白夜 - 白色の自己主張
~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

白夜

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photo credit:Massimo Accarino via Flickr (license)



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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                  348通目



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金曜ドラマ『アンナチュラル』
『Unnatural Death #2 死にたがりの手紙』に、こんな場面があった。
http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/



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日本で不自然な死を遂げたご遺体の内
解剖されるのは先進国で最低の2割。

8割は解剖されないまま
もっともらしい診断名が付けられ荼毘に付されるため

警察や自治体からの依頼はもとより

警察や大学病院へ解剖依頼しても断られた
死因に納得できないご遺族の駆け込み寺となるべく発足した

不自然死究明研究所(unnatural death Investigation laboratory 通称 UDI ラボ)。



『法医学は死んだ人の学問ではなく未来のための仕事』を信条とする

医科大学の法医学教室で准教授として研鑽を積んだ後
法医解剖医へと転身した三澄(みすみ)ミコトの元に
http://www.tbs.co.jp/unnatural2018/chart/

『検視官が来られないため来てほしい』
『三澄先生は心中事件に詳しいから』

馴染みの刑事 毛利(もうり)から依頼があり

チームを組む記録員で医大生のアルバイト 久部六郎(くべ ろくろう)
臨床検査技師 東海林夕子(しょうじ ゆうこ)らと共に

一家四人無理心中事件が発生した民家へと出向いた。



家主 佐藤正一(さとう しょういち)宅の新聞受けに
今朝『新聞屋さんへ』と書かれた手紙が貼ってあった。

配達員が中を見ると


練炭を焚きました。
恐れ入りますが警察に連絡して下さい。


と書かれており、すぐに警察へ通報。

駆けつけ中へ入ると
密閉された十畳間に家主を含む4人の姿。



全員が死亡していた。



警察は

4人とも肌がサーモンピンクになっていて
一酸化炭素中毒の特徴を示していること。

各々遺書があり
状況から見て練炭自殺で間違いないと踏んでいて

あとはミコトの検死で追認してもらうだけだと思っていた。



ところがミコトがひとりひとり見ていくと

娘と思われる女性の遺体にだけ
片方の手首にだけ

縛られてできたと思われる
赤く腫れた擦り傷が見つかった。

さらに見ていくとこの女性の遺体にだけ
髪の根元に白い粒がいくつも付着していた。



自殺の根拠を揺るがしかねないものが次々に露見。

採取し鑑識へとまわす手はずを整えると
ミコトは解剖が必要だと口にし

さっさと自殺で処理したい毛利を狼狽させる。



そこへさらに同僚刑事から

身分証が見つかったものの
一家四人と思われた男女はいずれも他人だという情報が告げられ

心中事件は思わぬ方向へと転がり始める。



                    *



【1人目】佐藤正一 56歳 男性

妻から三行半を突きつけられ2年前に離婚
会社から早期退職を促され再就職が決まらず悩んでいた

【2人目】羽村今日子(はむら きょうこ) 51歳 女性

夫に浮気され離婚
職場でも人付き合いがうまくいかなかった

【3人目】佐伯初子(さえき はつこ) 88歳 女性

夫は他界
病気を苦にして死を決意したとの遺書
病気のことは病院で確認も取れている

佐藤正一が自殺志願者交流サイトへアクセス。
心中仲間を募集し、他の3人を集めた。

練炭
七輪

共に佐藤が準備。



ラボへと戻り

毛利らの立ち会いのもと
それぞれの背景を聴きながら

もうひとりの法医解剖医中堂(なかどう)のチームと
協力して解剖を進めていったミコト。



3人目までは一酸化炭素中毒で間違いなかった。



4人目の娘と思われた女性だけが
何故か身元不明だった。

リフィルの遺書には


帰る家はない
心配する人もいない
私が死んでも誰も気づかない
あっという間に忘れられる


胸を割る言葉が切々と綴られていた。



毛利らは

自殺の根拠を揺るがしかねないものが次々に露見したとはいえ
この女性も一酸化炭素中毒だと思っていたが

ミコトが解剖を進めていって
心臓にメスを入れた時だった。



左心室が明るいのに対して右心室が暗い。
一酸化炭素中毒によるものではなく『凍死』だった。



凍死の遺体も一酸化炭素中毒の遺体もどちらも肌がサーモンピンクになるが
心臓の状態を見れば一発で判る。

血中のヘモグロビン濃度からも
この女性だけ一酸化炭素を吸っていないことが裏付けられた。



胃の内容物を調べていくと目を疑うようなものが出てきた。
丸まった紙。

広げると


ユキ オトコノイ
タスケテ 花


と書かれていた。



口の中にも器官にも傷はなかったため無理矢理ではない。
凍死する前に自分で飲み込んだのではないか。

『ユキ オトコノイ』がなにを意味するかは判らない。
この女性の名前は『花』?

だとするなら飲み込んでしまったら SOS にはならない。
なぜ?



