い下がる律に、「でも、妹は助かったんでしょ?良かったねって思う」答えは変わらない。「そうか、おまえはそう思うんだな」純真でまっすぐに見る若菜に、律の心に変化が芽生えるってシーンがあったの。

あのねニコルン、親と不仲でもいいと思うのね。家族だから仲良くしなきゃいけないなんてこともないし、そんなのは他人や世間が決めた模範解答だから。みんながみんな絵に描いたような理想の家族でなんていられないから。

ぼくは親に虐待されて育って、恨み辛みが殺したいほどすごくって、18歳で高校卒業してすぐに家を出て、それから35歳になって家族をやり直そうと思えるようになるまでの17年、母親の葬儀に出る以外はほぼほぼ絶縁状態たったし、虐待の中心にいた親父に対しては「長男だけど親父の葬儀なんて俺はやらない」なんて思ってたくらい。絶縁もひとつの答えとしてアリだと思う。じぶんを守るためにも、じぶんの人生を生きるためにも。

でも、20歳のときに母親がガンで亡くなって遺品整理してたときに母子手帳が出てきて、そこに幼い頃に撮ったぼくの写真が2枚大切に挟んであった。中2のとき、いじめを苦に自殺したときに、この世に存在した証なんていらないって、写真は一枚残らずぜ~んぶ焼き払ったはずだったのにね。

あれを見たときに、母親はこんなにもぼくのことを思ってくれてたのに、ぼくは母親のことも、父親のことも、なんにも知らないなって思ったの。虐待されて育ったけどね。

ぼくが産まれたときに両親も同じタイミングで産まれて、共に生きてきたわけじゃなくて、ぼくが産まれる前から両親には産まれて生きてきた時間がある。共に生きてきた時間だけを見て、親のこと知ってるって誰しも思うけどね。だから知りたいって思って、両親の歴史を辿ってファミリーヒストリーを創った。

戦時中に産まれたぼくの両親は、明日をも知れぬ時代に産まれ落ちて生きてきたわけだから、戦禍でもしそれぞれの両親が死んでしまって独りで生きていかなくてはならなくなっても生きていけるようにって、育て方は厳しかった。今で言う虐待に近い。それぐらいしないといけなかった時代でもある、生き抜くためにはね。

そんな育て方の両親の元で育ったわけだから、いざ自分たちの子育てのお手本ってなったときには、厳しい躾と称して虐待したそれぞれの親しかいない。誰しも子育て、ぼくの場合は姉がいるけど、男の子は初めてだし、他に方法を知らなかったわけだから。

生まれながらの悪なんていないわけで、虐待したくてする親なんて狂ってると思う。だから、理由があると思った、そうせざるを得ないね。どっかで愛が歪んでしまったと思うの。それがどこなのか、いつなのか、どうしてなのか、知りたかった。

母親はもう居ないけど、父親は子育てが間違ってるなんて夢にも思わない。時代背景を考えれば両親の子育てもそうせざるを得なかったなと思うし、今更責めたところで過去は変えられないんだから酷な話でしかない。ぼくは、未来に向けてなにかが産まれる予感がするものをいつも選んできたから。

それにこう言っちゃなんだけど、父親はもう老い先短い。でもぼくは自殺未遂とか繰り返しちゃったし、それで身体に負担がかかって心臓が弱っちゃったし、自殺とは関係ないけど心臓の持病もあるしで、100歳とかまではまぁ生きられないだろうけど、それでも親父よりはまだ長く生きられると思ってる。

これから先もずっと、虐待のことを恨んで恨んで生きていくのは嫌だなと思った。それって、いつも心の中に両親が居るってことだからね。そうじゃなくて、この世に送り出してくれた恩はあるけどぼくはじぶんの人生を生きたいって思ったから、親は先に死ぬけどぼくはこれからも生きるから、ケリをつけるためにファミリーヒストリーで愛が歪んでしまった場所まで帰った。それが、赦すでもなく 赦さないでもなく(http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-289.html)って心の置き所へと繋がったって思ってる。

ニコルンにとってのこの夏が、なにかが変わるきっかけになったらいいなって願ってる。
ニコルンにとって、忘れられない夏になったらいいなって願ってる。




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人の感情の殆どが愛情から生まれているんです。
だから、間違ったら戻ってください。
あなたが愛情を動機に行動していた所まで。




人には誰しもそうせざるを得なかった時がある。
人には誰しもそうせざるを得なかった理由がある。



だから、帰ろう。
ボタンを掛け違えた場所まで。
愛が歪んでしまった場所まで。



時間を巻き戻すことはもう出来ないけれど
心を巻き戻すことは今からでも出来ると思うから。



そして、話そう。
お互いが生きているうちに。



                    *




人と人との歯車ってのは、ちょくちょく食い違っちまうもんです。
ただ、その歯車を元に戻せるのが人間じゃありませんか。

神田お玉が池の岡っ引き
人形佐七のことばから

BSジャパン 火曜スペシャル『人形佐七捕物帳』第九夜 「蛍屋敷」より
http://www.bs-j.co.jp/ningyousashichi/story/story9.html