~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

友達以上友達未満

Photo:Rain Drops By:Brian DePalo
Photo:Rain Drops By Brian DePalo



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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                  355通目



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医者は、大抵友達が居ない。
会えるのは、患者か、医療関係者だけ。

そもそも友達って必要?

毎日が過酷すぎて、自分のことで精一杯。
誰かと時間を過ごす余裕なんてない。

翔陽大学附属北部病院 翔北救命救急センター
フライトドクター 緋山美帆子(ひやま みほこ)の語り
http://www.fujitv.co.jp/codeblue/chart/index.html

コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-THE THIRD SEASON #8『孤独な夜』




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『走ってると、耳が風の音でいっぱいになって、空に溶けてるみたいになる』


風の音を聴く少女 橘(たちばな)あきらは
http://www.koiame-anime.com/character.html

風見沢高校陸上競技部の選手になっていた。



『小説は恋人』

早稲田大学文芸サークルで小説家を志し
書いて書いて追って追った青年 近藤正巳(こんどう まさみ)は

ファミリーレストラン『Cafe レストラン ガーデン』の店長になっていた。



TVアニメ『恋は雨上がりのように』第10話『白雨』に、こんな場面があった。
http://www.koiame-anime.com/



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幼少期からの変わらぬ俊足ぶりで
陸上部のエースと目されるまでになったあきら。

ある日の練習

右足首に違和感を覚えてテーピングをしていたが
大したことはないと自己判断。

大会が近いことからも
周囲の期待からも

練習に臨んだ。



だが

スタートしてしばらくすると
パン!という鋭い音とともに失速。

その場に倒れ込んだ。



右脚が動かない。
すぐに病院へと運ばれた。



アキレス腱の断裂だった。



医師からの説明に涙する母の隣で
表情ひとつ変えずに説明を聴くあきら。

車椅子生活を余儀なくされ
松葉杖で歩けるようになってからも

教室では誰とも交わらず
心は死んだようになっていた。



陸上部は退部。



リハビリを行う整骨院へと通い始めても
からっぽの心は晴れぬままだった。



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ある日の整骨院帰り

自身の心と似て
どんよりした曇り空の下を歩いていると

ぽつぽつと雨が降ってきた。



家へと帰る気持ちになれず
かといって何処かへ行きたいわけでもない。

行く宛もなく
傘もささず街を濡れ歩いていると

視線の先にファミリーレストラン
『Cafe レストラン ガーデン』があった。



雨が降ると傷が痛む。

それだけでも憂鬱なうえ居場所もなく
心の置き所もない。

そんな自分を持て余すかのようにお店へと入ったあきら。

なにか注文しなければと
ストロベリーパフェを頼んだ。



とりあえず頼んだもの。

味もせず
ただただ平らげ
雨が降りしきる様をぼぉっと眺めていると

湯気と香りがあきらにそっと寄り添ってきた。



テーブルに差し出されたホットコーヒー。




『あの・・アタシこれ、頼んでませんけど』


運んできてくれた店長と思しき制服を着た店員は
戸惑うあきらにこう言ってくれた。

近藤との出逢いだった。




『サービスです。ただ雨が止むのを待ってるだけじゃ、つまらないでしょう?』




それでも口をつけないあきらを見た近藤はブラックが苦手かと思い

即興の手品を披露して
手からコーヒーフレッシュをパッと出し置くと

あきらの顔にほんのり花が咲いた。




『きっと、すぐ止みますよ』




笑顔を添えて言い
立ち去る近藤の後ろ姿をあきらは見つめていた。



筆でまあるく円を描くようにフレッシュを注ぎ
コーヒーがキャラメル色に染まっていくと
テーブルに陽が差した。



『あの人の言ったとおりだ』



立ち去ったバックヤードの方へと顔を向けると
暖簾の合間からスタッフになにやら小言を言われ
ぺこぺこしている近藤の姿が見えた。



どこまでも良い人のようだ。



お店を出て空を見上げると
雨はすっかり上がり青空が広がっていた。



陽の光に街が包まれ
あきらもまた包まれていた。



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陸上を失った心の雨はいつしか止んでいた。



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心の雨に傘をくれた近藤。
あきらの胸にはときめきが宿っていた。



