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履かないブーツ

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photo credit:Kana Sasamoto via Flickr (license)



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



                    *



                  314通目



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木曜ミステリー『遺留捜査 SEASON4』第8話に、こんな場面があった。
http://www.tv-asahi.co.jp/iryu_08/



                    *



ある日森林公園で

イベント制作会社エストレーモ社長
柴田亜弓(しばた あゆみ)の絞殺体が発見された。

初動捜査を担当した捜査一課3係は
3ヶ月前から追っている通り魔と手口が酷似していると睨んだが

これまでの被害者はベルトのようなもので首を絞められ
失神するところで手が緩められていたのに

この被害者だけなぜ殺害されたのか疑問を抱いていた。



一方自転車で現場に駆けつけた

警視庁月島中央署から
京都府警捜査一課特別捜査対策室(通称トクタイ)に異動してきた

誰も見向きもしない遺留品に人一倍こだわる偏屈な刑事 糸村聡(いとむら さとし)は
http://www.tv-asahi.co.jp/iryu_08/cast/

同じくトクタイの佐倉(さくら)や雨宮(あまみや)が
3係と同じくなぜ殺害にまで至ったのかや犯行動機に目を向けているのに対し

事件現場までは長い坂道で
しかも舗装されていない凸凹な道にも関わらず

9センチものピンヒールをなぜ履いているのか気になって仕方がなかった。



簡単にはポキっと折れるはずのない
右足のヒール部分だけが折れていることも。



社員の話では

『ムーンライトフェス』というイベントを後日開催予定で
会場となる森林公園を下見に訪れていたという。

糸村が気にしていたピンヒールは社長のトレードマークで
ハイヒール以外の靴を履いた姿は見たことがなかったと話した。



エストレーモは業界でも一目置かれるほどの急成長を遂げていたが

同業他社から得意先を奪ったり
優秀な人材と見るや否や引き抜いたりと

業績を上げ
会社を大きくするためには手段を選ばない。



社員は20名居るが

自ら退職するか
解雇されるかで

毎年半分以上が入れ替わる異常な離職率の高さ。



出来て当たり前を振りかざし

無理難題をふっかけ
自分のように出来なければ面罵。

コツコツとヒールの音が社内に響くと
今度は自分が罵倒されるのではと

社員はいつもびくびくおどおど。



『ハイヒールを履いた悪魔』
亜弓は社員たちからこう呼ばれていた。



                    *



亜弓を恨んでいる人物は山のように居た。



中でも競合するイベント会社元社長 森島直人(もりしま なおと)は

亜弓がしおらしく接してきたためノウハウを教えたり
有力者を紹介したりと面倒を見てきたが

しおらしいのは最初だけで
奪えるだけ奪うと手のひらを返し
クライアントを次々に横取りしていき

森島の会社は倒産へと追い込まれた。



怒り心頭に発した森島は亜弓の会社へと乗り込むが
『無能だから』と一蹴。

『殺してやる!』と叫ぶところを
社員によって外へと出されていた。



半月前に解雇された元社員 矢沢絵里(やざわ えり)は

取引先の社員と不倫関係にあると噂が立っただけで
弁解の余地もなく一方的に解雇されていた。

別のイベント会社から亜弓自ら引き抜いたのだが
噂だけでも会社にはダメージがあるとの理由で解雇。

だがそれは建前で
亜弓は絵里が持っていた優良なクライアントが欲しかっただけで

奪い取ったら用済みとばかりに
都合の良い噂を利用して解雇したのだった。



解雇を言い渡された絵里は

『あんたなんか死ねばいい』

社内で面と向かって言い放ったが
亜弓は顔色ひとつ変えず

