白色の自己主張

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白色の自己主張
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Photo:Antique By:Vida Dimovska
Photo:Antique By Vida Dimovska



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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本物と偽物を見分けるコツは幾つかある

まずはルーツ
どこで産まれて
どこで育った物なのか
それをしっかり見極めること

もう一つはロジック

どんな物にも
その物体を構成する筋道があって
たとえば色
色は照らす光と反射する物体の特性によって
数値が決まる

赤は255:0:0
黒は0:0:0だ

色がついているのではなく
光をその色に感じるという『ロジック』だ

その証拠にどんな色も
暗闇の中では
感じない




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ドラマ24『新宿セブン』第4話に、こんな場面があった。
http://www.tv-tokyo.co.jp/shinjuku_seven/



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東洋一の歓楽街 新宿歌舞伎町で『七瀬質店』を営む
人も物も偽物を憎きまでに嫌う七瀬(ななせ)
http://www.tv-tokyo.co.jp/shinjuku_seven/cast/



今から30年前

裏社会を生きる父親代わりの男『セン』と共に
日本~アジア~日本と放浪している時

石を扱う露天で高価な物を当てるよう問題を出された。



まだ幼く鑑定眼を持つには程遠かったが
センは外した七瀬に石には運や相性があると言い


『坊が気になったんなら それは何か引き寄せられる理由があるんだ』


眠っている自分の力を引き出す石
『セイクリッドセブン』のネックレスをプレゼントしてくれた。



あれから30年後



七瀬は『新宿一の鑑定士』と呼ばれるまでの確かな鑑定眼を持ち

貴金属やブランドバッグなどにとどまらず
臓器や拳銃までありとあらゆるものが持ち込まれる質店を営み

裏社会にも通じ
『七つ屋』の愛称で引っ張りだこになりながら

人と物を巡る物語から絡み合った糸を解きほぐし
依頼人の悩みや問題を解決へと導いていく。



結婚し

『通帳はひとつにまとめたほうがいいよね』

妻から言われ
通帳を渡したその日から音信不通。

誰も信じられなくなり
仕事も失い
全財産をなくして新宿に流れ着き

死のうとしたところを七瀬に拾われた『健太(けんた)』。



『わたしを鑑定してください』

ある日血の付いたパーカーを着て質店に現れたものの
記憶喪失で何も覚えていない。

それ故所持品だけでは正確な鑑定は出来ないと
記憶が戻るまで七瀬・健太と共に働くことになった『華(はな)』。



コリアンバー『エルドラド』オーナーママで
七瀬の過去も知る情報通の『エリカ』

同じく新宿という街の情報通で
七瀬らの行きつけの中華料理屋を営む『シノブ』

彼らと共に。



新宿
この街で『セン』のことを調べ
『セン』を殺したヤツを見つけるために。



セイクリッドセブンのネックレスを片時も離さずに。



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アイドルとしてステージに立ち続ける『くるみ李穂(りほ)』
健太も大ファンの彼女が再び質店へとやって来た。