近藤の傍に居たい。
近藤のことをもっと知りたい。



お店の案内でアルバイトを募集していることを知ったあきらは
横浜からわざわざ通ってガーデンで働き始め

パートの久保が『バツイチ子持ち』『一生店長止まり』
いつでも何処でも誰にでもぺこぺこ頭を下げてばかりで
うだつが上がらない45歳の男と評するなかでも

アルバイトの西田から加齢臭で『臭い』
『話す時は口呼吸してる』と言われるなかでも

自分だけの魅力を密かに見つけては
近藤への恋心を募らせていった。



そうして募りに募った恋心を『好きです』とストレートにぶつけるが
人として好意を持ってくれていると勘違いされたり

募りに募った恋心を再度『好きです』とストレートにぶつけても

傍からどう見えるか(援助交際 or パパ活)であったり
若さ眩しいあきらに比べて夢も希望もないからっぽの中年だし

また従業員の関係との立場から近藤は
あきらの想いに正面切って応えることはできず

袖にするでもなく
大人の対応という落とし所

『友人』という形で応えることを選んでいた。



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『友人』を選んだのは、周りの眼だけが理由ではない。
若さと純粋さを持ち合わせない近藤。
自分が傷つきたくなかったのだ。



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何の気なしに口にしたデートや連れ子とのふれあい
自宅を訪れたりして近藤のことを知ってくなかで

本の虫であり
純文学が好きだと知ったあきらは

自宅にあった古紙回収に出す古新聞の束に
横浜赤レンガ倉庫で開かれる青空古本市のチラシを見つけると


『友人として、オススメの本を教えていただければ』


もっともっとお近づきになりたいと近藤を誘った。




『任せてよ』


晴天の下嬉々としてやって来て胸を張る近藤だったが
古本市に学生時代の馴染みの店主が出店していて
意気投合して学生時代へとタイムスリップすると

誘ってくれたあきらをほったらかしにしてお願いも忘れ
店主がここぞとばかりに持ってきた本に夢中になったり

(店主曰く眼鏡をかけて読みだしたら周りが見えなくなる)

店主が古道具屋から頼まれて置いているという古葉書を
あきらが見ている間にひとり何処かへと消えてしまい

店主ともども呆れさせる。



ただそんな近藤をあきらは怒るでもなく
むしろ微笑ましく思って待つことにした。



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『?』一文字だけのメールを送って。



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馴染みの店主が居る場所へとやって来た時近藤は
物珍しげに古葉書を手に取るあきらに店主とこんな話をしていた。



フランスの作家ヴィクトル・ユーゴーが
自身の本の売れ行きが気になり出版社へと
『?』とだけ書いた手紙を送った。

すると出版社からは売れ行き好調を意味する
『!』とだけ書かれた手紙が届いた。



いまいち意味がつかめずきょとんとするあきらに近藤は

これが『世界で一番短い手紙』と言われているもので
ユーゴーと出版社の間に確かな信頼関係があったから
『?』『!』だけでやりとりができたんだと言い

他の人にはどうってことない文面かもしれないが
あきらが手にしている古葉書の短い文面の中にも
本人たちにしか判らない想いが詰まっているんじゃないかなぁ

ロマンチストに話していたことを憶えていたあきらは
近藤に『?』とだけ書いたメールを送ったのだった。



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代る代る古葉書を手に待つあきらのスマートフォンに
メールが届いたことを知らせるベルが鳴った。



『!』の文字。
『通じた』あきらの胸は躍っていた。



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すっ飛んで帰ってきた近藤は
ほったらかしにして自分だけ楽しんでしまったことを平謝り。


『そういうことって、誰でもあると思うので』


鷹揚なあきらに近藤は
店主が持ってきた本の中からどうしても欲しい本があり
値切って買うための条件に出されたセットの古葉書一枚を

お詫び代わりにあきらにプレゼントすることにした。


『さっきから気になっていて』


手にした古葉書には
こんな言葉が綴られていた。



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お手紙拝見。
忘れることのできないものは
無理に忘れることはないと思います。