近くに居た社員の飲みかけのコーヒーを絵里の頭からかける
屈辱的な仕打ちをしていた。



森島も絵里も犯行動機はあったが
確証を得るまでには至らず捜査は振り出しに。

だが海外留学の経験がある絵里から
亜弓の経歴を一度調べたほうがいいと言われ

トクタイの面々が洗うと
詐称の事実が次々と明るみに出る。



会社の公式プロフィールにあった

『1979年 神奈川県生まれ』は、京都府の山あいの村生まれ。
『2002年 東都大学経営学部卒業』は、卒業者名簿に名前がない。

『2004年 フレミングビジネススクールにてMBA取得』は
照会したところ短期留学生の中にさえ名前がない。

『2005年 共和党ワシントン州委員会広報部にてキャンペーンを担当』も事実なし。



華麗なる経歴の事実は

2009年 「エストレーモ」設立
2015年 年商20億達成

だけだった。



なぜそこまで嘘で塗り固めなければならなかったのか。
糸村は折れたピンヒールの謎と共に気になっていた。



                    *



ハイヒールを調べていた糸村は

腐れ縁の警視庁科学捜査研究所技官で
糸村と同じく京都府警に異動してきた村木(むらき)の協力を得て

中敷きの高さが左右で違うことに気づいた。



右の中敷きの下に入っていたインソールがドイツ製の高価なもので
扱っているお店が京都では限られていることを村木から知らされた糸村は

地道に一軒一軒当たっていき
『SHOE STORE ARIHARA』へと辿り着いた。



店主の話では

亜弓は生まれつき股関節に障害があり
右脚の方が少し短かった。

そのため9センチのピンヒールを買い求めた時
身体への負担を和らげようと

加工したインソールを入れたのだという。



そこまでしてピンヒールにこだわる理由を
亜弓は店主にこう話していた。




ピンヒールを履いたら、後ろ向きには歩けないでしょ?
前に進むしかないなら、もっと自信持たなきゃ。
人より強くならなくちゃって、わたし、頑張ってきたんです。




トクタイの面々の調べでは

生家は極貧で
同級生たちからいじめられ

田んぼに突き落とされて泥だらけになった
ぼろぼろで買い換えることさえ出来なかった靴を

泣きながら洗って履けるようにしていたという。



靴へのこだわり
嘘で塗り固めてでも強くあろうとした亜弓の素顔が見えてきた。



                    *



糸村が店を後にしようとした時だった。

店主が事件当日夕方
亜弓がインソールの調整にと訪れた帰り

店の玄関を出たところで男とぶつかったと話した。



その話を聴きながら糸村は

商品棚に並んだ靴の特徴ある紐を見て
どこかで見覚えがあると思った。

記憶を辿ると
事情を聞きに亜弓の会社を訪れた折出会った出入り業者の男の靴。



その男コスモディスプレイの三好(みよし)は
トクタイの任意の事情聴取にあっさりと口を割った。



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亜弓に何度プレゼンテーションしても突き返され

虚仮(こけ)にされ
自社での評価はガタ落ち。

昇進の話もふいになった。



上等な靴でも履いていれば一目置くかと思い
亜弓の跡をつけ同じ店で靴を買ったが
見向きもされないままだった。



事件当日

本当にたまたまだったが『ARIHARA』を訪れた時
入り口で亜弓とばったり会った。

仕事では取引先としてお世話になっているし
あれだけ面罵したのだからと思ったが

ぶつかったにも関わらず

『ごめんなさい』も
『すみません』もなく

亜弓は顔を合わせても無視。



三好を置いて呼び止めたタクシーへと歩いていき
何度話しかけても無視した挙句
ピンヒールで足を踏みつけタクシーへと乗り込んだ。



まるで自分のことなんて覚えていない。
沸沸と怒りが湧いてきて抑えられなくなった。



森林公園でイベントの下見をする亜弓の跡をつけ
逃げ惑う亜弓をネクタイで絞殺。

ご自慢の
トレードマークのピンヒールをへし折り

『ざまぁみろ』とばかりに折れたハイヒールを履かせて去った。



首を絞めたネクタイを
事件後も勝ち誇ったように身に着けて。



亜弓の爪に残っていた皮膚片は三好のDNAと
