~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

花。花。花。花は、誰のために咲きますか?

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photo credit:Vida Dimovska via Flickr (license)



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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本当に行き場をなくした時、人は、自分で自分を壊そうとする。




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オトナの土ドラ『さくらの親子丼』4杯目に、こんな場面があった。
http://tokai-tv.com/oyakodon/



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東京の下町にある古書店『九十九堂書店』を営む九十九(つくも)さくらは
http://tokai-tv.com/oyakodon/chart/

住居を兼ねた店の奥にある
訪れる人たちが『たまりば』と呼ぶ場所で

一人一日一杯できたての親子丼を振る舞っている。



16年前

ファミリーレストランでアルバイトをしていた
高校生の息子 悠平(ゆうへい)。

お腹を空かせてステーキを食べに来ていたシングルマザーの少女が
(無銭飲食なのかどうかはまだドラマでは描かれていない)

向かいの席で寝かせていた自分の赤ちゃんの鳴き声にカッとなり
ゆっくり食べられないことへのイライラや邪魔な存在だからと

ステーキナイフで刺そうとしたところを止めに入った。



揉み合いになり
倒れ込んだ拍子に持っていたナイフが刺さって
悠平は帰らぬ人に。



その後少女の裁判を経て事件の背景を知ったさくらは

貧困が
空腹が
孤立が人を追い詰めてしまうと考え

『たまりば』で親子丼を無料で振る舞い
素性や訳は問わずに言葉を掛け
話に耳を傾け

競馬好きで
プロレスラー藤波辰爾(ふじなみ たつみ)さんを神様のように思い

『たまりば』に訪れるやんちゃな連中が食ってかかるようならゴングが鳴り
『かかってこいや』と応戦する血気盛んなところがありつつも

家庭や社会で居場所をなくした人たちを
彼らが何度道を踏み外したとしても

あたたかく見守ることを始めていく。



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親子丼は、親と子がひとつのどんぶりの中で仲良くしている。



『どんぶり』は、家庭であり、よのなか。
『親』は、血縁に限らない親となる存在であり、見守ってくれるよのなか。

いつの日か居場所をなくした『子』が

親とも
よのなかとも

仲良くなれるように。



さくらは、親子丼にそんな願いを込めている。



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ある日『たまりば』に
小学生が3人連れ立ってやって来た。