前回やって来た時は

グッズの売れ行きが良くなければ収入に結びつかないからと
ファンからのプレゼントの買い取りを依頼。

まとまったお金がいる様子ではあったが
この時は事情は判らなかった。



今回もプレゼントの買い取りかと思われたが
鞄からどさどさと出したのは父の遺品。

家族は居ないことになっていたが
『一応(家族)』と前置きしたうえで

父との関係を話した。



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李穂は、父と折り合いが悪かった。



李穂が小学生の頃

会社勤めを辞めた父がコンビニエンスストアの経営へと乗り出し
家族総出で昼夜を問わず仕事に励んだ。

励まざるを得なかった。



だが中学生の時母が倒れ
看取りの場にも仕事で現れなかった父のことを
今も李穂は憎み許していない。



アイドルを辞め
結婚することを父に報告しようと実家を訪ねたものの

まずアイドルを辞めることを切り出すと
『信念がない』と一喝。

『女優になる』と言って
高校卒業後家を飛び出したが芽が出ず

次には『歌手になる』と言って
今度は『アイドルになる』と言い出した。



『今度はなんだ』
呆れて物が言えないとばかりの父を前に李穂は

信念を持ってやった仕事のせいで
母の最期を看取ることが出来なかったんじゃないのか

なじると、父の腕時計のアラームが仕事の時間を告げた。



それは、李穂にとってまがまがしいものだった。



いつだってアラームが鳴ると
父はなんでも切り上げて仕事へと出掛けていく。

もっと話したいのに
もっと一緒に居たいのに家族は二の次。

『家族を引き裂く腕時計』

そう李穂の目には映っていた。



まっさきに伝えたかった父に
結婚の報告が出来ないまま別れた。



しばらくして父が
仕事先のコンビニエンスストア店内で倒れた。

病院へ駆けつけると
枕元にある時計から

あのまがまがしいアラームが鳴り響いた。



どうしていつもいつも家族を引き裂くのだと
李穂は泣き叫ぶのだった。



家族を引き裂く腕時計はもちろん
嫌っていた父の遺品も二度と見たくない。



一つ残らずの買い取りには
李穂の積年の思いが詰まっていた。



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買い取りを終えると李穂は

結婚を巡るアイドル界の事情(=恋愛禁止)や
父との不仲など諸々あって出席者が少なくて淋しいからと

七瀬と健太に招待状を手渡して店を後にした。



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『第二の父』と慕う所属事務所の社長がバージンロードを一緒に歩くため
李穂の待つ部屋を訪れた時だった。



招待された七瀬と健太が入ってきた。



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七瀬:忘れもんだ。

(李穂から買い取りを依頼された遺品の腕時計を差し出す)

李穂:なんで・・
七瀬:今朝、これが鳴ったんだよ。
李穂:えっ・・

七瀬:けど鳴ったのは、ただのアラームじゃなかった。
李穂:どういう意味ですか?

七瀬:

これには12曲のメロディーが入ってるつったよな。
http://www.tv-tokyo.co.jp/shinjuku_seven/special/

今朝鳴ったのは(時計のアラームボタンを押す)

(流れてきたのはメンデルスゾーン『結婚行進曲』 https://youtu.be/9Wd-KwthQ7s
(目を丸くする李穂)

健太:

お父さん、知ってたんだよ。
李穂ちゃんの結婚式のこと。

七瀬:

招待されてもねぇのに。
ネットニュースで知ったのか、タキシードまでちゃんとレンタルしてな。

健太:

ふふ。
調べたら、昨日職場に届くように手配してたみたい。

七瀬:

おまえはな~んも判ってねぇよ。
質屋ってのは、物を見りゃ使ってた人間のことが判るんだ。
親父さんはこの時計を大事に使ってた。
30年以上もだ。
そこまで自分の持ち物を大切にする人間が、家族を大事に思わねぇわけねぇだろ。

(そっとテーブルに置かれた時計を見つめる李穂)

健太:コンビニのロッカーの内側にね、李穂ちゃんの写真、貼ってあったって。
李穂:えっ・・

(回想:ステージで輝く娘の写真をじっと見つめる父)
(疲れも吹き飛ぶとばかりに『よしっ』そう言ってまた仕事へと向かう)

健太:ちゃんとお父さん、李穂ちゃんのこと見てたんだよ。

七瀬:

特別になりたいから、誰かに愛されたいから、ステージに立つ仕事選んだっつったよな。
親父さんにとって、おまえはず~っと特別だったんだよ。

(腕時計を手に知られざる父の想いを知り涙が溢れる李穂)




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バージンロードに、所属事務所社長の姿はなかった。
李穂の右手には、父が遺してくれた腕時計があった。



