その背中 ~ エール篇 ~ - 白色の自己主張
~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

その背中 ~ エール篇 ~

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photo credit:gregt99 via Flickr (license)



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



                    *



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                    *



姉の5人の子どもの末っ子が
高校2年の2学期を迎えてしばらくして不登校になった。



繊細な子で気が弱く
人の顔色や評価を気にするところがあり

授業中やテスト中の静かなときに
胃腸の調子が悪いわけでも空腹でもないのに

お腹が鳴るようになったことが恥ずかしいと話していた。



うつ病の治療の可能性も期待される

脳腸相関
http://www.calpis.info/cp2305/

という研究もなされていて

いくつかの病院で診察も受けたが
原因がいまいち掴めず

次第に学校へ行くことが出来なくなっていった。



自分自身やおくすりで制御出来ない生理現象に対し
『気にするな』というのはまったくもって無神経な話で
男性でも女性でもいたたまれない気持ちになるのは容易に想像がつく。



『不登校』という言葉がなかった時代に
ぼくも高校時代不登校になったことがあり

姉から相談され
なにか出来ないだろうかと思案した。



美術部で絵を描きたい。
友だちに逢いたいから学校へ行きたい。
でも、どうしても行けない。



今の高校へこれからも行きたいという本人の気持ちが一番だから

おとなが先走って留年回避のために
通信制の高校への転校とか考えるのではなく

せいぜい保健室登校の情報くらいしか姉には伝えられなかったけれど
ただただ見守ることをぼくらは選んだ。



                    *



ぼくのことを『おにぃ』と慕うそんな彼女が
年が明けて早々うちへ遊びに来た。



パートナーとお出迎えし

一緒に買い物に行って
ごはんを作って
わきあいあい食べていたら

『ねぇ、前から聴きたかったんだけど、ふたりの馴れ初めってどんなの?』

と聞いてきた。



イマドキの高校生にしては古風な言い方をするもんだなと思いながら
彼女がまた笑えるようになれたらいいなと
巡り合わせの妙に恵まれたぼくらの出逢いを話した。



                    *



東京 ←→ 名古屋
日本 ←→ アメリカ

13年間の遠距離恋愛の末婚約した愛しき女性を
ぼくは挙式直前に病気で亡くした。



13年という時間は
数字上では13年というただの長さだけれど

ぼくらにとってはただの数字の13年ではなく

もっともっと濃密で
生の鼓動が波打つもの。

花も嵐も踏み越えた仲
生涯をともにした伴侶

と言ってもいいくらいだった。



それほどの人だったから
一生分の恋愛をしたと思っていた。

『もう人を好きになることなんてないのかも』
『もう人を愛することは出来ないのかも』

とまで思ったほどの喪失感だった。



その後ご縁あっておつきあいする女性に恵まれたものの

働きたくないから
主婦させてくれる人

専業主婦になれば学生時代の奨学金(=借金)を
ダンナが代わりに返してくれるからラッキー

そんな価値観で男性を選ぶ人だったり

今の仕事を辞めたいからと
執拗に結婚を迫る人だったり

理想の男性像を押し付け
痛烈なダメ出しを繰り返し
ぼくを彼女色に染めようとする人だったりで

『人を好きになるってどういうことなんだろう?』
『人を愛するってどういうことなんだろう?』
『そもそも恋愛ってどうやってするんだっけ?』

どんどんじぶんを見失って
どんどん恋も愛も判らなくなっていって

誰かに恋することも
誰かを愛することも出来なくなっていって

どんどんこころが壊れていった。



                    *



こころがカチンコチンに凍ってしまって

誰とも逢いたくなくなって
なにもする気力がなくなって
おうちにひきこもって

午前0時の日付変更線まで辿り着こうと
毎日地べたを這って這ってなんとか生きていたある日

のちにライフワーク

料理のチカラで Happy Smile Again
料理創作ユニット ケータリング・ヒーローズを
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-category-12.html