まだ授業中なのに
なぜこの時間に来たのか。



子どもたちは担任の女性教師に怒鳴りつけられたり
太腿をつねられる体罰を受けていて

それに耐えかねて学校をサボり
『たまりば』へとやって来たのだった。



やがてそのことを知った担任 御代川由希(みよかわ ゆき)が
クラスのひとりに『たまりば』のことを聞いたとやって来た。



『頭が痛い』
『お腹が痛い』
『気持ちが悪い』

仮病を使ってでも教室を抜け出したかった子どもたちに対し由希は
『早退して家に帰っているとばかり思っていた』訳も聞かずになじり

子どもたちを擁護するさくらにも食ってかかる。



なだめられても態度は改まらない。
放置すれば、学校での自身の評価が下がるからだ。



親子丼を食べ終わった子どもたちを強引に連れ出すと
学校へと連れ戻していった。



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数日後髪をバッサリ切った由希が

『親子丼を食べさせてほしい』

『たまりば』にやって来る。



何故だか判らないが
親子丼に無性に惹かれていたからだった。



由希自身この時は気づいていないが母子依存で

髪型から食べるもの
なにからなにまで

すべてが母の管理下にあった。



伸ばしていた髪をバッサリ切ったのも
母に言われ、母の手によるものだった。



母にとって自分はいつだって
理想の娘でなければならない。

有無を言わさぬプレッシャーが
由希をいつしか蝕んでいた。



ストレスは、『食べる』ことへと向かった。



食事は母が作るもの以外口にしない従順な娘を装っていたが
幼少期から理想の娘を演じることに身も心も疲れ果てていて

母の作る食事を終えては
家の2階にあるお手洗いへと向かって吐き

母に内緒で買い込んできた食べ物や飲み物を
自室で食べ尽くしてはまた吐くを繰り返していた。



それは、家に居る時だけにとどまらず外食も同様。



母の作る食事を食べに帰る前に
お店でたらふく食べては吐くを繰り返していた。



教師のお給料だけでは当然足りなくなり

銀行からの借金
カードローン
街金からの借金

それでも足りなくなると
修学旅行の積立金にも手を出した。



内心は誰かに止めてほしい。

でもどうすることも出来ず
ただただ自分が壊れていくのを

もう一人の自分が見ているだけだった。



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ある日、校長から呼び出しがあった。



思い当たることはある。
案の定、修学旅行の積立金と体罰の申し出だった。



体罰は

幼い頃習い事に熱心な母から
言われた通りに出来なかったり勉強を間違えた時に

『痛みと共に憶えなさい』

太腿をつねられた記憶からしてしまったものだったが
熱心さ故となんとか弁明。

だが積立金の横領には
御茶を濁すことも出来ず追い込まれた。



母に知られるとまずい。
その気持ちがますます摂食障害を加速させる。



学校にも居場所がない。
家にも居場所がない。
どこにもない。



そんななか母が
由希の知らないところで学校を訪ねていた。

由希から『校長先生から話があった』と聞き
『よくやってくれている』お褒めの言葉をいただいたと聞いたが

本当はどうなのか
自身の目で確かめたかったからだ。



由希の目には、『自分を信用していない』と映った。
『あれだけわたしはあなたの言うがままなのに』と。



母は体罰や横領を知っても
すべてをぬかりなくフォロー。

『何も心配しなくていい』と告げる母に
由希は窒息しそうなほど息苦しくなり

母を裏切ってやりたい衝動に駆られ
ある朝、正門前で踵を返し学校を無断欠勤。



けばけばしい化粧と服に身を包み

売春して得たお金で食べては吐くを繰り返し
お金が尽きればさらに売春して食べては吐くを繰り返し

『落ちるところまで落ちればいい』

どこまでも自分を痛めつけていった。



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さくらは足しげく『たまりば』に通い
親子丼を食べるようになった由希を気にかけていた。

親子丼を食べ終えると
決まっていつもお手洗いへと駆け込むからだ。



いつかにはそんな由希の跡をつけた母から

『もうあそこには行ってはいけません』

忠告され束縛を強める姿を
さくらは母親と顔を合わせた時感じ取っていたからだ。



言葉に出来ない SOS ではないのか。
不安は、的中した。



警察から連絡が入り
摘発した風俗店関係者の中に由希がおり
『さくらを呼んでほしい』と言っているという。



面会し『たまりば』へと連れ帰ると
由希は誰にも言えなかった思いを吐露し始めた。



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由希:母は、わたしを産んだ後に体調を崩して、そのまま教師を辞めたんです。
さくら:お父様は?

由希:

教師でしたけど、退職してトラックの運転手に。
保護者や同僚との人間関係がうまくいかなくて。
だから、母はわたしをどうしても教師にしたかった。

小さい頃から、ありとあらゆる習い事をやらされていました。
分刻みのスケジュールで、毎日毎日急いでいました。
雑踏の中を何も考えず、何も見ず。
ただひたすら習い語をこなすために、わたしは急いでいました。

さくら:で、ごはんはどうしてたの?

由希:

ほとんど、コンビニのお弁当でした。
それを母と二人で、夜の公園のベンチとかに座って食べました。
気が付くと・・母はわたしの中に完全に・・忍び込んでいました。
わたしの生活のすべてを、母が決めていたんです。

食べるもの。
着るもの。
読む本。
聞く音楽。
そして、未来まで・・

(回想:学校で絵を褒められイラストレーターになる夢を語る)
(だが表情ひとつ変えずに目の前で絵を破る母)
(そして「由希ちゃんは学校の先生になるの」と告げる)

いつしか、わたし自身も母の決めた通りにしていれば安心と思うようになっていたんです。
だから・・トイレに行くことさえ、母に決めてもらっていました。

わたしはそれが・・母の愛だと思って育った。

母に言われた通りの大学に入り、言われた通りに教員になった。
ある時、母がわたしを見て言ったんです。

(回想:由希ちゃん、ちょっと太ったんじゃない?)

その一言でダイエットを始めました。
太ると、母に叱られる。
思った通り体重は落ちたけど、拒食症になってました。
すると今度は

(回想:由希ちゃん、大丈夫?そんなに痩せて。どこか具合悪いんじゃない?)