季節が巡ったら、
またお会い致しませう。




                    *



数日後の Cafe レストラン ガーデン
オフィスで休憩に入ったあきらが
デスクでパソコンに向かう近藤に声を掛けた。



あの時の古本市で近藤を待つ間にタイトルが気になって手にした
夏目漱石(なつめそうせき)の小説『それから』。

文庫の中に使い込まれた栞が入っていて
お店に返した方がいいのかと問うあきらに

近藤はこれも本の一部であり
これもまた古本の魅力だからこのままにしていいと

あきらに文庫を渡そうとした時だった。




『大発見!』


思わず声をあげると
栞を陽に透かした。

クローバーが添えられた栞に
燕のシルエットが浮かんでいた。



透かしとして最初から入っていたというよりも
箔が剥がれてこんな姿が浮かびあがったのだと思うと

あきらの心はプレゼントしてもらった古葉書の文面と併せて
巡り逢いになにかを感じずにはいられなかった。



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近藤:燕と言えば、そこのドアの所に燕の巣があったんだけど
あきら:え?そうなんですか?

近藤:久保さんが壊しちゃったんだぁ・・
あきら:えっ!!

近藤:

糞が酷くてねぇ。
飲食店だから仕方ないけどね。
悲しかったなぁ。

(慌てて窓を開け巣を確かめようとするあきら)

近藤:

あぁ、いやいや。
雛が皆巣立った後ね。

(あきらの視線の先には既に壊された巣の跡)

近藤:

一羽だけ、なかなか飛び立たなくてねぇ。
ひやひやしたもんだけど、無事みんな巣立っていったよ。


(栞を手に風に吹かれ空を見上げるあきら)

あきら:もしも
近藤:ん?

あきら:仲間と一緒に飛び立てなかったら、その燕はどうなってしまうんでしょうか?

(近藤の眼に、あきらの怪我をした右脚が映った。燕の巣は陸上部、飛び立てなかった最後の一羽はあきらなのだろうと思った。『飛び立たなかった』のか、『飛び立てなかった』のか。言葉を選びながら、恋い焦がれていたものを失った、報われない挫折を知るからこその自分だけの言葉を紡いだ)


(近藤は小説家になりたいと学生時代から小説を書いて書いて書きまくってきた。だが芽が出ない。同じサークルで仲の良かった同級生 九条ちひろが学生時代に書き上げた作品で文壇デビューし、才能というものを嫌というほど見せつけられた。それでも諦めきれずに追いかけて、追いかけて、周りの人間も傷つけて、離婚しても、今もまだ諦めきれずに人知れず書いている。あきらと出逢ったことで沸沸としたなにかが自身の中で芽生えたこともおおきいが、『俺の文学への想いは誰も救うことができないのか』そんな鬱屈した想いにも独り苦しめられていた)


近藤:

飛び立てなくても、其の地に留まって得る幸せもあるかもしれないねぇ。仲間たちのことも忘れて。でも、その燕の飛び立たなかった理由がただの諦めであったとしたら、きっと毎日空を見上げることになる。ずっと・・永遠に。

なんてな・・ははははは。
いや、ごめん。
喋りすぎたね。

(持ったままの文庫と栞をあきらに返して)
ああ、これ、ありがとう。

もう、古本市の時といい、最悪だな俺は。

(デスクへと戻り、椅子に腰掛ける近藤。受け取った栞と文庫を手にしたあきらの胸には、出逢った時のこと、出逢ってから近藤が贈ってくれた言葉が綺羅星の如く湧きあがっていた。そして、古本市で近藤を待つ間店主から近藤が小説家を目指し、自分でも書いているはずだと聞いたこと。以前連れ子を送り届けるために近藤の自宅を訪れた折、障子の隙間から偶然目にした書斎。机の上の書きかけの小説と思われる原稿用紙を思い出していた)


(あきらの持ってきたドリンクの氷がカタリと音を立てた)

あきら:店長。
近藤:ん?