一緒に立ちあげることになる友人『だいちゃん』から


誕生日パーティー。日頃お世話になってる人たちのために、ささやかながらだけど開きたいんだ。来てくれる人もてなしたいんだけど、ヒロ、手伝ってくんないかなぁ。


電話がかかってきた。



ただ

人に会うのが億劫だったし
心身の調子もいまいちだった。

それにだいちゃんは本職のシェフだから
だいちゃんが腕を振るうのがいいと思った。



でも

『ヒロのオムライス、食いたいなぁ』

高校生のときオムライスの専門店で
アルバイトしていたことを知っていただいちゃんから

殺し文句のような
なんとも心憎いひとことを言われたら

『そんなこと言われたら引き受けるしかないだろ』

引き受けることにした。



ひきこもってはいたけれど
だいちゃんの誕生日をお祝いしたいと思っていたし

大切な友人であるだいちゃんの誕生日をお祝いしに来てくれる人を
料理でおもてなし出来るのは友人としても嬉しい。



裏方で料理を作ったり
飲み物を準備したりするわけだから

人に会うのが億劫でも
なんとか務まりそうだと思った。



それにひきこもっていたぼくに

外の空気を吸いに出かける機会を
さりげなく創ろうとしてくれただいちゃんの心意気に

応えないわけにはいかなかった。




主役は、だいちゃんだから。
料理作ったり、飲み物準備するのはぼくに任せて。
だいちゃんは、輪の中心にいなよ。


そう伝えてひとりキッチンで
黙々と準備に勤しんだ。



黙々と準備に勤しんでいると
こころにべったりと張りついたしんどい思いを
ほんのひとときであっても忘れられたから。



キッチン内に熱がこもってきて汗が出てきた。

メガネが曇ってしまうので外して
次に出す料理を作っていると

女性がひとりやって来た。




女性:

すみません。
飲み物なくなっちゃったから、いただいてもいいですか?

ヒロ:

あっ、気づかなくてごめんなさい。
なんでした?

女性:烏龍茶、いただけますか?

ヒロ:

あっ、はい。
ちょっと待ってくださいね。
はい、どうぞ。

女性:

ありがとう。
・・・そのお花、カワイイですね。

ヒロ:

これですか?だいちゃんに渡そうと思って持ってきたお花から一輪いただいて、一輪挿しにしたんです。お花があると、なんか、空間がやわらかくなるから。




そう伝えると女性は

微笑んで
軽く会釈して

輪の中へと戻っていった。



                    *



来てくださった方たちが大満足のうちに終わった誕生日パーティーの後
しばらくしてまただいちゃんから電話がかかってきた。




だいちゃん:

ヒロ。
おまえに逢いたいって人が居るんだけど、週末空いてる?

ヒロ:

うん。
予定入れてないから空いてるよ。

だいちゃん:

じゃ、日曜日。
名古屋駅の、金時計の下に11時な。

ヒロ:

うん、判った。
は~い。




話の流れに乗せられて『は~い』って電話を切ったけれど

ぼくに逢いたい人がいる?
誰だろう?

さっぱり見当がつかなかった。



                    *



日曜日

待ち合わせ場所として有名な
名古屋駅の金時計の下。

11時に間に合うようにおうちを出ようとしたら
またまただいちゃんから電話がかかってきた。




だいちゃん:

ヒロ、ごめん。
急な仕事入っちゃってさぁ。
おれ、行けないからあと頼むわ。
彼女の名前とケータイの番号。
さっき、メールで送っといたから。
パーティーに来てくれた人だよ。
よろしく。

ヒロ:

えっ?
はぁ?
あと頼むって言われても・・・
メール?
まだチェックしてないよ。
それに彼女って、女性なの?
パーティーに来てくれた人?

だいちゃん:

だいじょうぶ、だいじょうぶ。
彼女、白いコート着てるから。
じゃな、あとよろしく。
たぶん、すぐ判るから。

ヒロ:

えっ?
おい!

『ツーツーツー・・・』

話が噛み合わないうちに電話が切れた。
(というか、切りやがった)




アドリブに弱いぼくに『急に来れん』とか、なんなんだよもう。

女性なのかぁ。
それにしても誰だろう?

まぁいいや。
とにかく、待たせないように早く行かないと。



                    *



お昼前の日曜日ということもあって
金時計の下は待ち合わせの人でごった返していた。



写真はないから、目印は白いコート。

白いコート
白いコー・・・
なんだよ。
えぇ?
・・・流行ってんのか?白いコート。

よりによって白いコートを着た女性がわんさかいた。



こりゃ無理だわ。
電話したほうが早いな。

ケータイを取り出すと
なぜか圏外になっていた。

えぇ?
ココ、待ち合わせ場所だろう?
なんで繋がんないのさ。

周囲を見渡すと
ケータイで話している人がこれまたわんさかいる。



おっかしいなぁ。
どうゆうこと?
ぼくだけか?

