【シリーズ】 『がん』をかんがえる - 【シリーズ】 『がん』をかんがえる
~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

【シリーズ】 『がん』をかんがえる

Photo:Autumn Afternoon By:chibitomu
Photo:Autumn Afternoon By chibitomu



『がん』になった人は『気の毒な人』なんでしょうか。
『哀れな人』なんでしょうか。

末期がんが判った人
余命が告げられた人
もう出来る治療法がない人は『可哀想な人』なんでしょうか。



今から29年前
母が末期がんで余命3ヶ月と告知されたときからそんな評を見聞きし
ぼくは、ずっと考えてきました。



当時ぼくは14歳。
中学2年生。

『そんなわけない!』

芯のある想いを伝える術に恵まれず
色を作してことばの矢を放っていましたが

表現することばを持つ好運と幸運に恵まれた今なら
芯のある想いを伝えることが出来ます。



                    *



今ぼくは、父を看取ろうとしています。
主治医から『早ければ余命3週間』と伝えられているからです。



母も、父も、判ったときには末期がんでした。
『夫婦揃ってなんなんだよ』と思いました。



がんだと判ったとき
末期がんだと判ったとき
余命が告げられたとき

今まで実家の仏壇に手を合わせるとき

『父にまっさらな一日が与えられますように』
『父がちょっとでも良くなりますように』

とお願いしていたのが

『父がちょっとでも良・・

言い淀み
もう言えなくなったのだと気づいたとき

脳転移への放射線治療を始め

一日10分を20セット
約1ヶ月受けてきたために
20セット終えた後から頭髪が異様なほど抜け出して

『治療は焼け石に水か』と胸を痛めながら
コロコロでこまめに取っているとき

そして

治療の甲斐虚しく
もう出来る治療がないと判ったとき

こころは散りゆく秋のように
独り取り残されたような想いがしました。



『がん』になった人は『気の毒な人』だと思いました。
『哀れな人』だと思いました。

末期がんが判った人
余命が告げられた人
もう出来る治療法がない人は『可哀想な人』だと思いました。



ですが

父が末期がんだと判り
入院して治療してきたこの2ヶ月間

43年生きてきてこんなにも父と向き合いこんなにも父と話してきた
カルピスの原液をそのままごくごく飲むような濃い日々を過ごす中で

介護保険の申請と認定(=自宅へ戻れるかもという期待)
主治医からリハビリの指示(=回復の見込みがある)
作業療法士さんが定期的に病室まで来てくれてのリハビリ

リハビリ室へ向かってリハビリするときに備えて買ってきてほしいと頼まれた
ベッド下に置いてある脱ぎ履きしやすい靴

酸素吸入器が取れないとがんの治療は難しいと言われながらも
(=治療効果は一定のコンディションと引き換えなので)
原発や全身への転移のうち脳転移への放射線治療が始まったこと

10段階ある酸素レベルが一時『5』まで上がったが
今は『3』まで下がり落ち着いていること

嚥下障害があって飲むことも食べることも出来なかったけれど
昼食時のみ栄養価の高いゼリーが食べられたり
とろみ剤を混ぜてのお茶や水が飲めるようになったこと

このまま順調にいけば流動食あたりが食べられるようになるから
お茶を飲むのに使う軽くて落としても安心なプラスチック製のカップを
買ってきてほしいと頼まれ買い置いてあること

父のおせっかいで認知症 + ゴミ屋敷の孤立から脱した人たち
障害のある方の外出をサポートし世界が広がった人たち
父の人柄に惚れて早くまた一緒にボランティア活動をしたい人たち

そんな待っていてくれる人が居るということ・やることがあるということ
きょうよう(=きょう用事がある)
きょういく(=きょう行く所がある)

去年のクリスマスに大好評で
訪れた幼稚園や保育園から指名されて今年も是非にと
子どもたちが心待ちにしているサンタクロースのボランティア

ホスピスへの橋渡しをしてくれる相談窓口の方が本当に親身で
頼りになり気が利く人に恵まれたこと

そしてホスピス転院への前準備となる
ホスピス外来への予約が10月に取れたこと

そけいヘルニアの術前検査のレントゲンで
肺の腫瘍(=原発)が見つかった第一の好運と幸運

肺がんの治療開始を待つ間に肺炎を併発し
救急搬送されたのが一日遅かったら命を落としていたという第二の好運と幸運

『二度あることは三度ある』とお見舞いに来てくれていた親類と話していたら
キャンセル枠に空きが出てホスピス外来の予約が2週間早まった第三の好運と幸運
(外来を待つ間に患者様が亡くなったとも言えるわけで複雑ですが)

治療開始を待つときには外来受診や検査日程が決まる度に
予定が書き込まれたカレンダーに『これもダメ』『あれもダメ』と斜線を入れ

治療開始を待つ間に坂道を転げ落ちるように衰弱していったときには
今まで出来ていたことがひとつまたひとつと出来なくなっていたそんな父の周りに

当初はそけいヘルニアの手術を終えて
肺の腫瘍の治療にもある程度目途がついたら
自宅からかかりつけ医に通って治していくと希望を持ちながらもそれが叶わなかった父の周りに