母に心配をかけてはいけない。
太らなくては。
今度は、食べて・・食べて、食べまくりました。
そして食べ飽き・・
そうすることで、安心感を得ることが出来たんです。

どうしてだか判りません。
もうわたしがわたしでなくなってしまったんです。

わたしは本当は・・
教師になんかなりたくなかった。

母はわたしを支配し、わたしの人生に乗り移ったんです。
自分が挫折した教師の夢を、わたしを使って果たそうとした。

だから・・
だから・・
わたしは・・母を裏切りたかった。
あの人を失望させたかった。
だからわたしは

さくら:

もういいわ。
もういい。
まだあなた若いんだから。
ね、これからやり直せるわよ。

(涙目でさくらを見遣るが無理だとばかりに頭(かぶり)を振る)

さくら:お母さんから離れて、一人でやり直すの。
由希:母と・・
さくら:えぇ。

(天を仰ぎ)

由希:そんなの無理です。
さくら:え?
由希:母が居ないと生きていけないんです。




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由希の帰りを心配する母から電話が入った。



今母を断ち切らないと
このままずっと母に支配されたままになる。



身を案じ、心配するさくら。
母の支配から逃れられない由希。

スマートフォンを取りあげてでも断ち切らせようとするさくら。
母の電話に出なくてはまた叱られると泣きながら抵抗する由希。



取っ組み合いになっていた時だった。
さくらが掴んだ由希の左手首にリストカットの痕があった。



ボロボロになって
それでも母との関係を断ち切れない由希。

誰にも相談出来ず
自分を壊すことでしか SOS を発せられなかった由希が

決して見られたくはなかった自分の弱さの痕を見られたことで
もう強がる必要はないと思ったのだろう。



その場で泣き崩れた由希。
助けを求めた。



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同じ母親同士伝えたい想いがあった。
さくらは、由希の母に会いに出掛けた。



事実を告げ、なぜそうなるに至ったのか。
由希の想いを代弁した。



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母:売春?
さくら:えぇ。

母:

嘘です。
あの子がそんな・・穢らわしい。

さくら:

そうね。
由希さんは自分を穢してしまったわ。

母:なんて馬鹿なことを・・

さくら:

でもね、お母さん。
そうさせてしまったのは、あなたなんですよ。

母:私が?

さくら:

由希さんは、小さい時からなんでもあなたに決められてきた。
食べるもの、着るもの。
トイレ・・そして、未来まで。

母:それが母親の愛ってもんです。
さくら:愛?

母:

母親の愛は、子どもにとって空気みたいなもんなんです。目には見えないけど、いつでも子どもを包んで、なくては生きてはいけないようなものなんです。

さくら:その空気が濃過ぎたら、子どもは息が詰まるわ。
母:息が詰まる?

さくら:

だから由希さんは、食べては吐き、食べては吐き。
そうやって、自分を壊そうとしてるんです。

母:

あなたに何が判るの?
私と由希ちゃんはねぇ

さくら:

判ってないのはあなたでしょ!
あなた・・由希さんの手首に一筋の傷痕があるのは知ってますか?

母:傷・・
さくら:そんなに古くない傷よ。
母:・・まさか

さくら:

あなた・・
ねぇ、由希さんの何見てきたの?

(由希のすべてが記録された異様とも言える一室を見渡して)

あなたは由希さんのすべてを知ってる。
ありとあらゆることを知ってる。
こうやって彼女の人生を狭い部屋の中に閉じ込めて、すべてを判ったつもりでいる。
でも、誰でも気が付くような傷を、あなた、見てない。
そんな人間に、由希さんの心の傷が見えるはずがないわ。

何度も・・死のうって考えてたそうよ。
でも、死ねなかった。
だってそんなことしたら、あなたが悲しむから。
お母さんを悲しませたくない。
だから、由希さんは必死で生きてきたんです。
死なないために、自分を死に追い込まないために、彼女は摂食障害になったんです。

さくら:

はぁ・・
あの・・
これ、見てください。

(床に置いていたバッグから写真立てを取り出すさくら)
(写真が見えるようにテーブルの上に置き)

わたしの息子です。
この写真撮った次の日に、もう・・(写真をバン!と叩き)死んじゃったんですよ。
バイト先で、事件に遭ってね。
明るくて、正義感の強い子でした。

この子の部屋、16年前のまんまなんです。
そうしておけば、いつも息子と生きてるような気がして。

いやぁでも、この前娘に言われちゃったんです。
『それが自分にはとっても重かった』って。

(写真立てを裏返して)

さくら:わたし、息子から巣立とうと思います。
母:巣立つ?

さくら:よかったら、一緒にどうです?
母:私も?