時計を見ると
もうあと1分くらいで11時だった。

ココじゃダメだ。
外へ出てかけよう。



走り出てケータイを見ると
なぜか圏外になったままだった。



えぇ?
頼むわぁ。
なんで繋がんないのさ。
これじゃメールもダメじゃん。



もう時間がない。

だいちゃんは急な仕事で来れないし
そのうえぼくまで待ち合わせに遅刻したら

OK した手前申し訳ないじゃ済まない。



なんかないかな?
どうしたらいいかな?

なんかないかな?
どうしたらいいかな?

金時計下へと戻る道すがら
頭をぎゅ~んとうなりをあげてフル回転させ

どうやったら逢えるか考えていた。



なんかないかな?
どうしたらいいかな?

なんかないかな?
どうしたらい・・・

ふとだいちゃんの言葉

『たぶん、すぐ判るから』

が頭をよぎった。



だいちゃんのおうちで

ぼくは奥まったところにあるキッチンで
ひとり黙々と料理を作ったりしていたから

だいちゃんが気を利かせて取りに来てくれる以外
お祝いに来てくれた人とは顔を合わせていない。

居るのは、ひとりだけ。

でもメガネをかけてなかったから
ぼやけてしか見えなかった。



彼女となに話したっけ?

え~と
え~と・・・

飲み物!
烏龍茶!

次は?
次は?

かわいいとかなんとか・・・

あっ!
お花!

お花っていやぁ・・・
たしか、金時計の下に花壇があったはずだ。
(2017年9月のお花:http://www.towers.jp/topics/detail/71



キッチンで一輪挿しにしていたお花は

油が飛んだりしないようにと
隅っこの方にちょこんと置いてあった。

それを見つけてくれる人だ。
きっとお花が好きな人に違いない。



時計下の人混みをかき分けて花壇のところへ行くと
白いコートを着た女性がちょっとかがんで
ニコニコしながらお花を見つめていた。



名前を呼ぼうとしたら
ぼくに気がついてくれた。

そして


わぁ、見つけてくれてありがとう。
逢いたかったよ。


ほぼほぼ初対面だったのに
ぎゅっと抱きしめられた。



頭から湯気が出るくらい照れて
顔が真っ赤になった。



エッチなことを考えたわけでもないのに鼻血が出て

彼女も
周りもクスクス。

一気に和んだ。



                    *



天真爛漫で不思議な女性だった。



11時に待ち合わせて

JR セントラルタワーズのレストラン街へ出かけ
ランチをご一緒した。

ほぼほぼ初対面だったのに
ぼくは人見知りが激しいのに

話がまったく尽きなかった。



『ひきこもってて久しぶりに話せたから嬉しいのかも』
と思ったけれど、どうもそうじゃないみたい。



お店を変えて話し込んでも
お互い話が尽きなかった。

お店を変えて話し込んでも
お互い話が尽きなかった。

他愛もない話から
ほぼほぼ初対面じゃ到底話さないだろう深~い話まで

『なんでここまで話せるんだろう?』

なんて思いながら
お店を変えながら話し込んでいた。



どれだけはしごしても
お互い話が尽きなかった。



お店を変えるたびに

『手、つないでもいいですか?』

親密になり

お店を変えて入るのを待っているときに
肩に頭を寄せてきてくれたり

お店を変えるたびに腕を組んできてくれたり
どんどん親密になって

ほぼほぼ初対面なのに
なんだかもう恋人のようになっていた。



よくある計算高い女性のような胡散臭さはまったく感じない
自然体なままだった。



そうしてお店をはしごしまくって時計を見たら
もうとっくに終電を逃していた。




ヒロ:

タクシーで送るよ。
うちどこ?