あきら:アタシは、店長の言葉が聞けてうれしいです。
近藤:え?お、俺の?

あきら:店長の言葉をもっと聞きたいですし、いつか店長の言葉を読んでみたいです。
近藤:お、俺の言葉を?

(デスクに置かれた黒い手帖を見て)
(いつも店長のことを見ていたから)

あきら:店長がメモを取るのは、いつか書く小説のためですよね。

(立っていた窓際から一歩歩み寄って)

近藤:こ、こんな俺の?
あきら:そんな店長だからです。


あきら:

それから、本当に飛ぶことを諦めた燕は、きっと空を見上げることも忘れてしまうでしょうから。

(空を見上げるあきら)
(そっと手帖に手を乗せた近藤は心の中で呟いた)

近藤:

燕は知っている。
雨の当たらぬ場所は、陽も当たらぬ場所だと。


(自分で持ってきた飲みかけのドリンクの入ったグラスと近藤が飲み干したコーヒーカップをお盆で片付けながら、あきらはこう言って仕事へと戻っていった)

あきら:アタシ、店長の書く小説、きっと好きです。

(一礼してオフィスを出るあきら。姿が見えなくなると、45歳、男、店長、小説への未練、才能無き自分、同級生への嫉妬、傷つけてしまった人たちのこと、強がっていた心の紐が緩んだ。まさかこんな形で言ってもらえる機会が訪れるなんてという苦笑いと綯い交ぜになって)


近藤:

ふっ・・
はは・・

『許されたい』、なんてそんな大袈裟なことじゃない。
けれどずっと、誰かに言って欲しかった。
『それでもいい』と。


ありがとう。




                    *



近藤は、空を見上げていた。



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知人
友人
親友
心の友

上司
部下

先輩
後輩

彼氏
彼女






ふたりの人間を眼にしたとき
どうして人はすぐに関係性を考えてしまうのでしょう。



どうしてランク付けしたりカテゴリー分けした何処かに
相手を分類してしまうのでしょう。



どうしてふたりが男女だと年齢差があると
週刊誌のスキャンダラスな記事のように
痴態や邪なことを想像してしまうのでしょう。



どうしてそうせずにはいられないのでしょう。



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ある日のバックヤード。
休憩中のあきらが現代文の補習プリントを広げていた。

芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)の『羅生門』
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/127_15260.html

近藤は、思わず声をあげてしまった。
偶然にも最近読み返していたからだ。



椅子からおもむろに立ち上がると
雨がしとしと降る窓際へと立ち
冒頭の一節を朗読し始めた。




ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。

(窓を開けると雨音が響き渡る)

下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖の尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。

(引用者 注:面皰=にきび)
(あきらは右頬にできたニキビに手を当てながら、まるで自分のことを言われているようだった)




個別指導の先生のように面と向かって座ると
あきらが考えあぐねる問題に助け舟を出した。




あなたは下人のとった行動をどう思いますか。
自由に書きなさい。




ひと目見て答えが各人それぞれあることに
悪問だと眉間に皺を寄せる近藤だったが

評価には関係ないとあきらから聴くと
それなら話は別だと嬉々とし

登場人物に自身を重ねながら読むことは小説の醍醐味だと
舌が滑らかになっていく。




近藤:

このままでは飢え死を待つばかりだった下人は、門の中である人物と出会う。死人の山から髪の毛を抜いて集めている老婆だ。その行為は、下人の眼には悪と映り怒る。しかし老婆は、かつらにして売るため、つまり生きるためにやっていると言う。すると、下人の心にある勇気が生まれてくる。飢え死を待つのではなく、盗人になる勇気。下人の中でそれまで悪だと思っていたことが、生きるためには善となったんだなぁ。いずれにせよ、含みを持たせたままこの物語は終わってる。

あきら:続き。
近藤:へっ?
あきら:続きとかないんですか?

近藤:

えぇ?
続き?