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『独りでバージンロードなんて可哀想よねぇ』




揶揄する招待客に
七瀬はつぶやいた。




『ひとりじゃねぇよ』




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きっと李穂のお父さんは
ネットニュースで知ったのもあったかもしれないけれど
『話がある』切り出した時判っていたのだと思う。



大切に思ってやまない娘なのだから。
表情を見れば判ったんじゃないだろうか。



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【シリーズ】 『がん』をかんがえる
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-category-64.html

ここで末期がんで『早ければ余命3週間』と告げられ
緩和ケア病棟へと転院した父のことを綴ってきました。



転院前のかかりつけ病院へ入院する前
院外で受ける最後の検査へとタクシーで向かった帰り。

車内で父が

『家のもん、処分しといてくれんか』

言いました。



『全部?』聞き返すと
『うん』頷いて前をずっと見つめたままでした。



父はお金の管理や人間関係には几帳面なので整理整頓もと思いきや

実家の机
テーブルの上
押し入れ
箪笥
本棚

『なんでこうなっちゃうかねぇ』

いずれも長年ほったらかしで
一言で言うならエベレスト級に積み上がったゴミ屋敷でした。



良く言えば、『物を大事にする人』。
悪く言えば、『物を捨てられない人』です。



今思えば

『入院したらもう家には戻れない』

判っていたのかもしれません。



今思えば父も母が末期がんで逝ったのを見てきましたから

『やがて話せなくなる時が来る』
『薬で眠ってばかりになる』

そう思ってぼくに自分亡き後煩わしい思いをさせないようにと
なんとかやりとりできる今のうちにと託したのかもしれません。



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今もまだ生きているのに。

これも着れる。
あれも着れる。

洋服を見ると涙が出てきて
泣きながら箪笥から一着一着取り出し

『ごめんなぁ』
『でも、ぼくがやらんといかんから』

ビニール袋へと入れていきました。



これが一番辛かったかもしれません。



日焼けし
埃まるけになった本を本棚から一冊一冊取り出し
判型を揃えて紐で縛っていきました。



机の中にぱんぱんに詰まっていた

趣味で撮りためてきた写真を一枚一枚
(とはいえカメラを愛する割には保存状態は最悪ですが)

書類
手紙

テーブルの上にあった書類や手紙も
一通一通ゴミ袋へと入れていきました。



押し入れに入っていた『いつ買ったやつだよ』の物も
ツッコミを入れながらゴミ袋に入れていきました。



保存状態がまぁなんとか良くかろうじて残せるもの
大切にしていたカメラなど残したいであろうもの

『捨ててくれ』と言われてもどうしても捨てられないものを除いて
すべて捨て去った父の部屋はがらんとしていて

父のにおいも
父の記憶も

なくなってしまったようでした。



まだ生きているのに。
まるで遺品整理。



託されたとはいえ
なにかいけないことでもしたかのような罪悪感がありました。



ちょうどこの前全部片付け終わり
そのタイミングで『新宿セブン』を見ましたから
ある想いがぼくにも溢れてきました。



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親が子を思う。

今までは愛情やら贈り物など
親から子へと注がれる渡される

無形有形のものばかりにぼくは目がいっていました。



そこに価値があると。
両親から虐待を受けて育ち、不仲だったぼくにはないものだと。



でも

父から託され
父の品々をひとつひとつ整理していて

良く言えば『物を大事にする人』
悪く言えば『物を捨てられない人』

ゴミにしか見えないものかもしれないけれど
そんな父が残してきた長い年月を経た膨大なものに

不器用な父の家族への想いが詰まっているのだと
ことばには出来なくともずっと家族を思ってくれていたのだと
思い続けてくれていたのだと

ぼくは思いました。



物言わぬ品々がぼくに教えてくれたのだと思います。



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物には想いが宿る。
贈られた物にだけでなく、残された物からも。




Photo:Antique By:gregt99
Photo:Antique By gregt99


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