彼女:新栄(しんさかえ)。

ヒロ:

新栄なんだ。
しんさか・・・えぇ?
ぼくも新栄だよ。




タクシーで着いて

お互いのおうちを冗談半分で
『いっせ~の~で』で指さしたら

方角こそ違ったけれど(← ↑ こんな感じ)
100メートルも離れていないご近所さん。

『目と鼻の先じゃん』
『ひょっとして逢ってたかもね』

真夜中の名古屋で
ふたり大笑いしてしまった。



こころの距離だけじゃなくて
おうちの距離まで近かった。



出会う人(=たまたま)ではなく
出逢う人(=逢うべくして逢う人)だったんだと思った。



                    *



そんな奇蹟としか言いようがない出逢い。
再会から始まったぼくらの関係。



気がつけばお互いマメに連絡を取り合うようになり
気がつけばお互い逢う回数が増え

気がつけばお互い一緒に過ごす時間が長くなり
気がつけばお互いのおうちへ出掛けるようになり

気がつけばお互いのおうちへお泊まりするようになり
気がつけばお互い一緒に住むようになり

気がつけばお互いの家族に挨拶へ出掛けるようになり
気がつけばお互い家族ぐるみでおつきあいするようになっていた。



『つきあってください』とか
『結婚しよう』とかもお互いなく

歩幅も
歩くスピードも変えずに歩いていたら

いつのまにか大切な人として隣にいた。



そしてぼくらは、かけがえのないパートナーになった。



だいちゃんがあのとき

『たぶん、すぐ判るから』

って言ってくれた理由が今ならよく判る。



『急な仕事入っちゃってさぁ』
あれがわざとじゃないかってことも。



                    *



人生には

『もしあのとき○○していたら』
『もしあのとき○○していなかったら』

そんな選択が

星の数ほど
砂の粒ほどある。



良くも悪くもなにかが形になるとき人は

『もしあのとき○○していたら』
『もしあのとき○○していなかったら』
『あのとき○○したからだ』
『あのとき○○しなかったからだ』

歓喜や後悔の入り混じったことを持ち出すことがよくある。



人によっては

意中の人に出逢う法則とか
人生大逆転の法則などと名付けたりして

さもそれが決定打であったかのように
さもありなんと語ることがあるけれど

ぼくはそうは思わない。



いずれかを選び
いずれかは埋もれる中で

なにかが形になるまでに積み重ねてきた

星の数ほどの
砂の粒ほどの

想い
決断
行動

苦悩
失敗
挫折


喜怒哀楽

出逢い
運など

このどれかがたったひとつ欠けただけでも
なにかが形になることはきっとなかったと思うから。



パートナーと出逢ったとき
ぼくはそんなことを思ったら

『もしあのとき○○していたら』
『もしあのとき○○していなかったら』
『あのとき○○したからだ』
『あのとき○○しなかったからだ』

選んだ選択肢も
選ばなかった選択肢も
じぶん発のあらゆるものも
なんだかすべてが愛おしいと思えたし

それからというもの

選んだ選択肢も
選ばなかった選択肢も
じぶん発のあらゆるものも
後悔の入り混じった埋もれるものも含めて

なにひとつまでもこころを込めるようになった。



『難しく考えすぎる』なんて言う人もいるけれど
ぼくにとっては至ってシンプル。

法則だの決定打だのなんてものはなく
あるのは『それが効いてるっぽいよね』だけだと思う。



あまたの if に彩られた世界



誰にもなにが効いたかなんて
ほんとのところは判らないのだから。



                    *



馴れ初めを話し
しばらくしたら
姉からメールがあった。


留年が決まる日になるところだったけど 保健室登校して授業に2時間出ることができました 今日も 2時間か3時間授業に出て帰ってくる予定です


とあった。



なにかが変わったのかなと感じた。



ふと

『そういえば、イラスト描くのうまかったなぁ』

思い出して

友人がカフェでお客様に配っているフリーパーパーに
絵心ないけどイラストを載せたいって話していたので

引き合わせてみたくなって彼女に話を振ってみた。



保健室登校というちいさな一歩。

お祝いも兼ねて
大好きなことで

背中を押してあげたくなった。



すると

『やってみたい』

すぐに返事が来たので引き合わせた。



打ち合わせに同席したら

話を聴きながらその場でささっと書き上げ
しかも友人のイメージに沿った満足度の高いもの。

舌を巻いた。



繊細であること。
気が弱いこと。
人の顔色や評価を気にすること。

一見どれもマイナスだが
相手が求めていることを敏感に察することが出来る強みでもある。

それが活きた。



喜色満面

気に入ってもらえたことで