繊維片は身に着けていたネクタイと一致。

自供と併せて事件はこれで解決を見たが
糸村にはどうしてもやらなければならないことが残っていた。



                    *



2年前亜弓が手がけたイベントをたまたま見に出かけ

ステージ上の誰よりも輝いて見えた亜弓に憧れ
その場で入社を直訴した部下の川嶋由希(かわしま ゆき)。

外からはあんなにも輝いて見えたのに
一緒に仕事をするようになると裏の顔が顔を出し

パワーハラスメントで罵倒される毎日が待っていた。



傲慢で
意地悪で
心の中では何度殺したか判らない。



『ムーンライトフェス』も
本来ならどう考えても力量不足。

担当者に指名され
どんな企画書を出しても当然

『いくらでも代わりはいる』

面罵されるばかりだった。



イベントも中止が決まり

亜弓亡き今
もう向いていない仕事にしがみつくのはやめようと退職を決め

社を後にするところを糸村が訪ねた。



社員たちの中でも特に目の敵にされ
サンドバッグのように亜弓は由希を面罵し続けたが

経験のない由希にイベントを任せることは
失敗すれば会社に多大な損害を与えるだけでなく

取引先にも迷惑がかかる。

それでも任せたのは由希を思ってのことではないかと語りかけるが
由希はそんなはずはないとにべもない。



糸村は食い下がった。




川嶋さん。
僕に3分、時間を貰えませんか?




主なき遺留品に込められた想いを代弁する
頑なな心が開いてくれたらと願う糸村の想いが届いた。



                    *



亜弓は、亡くなる当日靴を取り寄せていた。
店主が教えてくれた主なきその声を、糸村は代弁する。



取り寄せたイタリア製のハイヒール。

靴のサイズは26センチ。
亜弓には少し大き過ぎる。

ひょっとしてこれは由希のために取り寄せたのではないか。

サイズを尋ねると
由希は26センチだった。



同席したトクタイの同僚で
亜弓のことを調べていた神崎(かんざき)は
亜弓が働き始めた頃の履歴書を由希に手渡した。



そこに映る亜弓は
由希が見てきた華やかな姿ではなく
地味な姿だった。



                    *



幼い頃両親が失踪。
おばあさんのところへと引き取られた。

極貧で
ぼろぼろの靴を履き続ける生活を経て大阪で就職。

働きながら定時制高校に通っていたが
どうやって起業資金を貯め

ノウハウを身に着けたかはまだ判っていない。



だが

辛酸を嘗める日々のなかのある冬のこと
亜弓は『SHOE STORE ARIHARA』に出逢った。

ショーウィンドウに映る赤いピンヒールの靴。

一瞬で虜になったが
13万円近くする靴は

とても自分のお給料でなんて買えない。



そんな姿を見た店主が

『お寒いでしょう』
中へ招き入れてくれた。

恐る恐る履かせてもらった
9センチものピンヒールの靴。

鏡に映る自分の姿は
まるで魔法にかけられたようだった。



うっとりする亜弓に
店主は言葉を贈った。




良い靴は、履く人を素敵な場所まで連れて行ってくれるそうですよ。
西洋の諺です。




『素敵な場所』
この言葉が亜弓の心を捉えて離さなかった。



購入を即決した。
人生を変えたいと。



由希はずっと亜弓が恵まれた育ちで
なにもかもにも優れているとばかり思っていた。

でも、それは違っていた。

そう見えていただけだった。
見たいように都合よく見ていただけだった。



真紅のハイヒールとの出逢いから
9センチのピンヒールを履く自分を支えに

華麗な経歴と
輝かしい未来を持つ女性を必死に演じて生きてきた。



生き抜いてきた。



初めて知る本当の亜弓の姿は由希そのものだった。
何度面罵してもめげずに喰らいついてくる。
きっと自身に由希を重ねて見ていたのかもしれない。




(亡くなる当日の夕方訪れた『SHOE STORE ARIHARA』で)

店主:きょうも、これからまたお仕事ですか?

亜弓:

ちょっと下見に。
来月のイベント、絶対に成功させたくて。

・・厳しく突き放されても、めげずに一生懸命立ち向かっていく子。
たとえ不器用でも、そういう子はきっと伸びるわ。
いつか必ず自分の足で、素敵な場所まで歩いていける。