あっははは。
なるほど、続きねぇ。
今までそんなこと、考えたことなかったなぁ。
いや、実に面白い。

・・あぁ、いや、ごめんごめん。

続きはないけどね、芥川は、最後の一文(=下人の行方は、誰も知らない。)を何回か書き直していてねぇ。この前の文章では、下人は雨の中に飛び出して、町に強盗に向かっているんだ。芥川がどう思っていたかは判らないけど、前の文章を書いていた時には、盗人になる勇気が芥川の中でとてもおおきなものだったんじゃないかなぁ。俺はそう思ってる。

(しばらく考え込んだあきら)

あきら:店長だったらどうしますか?

(意表を突く質問に鳩が豆鉄砲を食ったような近藤)

あきら:店長が下人だったら、同じように盗人になりますか?

(現代文の教科書に眼を落としてうつむき)

近藤:

俺は・・多分盗人にはならない。いや、なれないかな。この歳になるとちいさく生きる癖がついちゃってるし、波風はできるだけ立てたくない。俺が下人だったら、門の下でずっと雨が止むの待ってると思う。

(開け放った窓の向こうの雨をふと見て)

もしかしたら、雨が止んでもその場から動けずにいるかもしれない。

近藤:橘さんだったらどうする?
あきら:えっ?あっ、アタシだったら・・

(雨で疼く右脚がどうしようといった表情で動く)
(答えに窮するあきらを見て意地悪しちゃったように感じて)

近藤:

はははは、ごめん。
ちょっと難しいよね。
これこそホントの悪問だ。

(そうつぶやきながら何の気なしに教科書を繰っていると、あきらが授業中に書いた店長との相合傘の落書きを見つけてしまい、『うわぁ』思わず叫び声をあげてしまう)

(叫んだ勢いで飛んだ教科書を手に取り、相合傘を見られて真っ赤になった顔を教科書で隠すあきら)

(あきらと目を合わせられずに横を向いてうつむく近藤)

近藤の心の声:

下人のニキビは若さの象徴。俺はもうニキビすらできないただのおっさん。今更考えを180度変えられるほどの勇気もエネルギーも持っていない。

(するとそこへフロアから店長を呼ぶ声。気まずい雰囲気から抜け出せるとばかりに『ハイ!今行きます!』椅子から飛び上がるように立ってフロアへと近藤は出て行った)




翌日。
月明かりに照らされた職員室。
机の上のあきらのプリントにはこうあった。




あなたは下人のとった行動をどう思いますか。
自由に書きなさい。

下人の勇気が、今後彼の人生に
プラスに働けばいいなぁと思います。
(続きが読みたいとも思いました。)




第8話『静雨』より。



                    *



怪我で陸上部を退部し

以来幼少期より共に走ることを楽しんできた
同じ陸上部の喜屋武(きゃん)はるかとの関係が

どこかギクシャクしてしまっているあきら。



なんとかしたいと思いながらもできずにいた時
ガーデンで店長がバックヤードに貼った
夏祭りのチラシを見てはるかを誘った。



ところがギクシャクを巡り
ふとしたことでケンカに。

誘ったことには後悔とかなかったが
夏祭り後も元気がなかった。



そんなあきらを見た近藤。

声を掛けると怪我で陸上がダメになり
部へ行かなくなったことで気まずくなって友達とケンカ。


『もう仲直りできないかもしれません』


うつむくあきらをなんとか元気づけられないかと
仕事を終えて帰るところのあきらを外へと呼び寄せた。



数日前近藤は

早稲田大学文芸サークル時代の学友で
今や超売れっ子の作家となった

九条(くじょう)ちひろと再会していた。



10年振りの再会。
言い合ったりもしたが、会って良かったと思える夜だった。



空を指差す近藤。
なんだろうと見上げたあきらを月光が包んだ。




あきら:あぁ♪・・満月。
近藤:そう。しかも今夜はスーパームーン。
あきら:スーパームーン?

近藤:

通常の満月よりおおきく、輝いて見えるんだよ。
願い事を叶えてくれるってジンクスもあるらしい。

あきら:願い事・・

近藤:

俺もさぁ、学生の時同じサークルで仲の良い奴が居たんだけどさ。特別喧嘩したわけでもないんだけど、なんとなく気まずくなって、疎遠になっちゃったんだ。

あきら:その人とはどうなったんですか?

