白色の自己主張

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声 ~ 想像力篇 ~

白色の自己主張
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photo credit:atacamaki via Flickr (license)



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



                    *



                  328通目



                    *



どうして『声』が聴きたくなるんだろう。
どうして『声』を聴くとホッとするんだろう。



                    *



NHK ドラマ10 『この声をきみに』 第4回『飛べ!くじらぐも』に、こんな場面があった。
http://www.nhk.or.jp/drama10/myvoice/



                    *




うまく言えないけれど、僕の心の中にはこう、埋めようのない、ぽっかりとした空間がある。このぽっかりのせいで僕は、この世に完璧な幸せはないのだとうすうす判っていた。

給食は美味しい日もあれば不味い日もあり、親父は些細なことでかあさんを怒鳴りつけ、女子は誰かをシカトし、先生は目立つ生徒ばかりをえこひいきする。

でも、僕はある日出会った。




                    *



厳格な父親から隠れるように
小学生の頃算数・数学に興味を持った穂波孝(ほなみ たかし)は
http://www.nhk.or.jp/drama10/myvoice/html_myvoice_cast.html

『メビウスの輪』に出会ったことで心のぽっかりが満たされ
http://bit.ly/2zgH6yO (やさしくわかる数学のはなし77 より)

人生初めての経験をもたらしてくれた
美しく完璧な数学の世界に魅了されていく。



中学生
高校生
大学生
大学院生になっても
その好奇心はとどまるところを知らず

気がつけば結び目理論を専攻する
大学の数学科准教授にまでなっていたが

偏屈で自分の世界を滔々と語り
学生のことをまったく考えない授業をしていたため受講生はまばらで

『なぜこの結び目理論の面白さが君たちには判らないんだ』

いつしか埋めようのないぽっかりが再び芽生えていた。



そんなある日

授業終わりのチャイムが鳴り響くと
いつものように皆終わった終わったとばかりに席を立つなか

ひとりの女子学生が教壇へ質問に訪れた。



初めてのことだった。



質問に訪れてくれることも。
結び目理論に興味を持ってくれることも。



孝は面白さをわかちあえる相手に出会えたことが嬉しくて

女子学生の奈緒(なお)は
偏屈だがどこか惹かれる孝に積極的にアプローチしていき

ふたりはデートを重ね結婚へ。



結婚によって再びぽっかりが満たされたことで孝は

妙な不安や
この世に自分が居ても居なくてもいいような虚しさから解放。

自分の存在には意味があるのだという幸せに包まれていた。



・・はずだった。



数年後

奈緒は孝に何も告げずに
娘と息子二人の子どもを連れて家を出て

実家へと戻ってしまっていた。



                    *



ある朝ソファーベッドで目を覚ますと
奈緒の代理人を名乗る弁護士から
面談を求める留守番電話が入っていた。



自分には妻が家を出ていくようなことに思い当たる節はない。
だから面談になんて応じる必要はない。
そもそもなぜいきなり弁護士を立てる?