だからね、わたしちょっとだけ、背中押してあげたいの。




ハイヒールを履くことで自分は強くなれた。

特別な一足があれば
自信を持って歩き出せる。

いつもはぺたんこの靴を履く由希。
ハイヒールなど自分には似合わないと思い込んでいる由希。

由希のために取り寄せたハイヒールに
亜弓はそんな願いを込めていた。



                    *



取り寄せたハイヒールは2年前
ステージ上の誰よりも輝いて見えた亜弓が履いていたのと同じ靴。



亜弓は、憶えていてくれたのだった。
靴のサイズも。



由希は、亜弓の残してくれた会社に残った。
足元には、あのハイヒールを響かせて。



                    *



中学2年生の秋
母が末期がんで余命3ヶ月と言われたと父から教えられた。



虐待を受けて育ったぼくは両親を殺したいほどに憎んでいて

父から母の余命を聴いたときには
こころの中でガッツポーズをしたほどだった。

『ざまぁみろ』と。



でも、なんだろう。

嬉しさなんてほんの一瞬で
お腹を痛めてぼくをこの世に命懸けで送り出してくれた存在だからか

父への憎しみとはどこか異質。



嬉しさはやがてこころの痛みへと変わり
居ても立っても居られなくなり

母の余命を聴く前
いじめを苦にして自殺未遂を起こしていたので

病院を退院したらすぐさま学校に頼み込んで
新聞配達のアルバイトに精を出した。



朝夕刊のアルバイト代を父へと渡し
微微たるものかもしれないけれど
高額な医療費の支払いへと充ててもらった。



高校へ入学するとアルバイトの制限が緩くなり
もっともっと力になりたいと思った。

医師が告げた余命を超えて生きていてくれたからだ。

コミュニケーション音痴で接客は大の苦手だったが
自宅からも近くて時間の融通が利く

コンビニエンスストアでのアルバイトも夕刊配達後に始めた。



                    *



始めて2ヶ月くらい経った頃だろうか

まだ24時間営業ではなかった頃で
閉店時間間際になってヤンキー連中がどっとお店にやって来た。

この界隈でたむろしている連中で見覚えがあった。



ヘタレだからビビりながらレジをしていて
お釣りを渡そうとしたときだった。

あきらかにお釣りがぼくの手を離れた瞬間
受けようとしていた手をぱっとよけて

小銭がレジ台から

ちゃり~ん
ちゃり~ん

床へと落ちていってしまった。



『おいおい、なにすんだコラ』
『客に拾わすんじゃねぇよ、にいちゃん』
『ちゃっちゃと拾わんか』

取り巻き連中が詰め寄って囃し立てる。

ヤンキー相手で手が震えて落ちたとも言えるけれど
わざと手をどけた瞬間がぼくの目には焼き付いていた。

怖くて目を合わせられず
ずっと手元を見ていたのだから。



床の上にあって目に入ったものはすぐに拾えたけれど

レジ台の下の
手のひらの厚みくらいの隙間に入っていったものが2枚あった。

一枚は仁王立ちしていたヤンキーのひとりが
わざと取りにくいこの場所へと蹴り入れたものだ。



顔を横に向けた土下座のような姿勢になって
隙間から手を入れて懸命に取ろうとした。

『はよせんか、コラ』
『どんだけ客待たすんだボケ』

上から催促の声が降ってくる。

でも取ろうとすればするほど
こういうときってなぜか取れないものだ。



なんとか一枚を指先で掴んで

もう一枚を手がぷるぷる震えるなか
待たせて申し訳ないなと焦り

必死に取ろうとしていたときだった。



『おせえんだよ!』

すぐ傍に居た
あの手をどけたヤンキーが

ぼくの顔を黒いブーツで踏みつけた。

『どんだけ客待たすんだ』
『どんだけ待たすんですかねぇ。えぇ?』
『忙しいんだよ、俺様はさぁ。オマエと違って』

と言いながら、ぐりぐりと踏みつけた。



ぼくは虐待の後遺症で
幼い頃は感情のコントロールが苦手だった。

キレかかったけれど
母のことが頭をよぎった。



『堪えんといかん』



げらげら笑い声が降ってくるなか
踏まれながらなんとか最後の一枚を掴んで手渡し

『お待たせして大変申し訳ありませんでした』

お店の信用にも関わる手前
こころで泣いてお詫びした。



なにかがぼくの中でごぉっとうごめいた。



『お金があればこんな仕事しなくて済む』

若気の至りで
今となっては恥ずかしい限りだけれど

コンビニエンスストアでの仕事を『こんな仕事』
当時はこんなふうに思ってしまっていた。



『お金を死ぬほど稼いでやる』
お金は選択肢だと子どもながらに身に沁みた。



                    *



踏みつけられたあの黒いブーツが目に焼き付いていた。

踏みつけられて
ぐりぐりされたときの

あのブーツのにおいが鼻に刻まれていた。



あの日からぼくにとって黒いブーツは

映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のモデルになった
ジョーダン・ベルフォートさんみたいに