近藤:

こないだ会った。10年振りに。楽しかったぁ。そう思えたのは自分たちが大人になったからだと思うんだけど、帰り際、奴が言ったんだ。

『俺達は大人じゃない。同級生なんだ』ってね。

(きょとんとするあきら)
(カッコイイこと言っちゃたかなと盆の窪に手を当て照れ隠しをする近藤)

へへっ。なにが言いたいかっていうとね

(小説家を志し、ちひろと共にペンを走らせた日々が宿る右手を広げて見つめ)

たとえ今、橘さんとその友達が離れてしまっているとしても、きっと一緒に過ごしたかけがえのない時間があったと思う。それは、どんなに時が経っても、決して消えてなくなったりしないよ。橘さんにとっても、その友達にとってもね。




あきらは夏祭りではるかと繋いだ左手を見つめると目を閉じ、祈った。




すれ違う想いに今は不安を感じていても、いつかまた満ちる日が来るよう、この満月に願いを掛けて。




第9話『愁雨』より。



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TVアニメは、ラスト一話。
http://news.noitamina.tv/after-the-rain/article/20180323_12th.html

原作のマンガは読んでいない。
http://top.tsite.jp/lifestyle/magazine/i/38437694/index

実写版の映画公開はまだ先だ。
http://koiame-movie.com/



映画の予告編には


『楽しかった陸上がダメになって、今は恋をしちゃってるんだ』


あきらに投げかけられることばがあったけれど

17歳の女子高校生だから
こっちがダメだからあっちなんていうほど

そんなに単純なものではないだろう。



ふたりの想いの結末は判らないけれど

近藤とあきらが口にする『友人』という関係
世間や他人が当てはめる関係性なんてものがたとえなくなっても

ふたりが共に過ごした時間は
決してなくなることはないのだと思う。



                    *




若さっていうのは、時に凶暴で乱暴なものなんだ。それでも、その時に感じた感情というのは、いずれかけがえのない財産になる。今は、判らなくても。

第7話『迅雨』
夏風邪で寝込む近藤が見舞ったあきらに掛けたことば




人間は、社会の中で生きる動物だ。

だから、他者との関係性をはっきりさせないと社会が混乱する。
肩書や役割がある方が居心地が良いし、じぶんを演じやすい。

社会も円滑に回っていくのだろう。



でも、近藤とあきらふたりを見ていると

知人
友人
親友
心の友

上司
部下

先輩
後輩

彼氏
彼女




こんなカテゴリー分けをして
なにがなんでも関係性を当てはめようとすることが陳腐に思えてくるし

そんなことさえも必要としない関係
名前のない関係もあっていいんじゃないかなと思う。



アンナチュラル第6話『友達じゃない』のミコトと東海林のような。
http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/chart/

anone のハリカと彦星のような。
https://www.ntv.co.jp/anone/chart/



この人と居たい。
この人と生きていきたい。



男と女
年齢差を越えた
心震える関係を前にしたときには。



                    *




確かに医者には、休日に一緒に買い物や旅行に行くような友達は居ない。
けれど、仲間は居る。
決して馴れ合いではなく、かといって敵でもない。

長い年月と体験の共有。

成功体験はもちろん、辛い体験、悲しい体験。
恥ずかしい部分も含めて、お互いをさらけだす。
そんな時間を経て、初めてわたしたちは仲間になる。

でもごく稀に、時間を必要とせず仲間になれる相手も居る。
生まれながらに通じ合える相手。
そんな人間と出逢えた人は、とても幸運だと思う。

だけど、せっかく出逢えたそんな相手とちょっとしたボタンの掛け違えで傷つけ合うことになってしまったら、運命は残酷だ。

翔陽大学附属北部病院 翔北救命救急センター
フライトドクター 緋山美帆子(ひやま みほこ)の語り

コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-THE THIRD SEASON #8『孤独な夜』