さくら:はい。




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『たまりば』で、さくらは由希に親子丼を振る舞った。
でもその味は、いつもと違っていた。



味には理由があった。
由希がどうして親子丼に惹かれたかの訳も。



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由希の母を自宅に訪ねた折
由希のすべてが詰まった部屋で
さくらはあるものを見つけていた。



それは、幼い頃の由希の習い事のスケジュール表。
水曜日の夜のところにはこうあった。



『おやこ丼の日』



夜の塾の時間までにちょっとだけ余裕があり
この時だけは自宅で母の作るあたたかいごはんを食べていた。



『短い時間でぱぱっと作れるから親子丼にしていた』

母からの言葉をさくらから伝え聞いた由希は
週に一度の母の味を何よりも楽しみにしていたことを思い出していた。

今はもう作ってはくれなくなった親子丼。
心の拠り所だった親子丼。

だから壊れそうな自分をつなぎとめるためにと
『たまりば』へと足しげく通っていたのだった。



『母の味です』



さくらは『お母さんに教えてもらって作ってみた』と言うが
由希の言葉を母は台所の奥の階段で聞いていた。



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親子丼は、巣立つ子への餞別だった。



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由希が何度目かの『たまりば』を訪れた時

テーブル奥の指定席
自閉症で社会から孤立し居場所を失った常連の玉置玄(たまき げん)
愛称『げんさん』がクレヨンで花を描いていると

『綺麗な花ね』

色鮮やかな花の絵に見入る由希に

げんさんは描く手を止めることなく
誰に言うでもなくつぶやいた。




花。
花。
花。
花は、誰のために咲きますか?




『誰のため?』
ハッとした。



あの時は、母親のためだと信じて疑わなかった。
でも今は、あの問い掛けへの答えが自分の中に芽生えていた。



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母はさくらと共に子どもの物を処分し
父と故郷の新潟で暮らすため家を出て行った。



由希は教師を辞め
本当になりたかったイラストレーターへの道を歩み始めた。



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花は、自分のために咲くのだと。



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【シリーズ】 『がん』をかんがえる
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-category-64.html

ここで末期がんで『早ければ余命3週間』と告げられ
緩和ケア病棟へと転院した父のことを綴ってきました。



父との闘病生活の伴走は
11月9日(木)現在3ヶ月弱に及んでいますが

この間転院前の救急病院で
定期的に相談窓口に来てくださる臨床心理士さんに

幼少期の両親による365日皆勤賞の虐待と全否定
理想の息子を演じることが強いられた生きづらさ
いじめを苦にした中2の自殺未遂以降繰り返してしまった摂食障害や自殺未遂のこと
家庭内不和による積年の親子の確執
それ故の父との関係をどうしていけばいいのか(距離感など)

姉や結婚したパートナーにも思うように言い出せない心情を
幾度となく吐露してきました。



家族の中で影響力(=父に代わっての決定権)を持つキーパーソンという立場
長男
男だから

そうした理由で次々にのしかかる
周囲から否応なしに乗せられる

重圧
責任
命に関わる重い決断
湧きあがる不安

これらに押し潰されそうになるぼくが
どれほど自分を壊すことなくこの窓口で救われたことだろうと思います。



緩和ケア病棟の空きの連絡は
事前に聞いていたように本当に急で

臨床心理士さんにお礼を伝えることも出来ぬまま転院の運びとなり
その後もバタバタしてお礼を言えずじまいでした。



ただ

父が加入している共済金の請求で
必要となる書類を病院へ取りに行かなければならないことがあって

ちょうどその日は臨床心理士さんが窓口に来ているとき。



これを逃すと次はいつになるか判らないからとお声掛けし

お世話になったこと
転院先での父の様子など

あれやこれやと積もる話をしました。



帰り際臨床心理士さんは
ぼくにこんなことばを贈ってくれました。



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『これからは、ご自身の人生を生きてくださいね』




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幼少期の両親による365日皆勤賞の虐待と全否定
理想の息子を演じることが強いられた生きづらさ
いじめを苦にした中2の自殺未遂以降繰り返してしまった摂食障害や自殺未遂のこと
家庭内不和による積年の親子の確執
それ故の父との関係をどうしていけばいいのか(距離感など)

心情を吐露し
救いを求め
父との3ヶ月弱を駆け抜けてきたぼくへの

臨床心理士さんからの餞別だと思いました。



父が亡くなった後ではない。
父一色ではなかった。
父が生きているこのタイミング。



巣立ちの時です。