『欲稼ぎ 欲遊び 欲笑え!』
https://www.youtube.com/watch?v=O9-vYIw7fBA

貪欲に儲けることへの
とてつもなく強力なブラックエンジンになった。



筋肉質で丸刈りという見た目に反して
草食系で女性的な感覚のぼくの中に

獣のような
モンスターのような

際限なくお金を稼ぎたいという超肉食系のじぶんが居ることに驚いた。



目に焼き付いた黒いブーツのデザイン
そしてなにより鼻に刻まれたにおいを頼りに

名古屋市中のお店というお店を一軒一軒足を棒にして周り
靴底のサイズを見るふりをしてにおいをくんくんと嗅ぐ。

傍から見ればにおいフェチか
ただの靴変態に映っただろう。



『スニッファー 嗅覚捜査官』ばりに鼻を利かせ
http://www.nhk.or.jp/dodra/sniffer/

何十軒と訪ね
何百足と嗅いで突き止めた。

あの黒いブーツを。



高校生のアルバイト代一ヶ月分が軽く飛んだ。



後にも先にもこんなストーカーちっくな執念なんて湧いてこない。
それくらいに屈辱的で覚醒したのだと思う、ぼくの中でなにかが。



                    *



以来部屋に飾られたこの黒いブーツは
どれだけ全国を職を転々としても一緒だった。

訪ねて来てくれた人が

『なにこれ?レア?』
『いつ来ても飾ってあんじゃん』

不思議がるほど『履かないブーツ』として鎮座ましましだった。



もう踏みつけたヤンキーのことなんてどうでもよかった。
相手にするのは命の浪費だった。



母とは異質な感情を持つ父へ
虐待して育ったことへの凄惨で激烈な復讐をするために
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-360.html

いつの日か

若さでも
経済力でも逆転するときが来る。

そのときに備えて
父を屈服させる圧倒的な経済力を手に入れる。

履かないブーツは強力なブラックエンジンになった。



就職氷河期まっただなかによのなかへと漕ぎ出し
理不尽とも言える幾多の洗礼のような荒波をかぶるなかで

先行きがどれほど不安であっても生きていけるようにと
いつかはじぶんに不向きな勤め人を辞めるためにと
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-336.html

サラリーマンが続けられるうちにとお給料での生活を倹約し
投資用のまとまった資金を貯めて

それを元手にアーリーリタイアするための
経済的基盤を創るための株式投資をはじめた。
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-category-45.html



一時のバブリーな熱が永遠に続くとばかりに浮かれる人が大勢居たけれど
『セレブ』だの『ラグジュアリー』だのには取り憑かれず

儲かる手法だけを採用し
儲からない手法はバッサリ切り捨てた。

一意専心

18歳からアーリーリタイアを果たした42歳までの24年間
意欲が削がれたときにはくんくんとにおいを嗅いで

あの屈辱と覚醒を思い出した。



履かないブーツは
アーリーリタイアを叶えてくれた強力なブラックエンジンになった。



                    *



そんなぼくが今紆余曲折あって
末期がんで入院している父の面倒を見ている。
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-360.html

生きてほしいと面倒を見ている。
医療費の支払いも含めて。



父が望むなら

たゆまぬ医学の進歩と研究成果
現場からのフィードバックによって磨き抜かれた標準診療の枠の範囲内で

(末期がんという窮状に漬け込む輩がいるので枠から出ないよう要注意)