納得がいかずしばらく突っぱねていたが

会って直接話がしたいと実家を訪ねても
奈緒の母親に拒まれ埒が明かない。

仕方なく孝は面談に応じたものの

『不貞行為もなければ暴言・暴力もない』
『給料はすべて妻に渡していて夫の務めは果たしてきた』

少々キレ気味に自分は悪くないの一点張り。



そんな孝に弁護士は

『何が悪いのか、理由が判らないことこそが問題では』

ぐうの音も出ない言葉を置いていった。



                    *



時期を同じくして学部長から

孝の講義を受講する生徒がまばらなこと
ゼミの生徒も一向に増えないことをチクチク言われた孝。

大学の講義や学生への態度はサービス業であり
自分さえよければいいという態度を改めるようにと

まずは『話し方教室』へ通うよう厳命される。



『40過ぎてカルチャー教室へ通うような男にだけはなりたくない』

常々そう思っていた孝ではあったが
学部長の命令とあっては行かない訳にはいかない。

しぶしぶ参加した話し方教室で孝は
最悪でもあり運命的でもある出会いをする。



当初講師を務めるはずだった男性に代わり
ピンチヒッターで登壇した江崎京子(えざき きょうこ)。



孝は屁理屈をこねては京子の指示に従わず
やる気のない態度で終始臨み
終了後は丁々発止を繰り広げてしまう。



そんな最悪の出会いと別れで去ったふたりだったが
思わぬところで再会を果たす。



結び目が大好物の孝が

大学へ向かう電車を間違え
同じ数学科の教授 東原(ひがしはら)から教えられた

仕方なく途中下車した駅の近くにある
立体交差する橋を嬉々として眺めていると

何冊もの本を抱えながら歩いてきた男性が
本をどさどさと落とした場に出くわした。



結び目を見ていたいが
放っておくわけにもいかず拾うのを手伝うと

その男性は先日参加した話し方教室で
本来登壇する予定だった講師であり

終了後丁々発止を繰り広げている京子をたしなめ
謝罪を促した男性 佐久良宗親(さくら むねちか)だった。



佐久良の自宅まで本を持ってきてくれた孝に佐久良は

自宅で朗読教室
『灯火親(とうかしたしむ http://yoji.jitenon.jp/yojib/838.html)』を開いていると話し

『ちょっと寄っていきませんか』

孝を誘った。



恐る恐る中へと入っていくと
そこではあの京子が中心となって金曜日夜のグループが
谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう)の『生きる』の群読をしていた。



初めて見る群読。
初めて聴く群読。
初めて味わう群読。



一気に詩の世界に引き込まれていった孝は

グループのメンバーには目もくれないで
群読を終えた京子の元へとずんずん歩み寄り

朴訥ながらも溢れる想いをぶつけた。



                    *




僕の心の中には、ずっと、埋めようのないぽっかりとした空間がある。僕はこの・・ぽっかりのせいで、子どもの頃からずっと訳もなく不安な気持ちになったり、寂しい気持ちに・・なったりしてきた。いや、これはきっと僕だけに限ったことじゃなくて、いや、きっと誰でもそうだ。

判ってるんだ。
この世に完璧な幸せなんてないってことも。
生きてる間は、このぽっかりと付き合っていくしかないっていうことも。

でも・・今、それが、一瞬満たされた。
・・あなたの声で。

だからその・・なんていうか・・
えぇ・・なんと・・

ありがとう。




                    *



丁々発止を繰り広げた
いけ好かない奴だと思っていた京子に頭を下げていた。



                    *



あの朗読教室での京子の声が忘れられない孝。
なぜだか理由は判らない。



正直『朗読なんて』と馬鹿にしていたが

自宅へ戻り
息子が使っていた国語の教科書を手に取ると

『くじらぐも』をふと読んでみたくなった。
http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~kokugo/nonami/2004zemi/kyoudou/3kennkyu.html