毎号彼女のイラストを添えてくれることとなり

作家性の高さにも注目してくれたことで
メニュー看板の手書きも任されるようになった。



ぼくから口添えしたのは最初だけで
以降名前は一切出していない。

そこから先はぼくの身内だからという理由ではなく
純粋な実力の評価による友人らの紹介・クチコミで

イラスト
メニュー看板の手書き
リニューアルするフリーパーパーのデザイン
イベント告知のフライヤーや招待状
お客様へ贈るバースデーカードの制作などなど

横の繋がりでどんどん呼び込んでいった。



いつしかぼくが同席しなくても
ひとりでほいほいお店に出かけていっては
いっちょまえの仕事をするまでになった。



保健室登校はしばらくして出来なくなったけれど

それで落胆して
負のスパイラルに絡め取られるのではなく

大好きなことを芯に
こころのバランスを保つことも出来るようになっていた。



                    *



何者でもない自分



不登校になって
嫌というほどそんな気持ちと向き合ってきた。



ひきこもりで

食事など身の回りのことは
相変わらずおかあさん任せ。

心の不調で心療内科にかかったり
身体の不調で病院へかかったり

通信制への転入ともなれば
名古屋では一校除いて私立だから学費もばかにならない。

お金が出ていく一方で
家にひきこもっている自分は

誰かや社会の役に立つでもない。



なにも実のあることが出来ない自分という存在を
いつもいつも申し訳なく思っていた。



でもおにぃからイラストの仕事で声を掛けてもらい

仕事が仕事を呼び
人が人を呼び
チャンスがチャンスを呼び
運が運を呼び
お金がお金を呼び込んでくれて

アルバイト代で
おかあさんをちょびっとだけれど

助けることが出来るようになった。



通信制高校選びも
最初は迷ってばかりだった。



一度躓いてしまったから

また失敗したくない
もう時間を無駄にしたくない

そんな想いが強くて
みんなが一目散に卒業へと駆け抜けるなか

独り取り残された
置いてきぼりになった
周回遅れになった

カレンダーを見るたびに気持ちは焦るばかりだった。



『留年』の二文字が重たかった。
おかあさんに八つ当たりしてしまっていた。



でもおにぃからイラストの仕事で声を掛けてもらい

仕事が仕事を呼び
人が人を呼び
チャンスがチャンスを呼び
運が運を呼び
お金がお金を呼び込んでくれて

大好きなことをして手にしたアルバイト代で
通信制の学費も賄えるかもしれないところまで来れた。



                    *



こうした歓びの隣には

保健室登校
短時間での授業出席が一時出来るまでになったものの

『怖い』
『行けない』

再び学校に通えなくなっていた痛ましい現実もあった。



お腹が鳴ることが気になっているのにクラスの男子や
今まで仲の良かった友達までもがからかい始めた。

SNS で悪口を書かれたりして
LINE は怖くてもう見られない。



それでも学校には行きたいと

校内でお菓子類を食べることは禁止されているが
お腹が鳴らないようにと自分なりに必死に考えてこっそりクッキーを口にしていたら
女子たちに校則違反だとなじられ

教室内で食べられなくなると
トイレで食べていたという。



そこまでして行きたいという気持ちを踏みにじる生徒たちに
腹立たしい思いが煮えくり返ったが

なによりトイレで独りクッキーを頬張って
なんとかお腹が鳴らないようにと願っている彼女の姿を思うと

姉やぼくにそんな自分が惨めで言いたくても言えなかった気持ちと相まって
切なくて涙が出てきた。



躓いて
ふらふらで
よちよちだったけれど

自分の足で
歩いてここまで来れた彼女を

讃えてあげたいと思った。



                    *



今月4日
末期がんの治療で入院している父の誕生日プレゼントにと

先月彼女の誕生日祝いにと贈ったケーキを姉家族で囲んだ写真や
同じく先月姉(=おかあさん)と一緒に旅行したときの写真を

世界に一冊しかないアルバムとして手作りして来てくれた。



とかく沈みがちな入院生活で
久方振りに父に笑顔が戻った。

彼女には目をかけていた父だから
目尻が下がりっぱなしだった。



アルバムの最後のページには
みんなで父を囲んで撮った写真を貼ることが出来るようになっていて

闘病生活の苦痛で刻まれる眉間の皺も
このときばかりは消えてくれていた。



ぼくに出来ることなんてたかがしれているから有難かった。



                    *



100円ショップで売っているものをベースにしているとはとても思えない
どうみても市販されている写真集ではと思うような出来映えで
完成度と作家性の高さにあらためて感服した。