どんなに高額であっても
陽子線治療のようにがんの治療に効果のある治療法なら

保険適用内でも適用外でも
遠慮なくいくらでも受けてほしいと思っている。



先日見舞ったとき帰り際に

『こんなになって申し訳ない』
『なんにも残せてやれんで申し訳ない』

と父が言った。



こんなこと、ぼくに言うなんて初めてのことだった。



胸がいがいがするように思った。
病気になるって申し訳ないことなんだろうか。



                    *



父に頼まれて

お金の管理はきっちりしているのに
机の上でゴミ屋敷状態になっていた書類を整理していたとき

母が生前父に宛てた手紙が出てきた。



母はこう綴っていた。




○○(父の名前)さん 毎日仕事御苦労さまです

私の病気によって医療費等負担がかさみ申し訳なく
いつも心の中でわびております

病気の方も先がみえなくて不安ですが
家に帰った時は家庭の事を出来るかぎり
やらさせてもらいますのでゆるして下さい

ほんとうに ほんとうに申し訳ありません




母も
父も
判ったときには末期がん。

母も
父も
病気になって申し訳ないと言う。

『なんなんだよ、夫婦揃って』

やるせなく思った。



『健康ゴールド免許』なんてことを言い出す馬鹿丸出しの政治家が居たけれど
いかにもお役人や政治家が頭の中だけで考えたことだと思った。

たしかに健康に気を遣っている人と
不摂生な生活を送る自堕落な人とが同じ保険料や医療費というのは

社会保障とはこういうものといくら言われたところで
到底納得がいかないものだろう。



でも、病気になるというのはそんな単純な話ではない。
人間の身体だって判ったようなことを軽軽に言えるものじゃない。

どれほど健康に気を遣っている人であっても
理不尽なほどの病に倒れる人は枚挙に遑がない。

なるときは、なってしまうもの。

これって、それでも病気になった本人が悪いのか。
申し訳ないって身を縮めなければいけないことなのか。



だから父に言った。



                    *




病に倒れるんはな、なんにも申し訳ないことじゃないから。
50年以上もタバコ吸っとったのはあるけど、それとて誰が悪いって責める話ちゃうよ。
治すことだけ考えてくれとったらええよ。

親父のこと、待っとる人がおるだろうに、ぎょおさん。
クリスマスのサンタクロースのボランティアもな。
ちびっこたちが待っとるで、な。

なんにも残せてやれんでって、なに言っとるだ。
んなこと言うなや。
心臓悪くしたのはオレの自殺未遂が招いたことだしな、7回もやらかして。

親父が悪いわけじゃない。
かあちゃんが悪いわけでもない。

それでもこうして43歳の誕生日(先日9月8日)迎えるまで生きてこれたんだで。
こんな丈夫な身体授けてもらっただけで充分だわ。

残せとるだろう?
これ以上なに望む?

可能性の塊みたいな身体以上に、命以上に望んだらバチ当たるで。




                    *



病室を出たら一緒に来てくれていたパートナーが
ぼくの両親のことを話していたからかこう言ってくれた。



                    *




『親子だね、やっぱり。ヒロくんパパとヒロくんって。』




                    *



今まで電話に出ると父と間違えられ声が似ていると言われるのが嫌だった。
わざと大声出して喉を潰したことがあるくらいだった。



隣に並んでいると似ていると言われるのが嫌だった。
お金を貯めて本気で整形しようと思っていたくらいだった。



父の血が流れていると思うだけで穢れている気がして
何度自殺未遂したことだろう。

親子であることには
嫌悪感しかなかった。



虐待の連鎖はぼくの代で止めた。
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-313.html
『アンタとは違う』って思っていた。



でも今は、産まれて初めて親子であることを嬉しいと思った。
産まれて初めて『親子』って言われることを嬉しいと思った。



サラリーマンの父が母の医療費をすべて負担し
余命3ヶ月を大幅に超えて6年近く長生きしたことを支えた姿を見て育った。



今ぼくが気がつけば父の医療費を全額負担して支えているのは
背中を見ていたんだなと思った。



そんな背中を見て育ったから

勤め人が合わなくても
勤め人を『社畜』などと呼ぶ人が居ても

サラリーマンを馬鹿にすることはなかった。



やっぱり親子なんだな、ぼくらは。



                    *



春を連れ
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-276.html

アーリーリタイアを果たしたぼくは
象徴だった履かないブーツを履いた。



あらたな人生を歩みはじめた。




良い靴は、履く人を素敵な場所まで連れて行ってくれるそうですよ。
西洋の諺です。




あれから10ヶ月。
『素敵な場所』とは、ここなのかもしれない。


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