なんとか奈緒と連絡が取りたいと

娘と息子の転校先の学校へと出向き
下校する息子と再会したとき

『忘れ物』と言って息子へ手渡した教科書。



読んでほしいとせがまれ
『くじらぐも』の最初の2~3行を読んだところで

『重力無視も甚だしい』

父親の顔ではなく
数学者の顔で

鼻で笑ってしまったあの作品だ。



                    *



声に出して読み始めると
くじらの絵に涙がぽとりと落ちた。



嗚咽で読めなくなった。



理由は判らなかった。
ただ、子ども時代にもこんなことがあった。



                    *



京子の声が忘れられない。
『くじらぐも』を声に出して読んだ時のあの涙の理由を知りたい。
朗読を知りたい。



孝の足は、『灯火親』へと向いていた。



                    *



朗読教室の主宰者佐久良から歓迎された孝だったが

相変わらず話し方教室の時のように屁理屈をこね素直に参加せず
題材となる作品にはいちゃもんをつけ

偏屈さに輪をかけて
グループから浮いてしまっていた。



それでも最初にいろいろと話しかけてくれた
商船の船長 福島邦夫(ふくしま くにお)を入り口に

次第に孝も心を開き始め
朗読にも真剣に取り組み始めるとメンバーにも受け入れられ

数学の世界のように
朗読の世界にも虜になっていった。



ちょっとずつではあったが
孝は変わり始めていた。



京子先生にお願いをした。



息子を前にして鼻で笑ってしまったあの『くじらぐも』を読んでやりたいと。
『大切にしてる』『大切に思ってる』と伝わるように。



                    *



弁護士を介して話し合ってきた奈緒との関係修復はこじれにこじれ
孝も弁護を立てて話し合うしかなくなっていた。



離婚調停が申し立てられ
孝は自由に子どもと会うことも叶わなくなっていた。

それでも交渉し
2時間だけ子どもと面会する機会を得た。



その時に娘と息子に読んでやりたいと

想像するのがどうにも苦手で
それでも伝わるようにと
京子先生とマンツーマンで『くじらぐも』の朗読練習を重ねていた

ある日の離婚調停。



その席で孝は

『離婚する意志はない』
『自分に非はない』

改めて強気に伝えたが
奈緒の言い分を聴いて

その自信はがらがらと崩れ落ちた。



学会などで家を空けることが多かったが
4ヶ月もの間娘と一緒に過ごしながら
娘が苦しんでいた喘息にまったく気が付かなかったこと。

喘息に苦しむ娘は横になるとひどくなるからと
奈緒が座って寝かしつけたことになんら労うことさえなかったこと。

家事・育児は一切しないで居ながら
息子が朝食の時牛乳をこぼして
急がないと遅れるからとちょっとイライラ気味でせかしただけで

優雅に新聞を読みながら

『ヒステリックだ』
『教育上母親がそんなことでは良くない』

なじったこと。

それを苦にして心療内科を受診していたことも
そこでの助言を元に家を出ていたことも知らなかったこと。

家族のイベントよりも
家族の存在よりも
どんな時も家族よりも数学・数学で頭の中がいっぱい。

『もう孝の声さえも聞きたくない』とまで思っていたこと。



自分がいかに典型的なモラハラ(=モラル・ハラスメント)夫かを思い知らされ
孝は朗読したくらいで父親面しようと思っていた自分を恥ずかしく思った。



朗読の世界に足を踏み入れたことで

まるで理解出来なかった人の気持ちが
ちょっとずつだが理解出来るようになってきて

『これで奈緒のことも』

調子付いていた自分を恥ずかしく思った。



                    *



その日の夜は、金曜日のグループの日だった。



メンバーが
孝が『くじらぐも』の世界観をなかなか想像出来ないのを知って

『こうしたらどうだろう』
『あぁしたらどうだろう』

アイディアや表現の工夫をぽんぽん出してくれる中
孝は心ここにあらず。



外へ出て

玄関脇の
行燈が灯るテーブル席に独りぽつんと佇んでいると

邦夫が声を掛けてきてくれた。



                    *




邦夫:

大丈夫?
みんなでやるのは嫌だった?くじらぐも。

孝:いやぁ、とても面白い、みんなの想像は。
邦夫:ならよかった。

孝:

ただ、みんなに意見してもらって申し訳ないんだが、やっぱり僕は、う~ん・・ここには、いや、朗読には向いてない気がする。

邦夫:どうして?

孝:

怖いんだ。
想像するのが。

数学なら、宇宙の果てまで空想しても誰も傷つけることはない。
ただ、人の気持ちを考えるのは・・苦しい。
想像すればするほど、自分の無神経さに反吐が出る。

たった本を一冊読むぐらいで良い父親ぶろうとしていた自分が恥ずかしくて堪らない。
そして思い至るんだ。
今更いくらあがいたって、もう・・あの時間は永遠に取り戻せない。

それなら僕はもう、この窮屈な頭の中にくじらを閉じ込めておいた方がいい。
つまり、僕は朗読には向いてない。




                    *



孝の想いを帰ろうとしていて聞いてしまった

朗読教室へ入ろうかどうか迷っていた時孝から
『声優になんてなれるわけがない』とこきおろされ
『意地でもなってやる』とずっと一緒にやってきた

声優志望のメンバー稲葉実鈴(いなば みすず)。



聞き捨てならないとばかりに
しゃしゃり出ようとしたところを

邦夫が『大事な話をしてるところだから』
その場から連れ出してくれると

立ち聞きするわけではなかったが
心配して外に出てきていた京子が話し掛けてきてくれた。



                    *




京子:

余談ですけど、わたしは空想ばっかりしてる子どもでした、いつも独りで。
自分がお姫様になったらどんなだろうとか、魔法が使えたらどんなことをしようか・・
あっ、すいません、変な話。