『人生への期待』『希望』を散りばめることが出来た今
『がん』になった人を『気の毒な人』だと思うことはありません。

『哀れな人』だと思うことはありません。

末期がんが判った人
余命が告げられた人
もう出来る治療法がない人を

『可哀想な人』だと思うことももうありません。



悲愴感がないからです。



                    *



よのなかにはがん患者さんご自身の闘病記があまたあり
それらを集めた図書室や図書館もあります。

ですが『家族の側』から書かれたものは
まだまだ少ないように感じました。



家族としてどう向き合えばいいのか
綺麗事ではない赤裸々な想いを知りたいと思いました。



幸いにも父が入院している病院には

がん患者さん
元がん患者さん
患者さんのご家族

定期的な集まりがあるにはありますが
都合が合わないことも度々で孤立しがちです。



突然の告知に家族は途方に暮れます。
狼狽します。



検査結果が出揃うまでは診断名が付けられない
故に治療が始められない約1ヶ月
がんの進行をただ見ているしか出来なかった焦燥



治療開始を待つ間坂道を転げ落ちるように
一週また一週と日を追うごとに衰弱していく父を
介護の領域でしか世話出来なかったもどかしさ



外来受診で出た痛み止めの副作用で胃が荒れ
食べては吐くを繰り返して
食べるのが怖くなった父の背中を擦っていたときのあの手に残る感触

『とにかく検査結果が出揃うまで耐えてほしい』となだめすかし
『済まない』嘔吐する父の背中を見ながら涙した忘れ得ない痛み



検査結果が出揃うのを待ったことで肺炎を併発し
救急搬送が一日遅れれば命を落としていた愛嬌のない現実

これらをもたらしたことへの病院選びの後悔と
後の間違っていなかったという想い



感情論で抱いた医師への不信と真意を知った後の信頼



思うように治療効果があがらなかったり
出来る治療法があるのに受けられない
医療もお金も万能ではないという現実



家族としてなにが出来るのかという苦悩と

やるべきこと
やりたいこと

やれることのある歓び



病に倒れて親子の会話がぐっと増えた皮肉



『がんが治る』と謳う民間療法への甘言
末期がん患者・家族の藁にもすがる思いを喰い物にする輩に抗する術



虐待を受けて育ちながらも親の面倒を見るということ
男親と息子というややこしくも微妙な関係



実家で治療開始を待つ間日を追うごとに衰弱していき
おむつを必要とするようになった父を介護しながら

『こんなにまでなって生きたくないな』とか
『なんでオレがこんなことしなくちゃいけないんだよ』とか思ったり

吐瀉物や排泄物の臭いに
処理することに

露骨に顔を歪めたこと。



父(=兄)の妹の底抜けな明るさに助けられたこと
病に倒れて初めて知る父の息子への想い



昼間実家を訪ねたとき
今までなら『おぉ』とぶっきらぼうに出迎えてくれた父が居ない淋しさ



『いつ病棟から危篤の電話があるかも』と眠れぬ日々を過ごす心細さ
それ以外の用件でもびくっとなってしまう逃げ出したくなる気持ち



改めて思う

すべては遺言に
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想いを伝えることには旬の時期がある
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他の人の力や社会資源があるありがたさと心強さ



子ども時代は親から受け取るばかりだったのに
今もまだ受け取っていること



病室を訪ねる度に衰弱し痩せ細っていく父に
亡き母を否が応でも重ねてしまうこと



同じ『告知』でも
イベントの告知はス~イスイなのに『がん』となった途端

誰に
なにを

どこまで伝えればいいのかという悩ましさ



『末期がん患者だから』と接するのではなく
今まで通り『父』として接したいが
それ故に感情を押し殺してしまう矛盾



父と握手して病室を後にしたり
正面玄関で姉と別れたときふいにぶわぁっと涙が溢れ出る
あのやるせない行き場のない想い



生きづらさから7度の自殺未遂を繰り返し

『まだ早いって言ってんだろ、なんで来るかなぁ』
『いや、早く逝かせてよ。もうさ、しんどいんで。いつまで生きなきゃいけないわけ?』

『君はさ、まだ来る時期じゃないわけ。なんていうの、タイミングってのがあるんだよ』
『時期?タイミング?勝手に決めないでくれます?必要・必然・ベストなんて頼んでませんし』

『また来たの?だから、来んなって言ってんだろ。屁理屈こねないで帰んなさいよ、あっちに』
『そんなこと言わんと。そこをなんとか。せめて理由教えてよ、ぼくの人生なんだし』

畏れ多くも神様と生死の狭間でねちねちと押し問答したからこそ
父とこれでもかと向き合える景色がこの目で見られたこと



孤立しがちな方たちに向けて
これら綺麗事ではない赤裸々な想いを知ることで

気持ちをなんらかの形で表現し
悲愴感とサヨナラ出来たらと

今までこころの軌跡として書きためてきたものを

【シリーズ】 『がん』をかんがえる

としてまとめることにしました。



人生の最期に良い記憶・感情を持った大切な人を送り出せたら。
人生の最期に良い記憶・感情を持って大切な人を送り出せたら。



春に散る。



季節は巡り
読んでくださる皆様がほがらかな想いをこころに宿して
大切な人おひとりおひとりを見送ることが出来ますように。



                    *



下へ行くほど新しいものとなります。

永遠の二番手
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-358.html


http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-359.html

ヒロくんが、愛なんだよ。
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-360.html

『生きる』をかんがえる ~ 無限の樹形図篇 ~
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-361.html

履かないブーツ
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-362.html

その背中
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その背中 ~ エール篇 ~
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選択
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-366.html

『生きる』をかんがえる ~ 親孝行篇 ~
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-367.html

弱さ ~ ヒーロー篇 ~
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声 ~ さいごとさいご篇 ~
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-371.html

『生きる』をかんがえる ~ 想像力篇 ~
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-374.html

『生きる』をかんがえる ~ 余命篇 ~
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-375.html

持っている人
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-379.html

声 ~ 想像力篇 ~
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-380.html

宿る
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-381.html

花。花。花。花は、誰のために咲きますか?
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-382.html

贈りもの
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-384.html

Fin.



                    *



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