褒めそやしていたら8日には
ぼくの誕生日プレゼントを手渡してくれた。

パンが好きなぼくにと
パンのイラストが書かれたトートバッグ。

なんとこれもハンドメイドだった。



添えられたバースデーカードは
100円ショップで売っているものをベースにしているけれど

元は真っ白なカードにリボンが掛けられ
開くとケーキのポップアップ(=仕掛け絵本のような感じ)。

そこかしこにユニークなアイディアや遊び心が散りばめられ
風船などケーキ周りを添えるものもメッセージも全部手作りだった。



父へのアルバムも
ぼくのバースデーカードも
気がついたら朝4時までかかって仕上げていたという。



こんなにも夢中になれるものがあるってしあわせだなって思うし
この作家性を伸ばしてあげたいと思った。



同じく写真が好きな父と彼女をぼくが誘ったライフワーク

巡り逢う才を活かして 世界の片隅のちょっと素敵なひとときをカメラに
写真学校 ハートフル・ファインダー
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-172.html

で、集ってくれるみなさんのアルバム作りを頼んだ。



世界に一冊だけのアルバム作りを。



『やってみたい』
あのときと同じ声が返ってきた。



今はまだ自身の眠れる作家性を体系化出来ていないけれど先々

世界でたったひとりの人のために 世界で一冊だけの絵本を手創り
絵本工房 心の温度 +2℃
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-14.html

ここでぼくがやっているようなワークショップも
教えるのも好きなようなので

いつかは開けるようになるといいなと思っている。



イラストから始まって

メニュー看板の手書き
リニューアルするフリーパーパーのデザイン
イベント告知のフライヤーや招待状
お客様へ贈るバースデーカードの制作

などにまで広がった作家性。



創作に夢中になるなかでいつしか彼女は

全日制の高校への復学に固執するのではなく
通信制高校への転入もすすんで考えられるようになり

志望校というのかな

『ココへ行きたい』

そんな学校にも出逢えていた。



今は大好きなことと両立出来る通信制がいい。
胸を張って言える。
一時は、通信制を恥ずかしいと思っていたけれど。



                    *



『不登校』ということばがなかった時代



学校へ行かないことは『登校拒否』という
なにかいけないことでもしたようなレッテルを貼られた。



『不登校』ということばがなかった時代



学校へ行かない生徒を表現することばがなく
当てはめられたのは『不良』という扱いだった。



他人様・世間様の見る目はマイナスでしかなかった。
だから、学校へ行くことは義務だった。



でも今は、不登校がむしろプラスになる時代だ。



誰もが疑問を持たずに一目散に卒業へと駆け抜けるなか

躓いて知った痛みや苦悩
寄り道をして見た景色
回り道をして出逢った人たちは

きっと彼女を
思いもかけない場所へと連れて行ってくれると思う。



繊細な子で気が弱く
人の顔色や評価を気にするところがあったけれど
彼女の中には迷いのないなにかが芽生えているのだと思う。



                    *



今まで彼女はぼくの誕生日プレゼントを渡してくれたことはなかった。
いつもは姉家族と食事に出掛けることが毎年定番。

今回が初めてだった。

どうしてだろうと思っていたら
こんな気持ちを伝えてくれた。




いつ病院から電話がかかってくるかもしれないからって、おにぃ、ケータイ、寝るときもサイレント(=消音・バイブレーションも OFF)にできないって言ってたでしょ。ずっとママじぃちゃん(=ぼくの父)のこと考えててテンパってるでしょ。でもね、おにぃに誕生日忘れてほしくない。産まれてきてくれてありがとうの日だから。




                    *



誰かの背中を押す者は
いつかその背中がじぶんの背中になっているのかもしれない。



                    *