孝:いや・・

京子:

その結果、あまりいい人生ではありませんでしたけど、でも、それでも、朗読に於いてだけは想像力があって良かったなぁと思ってます。

(ずっと椅子の背もたれに手を掛けながら話していた京子)
(先程まで邦夫が座っていた隣の席へと腰掛ける)

京子:

ほら、今はもう情報社会で、何も考えなくても勝手にこうどんどん情報が流れてくるでしょ。
だから、慣れてないんです、少ない情報で想像することに。

でも、朗読は声だけです。
声で世界を想像する。

だから、読み手は想像します。
どうしたらこの想いが伝わるのか。

すると、聞き手も想像します。
あなたが伝えようとしていることは何なのか。
どんな世界に連れて行ってくれようとしているのか。

そうやって想像力さえあれば、わたしたちは声でつながることが出来る。

孝:声でつながる?

(訝しげな孝にほんのり微笑んで)

京子:

はい。
わたし、人と人とのつながりは信じていません。
でも、この声のつながりだけは信じられる。

だから穂波さんも、怖がらないで読んでみてください。
くじらぐも。

孝:でも・・僕は・・

京子:

大丈夫です。
相手を思う心があるんですから。
自分の想像力と、あとはお子さんの想像力を信じてください。

伝わりますよ、きっと。




                    *



翌朝待ち合わせ場所の公園には
京子の言葉に背中を押された孝の姿があった。



娘と息子に『くじらぐも』を朗読するために。
『くじらぐも』の世界へ親子で羽ばたくために。



手には、あの教科書を持って。



                    *



末期がんで『早ければ余命3週間』と告知された父。
会話もままならなくなってきた父となんとか話がしたい。

試行錯誤を繰り返してきた軌跡を

声 ~ さいごとさいご篇 ~
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-371.html

に綴りました。



手作りしたお話キット。
そのどれもが今はもう使えません。

父の発することばはもう
『音』ではなく『吐息』だからです。



でも
それでも

今の父が発することばは
すべて遺言になるのだという想いから

口に耳がひっつくくらいにまで近づけて聴き取ろうとしたり
口の動きを読んでみたりしながら

『なんて話してくれてるんだろう』
『なにを伝えたいんだろう』

ひとつたりともぽろぽろ落としてなるものか
ひとつでも掬いあげたい

想像力を羽ばたかせて話しています。



                    *



幼少期に受けた虐待によって親子関係に亀裂の入ったぼくは
産まれて最初の人間関係の土台となる『家族』で躓いていたために
人と人とのつながりなんて信じられませんでした。



特に親となんて。



親子だから
父親(=男親)と息子だから
家族だから
血のつながり

もしぼくらがつながれるのだとしたら
こうしたものになるのでしょうけれど

どれもこれもぼくには信じるに値しませんでした。



信じられると思っても
どこかいつも疑わしかった。



それでも今溢れ出るように思うのは

こころの重心にどんとある
えも言われぬ実感。

想像力を介した吐息のような声のつながりが
父とぼくをつないでくれているのかもしれないという想い。



信じられる。
信じてもいい。

つながっている。
つながってもいい。

手を握っているようなあのぎゅっとした実感が、今ここにあります。



                    *




『増岡くん、想像力より高く飛べる鳥はいないんだよ』

                    *

アニメ『サザエさん』で、フグ田マスオ役を演じている声優 増岡弘(ますおか ひろし)さん。
http://www.fujitv.co.jp/sazaesan/character.html

学生時代友人に誘われるがままに演じることを始めたものの絵にも浮気心があり、『絵は後世に残るけど、演劇は一瞬。消えるものに意味があるのか』との思いから、演じる仕事はいつしかお金目当てに。

絵にも演劇にもどちらにも身が入らず、宙ぶらりんの生活を送っていた20代後半。劇作家 寺山修司(てらやま しゅうじ)さんと出会い、この言葉を贈られたことで演じる楽しさ・奥深さに目覚め、以来次々に仕事が舞い込むようになっていったと振り返っています。

毎日新聞夕刊連載 人生は夕方から楽しくなる
「マスオさん」役の声優・増岡弘さん から



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