家主の佐藤と花の間になんらかのトラブルがあり花を凍死させた。

佐藤は後を追おうとしたが死にきれず
自殺志願者を募集して

花の遺体と共に心中した。



毛利らがなおも自殺で処理したい筋書きにこだわる中
ミコトらは花のダイイングメッセージをなかったことにはできなかった。



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花が最後に食べたものは胃の内容物から

じゃがいも
きゅうり
にんじん
レタス
パン
のり
お米
肉(含有成分から馬肉)
カレー粉少々

花の髪に付いていた白い粒は塩。
不純物が多く海水とみられること。

血液検査の結果からは
全身の赤血球がすべて破壊されており

マイナス20℃以下での凍死と考えられることが判ってきた。



その頃ラボの所長宛に
捜索願を出していた花の両親から連絡が入った。

これで全員の身元が判明するかと思われ
ミコト立ち会いのもと対面を果たすが

両親が取り乱すほど
花と思われた女性はまったくの別人だった。



両親が対面を望んでいたのは
松倉花(まつくら はな) 18歳 高校生。

居なくなってから両親が見つけた花のブログには

死にたい
どこかへ行きたい

そんな言葉ばかりが綴られていた。



解剖した女性が花ではないということになると一体誰なのか。
事件の霧はいっそう深く濃くなっていくばかりだった。



                    *



その頃毛利らは

家主の佐藤が勤める水産会社では
海産物を扱い冷凍倉庫もあることが判り

殺害現場と見て捜索を始めていた。

女性を冷凍倉庫で凍死させ
その後車で運び他の2人と練炭自殺を図ったと見て。



だがミコトは、この見立てに疑問を持っていた。



通報後の室内の一酸化炭素の濃度は204ppm。

部屋の面積や置かれた練炭の量から計算した
最大の一酸化炭素濃度は1800ppm。

自殺が成功したことから考えて濃度に矛盾がある。



隙間という隙間はすべて目貼りされ
現場は完全な密閉状態にあった。

にもかかわらず濃度に大きく開きがあるのは何故か。
考えられるのはただひとつ。

自殺成功から警察到着までの間に
あの部屋の扉を誰かが開けたということ。

佐藤宅で集団自殺があることを知っていたその人物が
自殺成功を見届けて凍死した女性を運び入れ

練炭自殺に紛れ込ませて他殺を闇に葬ろうとしたのではないか。



自殺の知識があり
練炭自殺も凍死も
肌がサーモンピンクになることを悪用して。



女性がどこで凍死させられたのか。
女性がなにを伝えたかったのか。

犯人探しは警察に任せ
ミコトらは動いた。



                    *



女性が身に着けていた唯一の所持品金のネックレスは
毛利らの調べでキャバクラでノベルティとして
キャストの女の子たちに配られていたものだと判った。



店に貼られた写真に女性の姿があった。
『ミケ』と名乗っていた。



スタッフの話では

前の店長が雇った女の子で
ふらっと来て働いては日給を貰って帰るだけ。

それ以上のことは判らない。



キャストの女の子たちに話を聞くと
いつも誰ともつるまず独りで過ごしていて

水色のノートに死にたいとか
死んだらどうなるとか

ぎっしり書いていたという。



その言葉に遺書となった紙を見せると『これ!』と声をあげた。
あの遺書の持ち主がミケだとようやく結びついた。



店の近辺でネットカフェに当たっていくと
顔を憶えていた店員が居た。

利用者名簿には『三毛 猫 21歳』とあった。

明らかな偽名だが
泊まるのはいつも独りで

よくカップラーメンを買っていたという。



そんなどこにでも居るような利用者だったが
なぜか記憶に残っていたのは

帰りにいつも下へと降りる階段で立ち止まって振り返り
踊り場に飾ってある大きな写真を見上げていたから。



白夜の写真だった。



なぜかは判らない。
ただ、いつもそうしていた。



                    *



毛利らの捜査は決め手を欠いていた。

佐藤が勤める冷凍倉庫からは
なにひとつ殺害の物証は出てこない。

身元不明の女性が『ミケ』というところまでは掴めたが
該当するような捜索願もない。

ミコトはラボの所長から
被疑者(=家主 佐藤)死亡で送検され終わると告げられた。



一酸化炭素濃度の矛盾
女性の胃の中にあったダイイングメッセージ



なんら解明されていないのに
矛盾を示す資料を毛利に渡したのにと食い下がるミコトに所長は

『見なかったことにしたんじゃないかなぁ』

つぶやいた。



被害者は身寄りがない様子で死にたがっていた
家主の親族は事件を早く終わらせたがっている
警察は重大事件が目白押し

見なかったことにすれば三方良しと
判ってくれよとばかりに話すが


待ってください。
『助けて』っていう彼女の言葉は?
生きてる時も助けられずに、死んでからも見なかったことにするんですか?


ミコトはなおも食い下がった。



所長の胸にミコトの言葉と想いが刺さった。



『やれるだけのことはやったよ』

労い
席を立つ所長。

ミコトはどれだけ労われても
女性の遺した言葉の棘が抜けることはなかった。



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やりきれなさが残るミコトは

警察から送ってもらった白い粒の成分表を元に割り出した
海水の2倍の塩分濃度があり鹿肉もある有鹿温泉へと

久部の通勤用バイクで連れ出してもらい調査へ向かった。



売店をしらみつぶしに当たっていくと

胃の内容物に合致する鹿肉のカレー風味おにぎりと
サンドイッチを発見し色めいた。

ただ、商品量と胃の内容物の量が合わないことが引っかかった。



近くに冷凍倉庫があることも聞き訪ねてみるが
警備体制からここで凍死させて運び出すのは難しいと判り
おにぎりとサンドイッチを見つけた色めきはしぼんでしまった。



その頃毛利らは
諦めの悪いミコトらに付き合わされる形で捜査を継続していた。

行き詰まりを打開するものが乏しかったが
佐藤がアクセスしていた自殺志願者交流サイトが突如閉鎖され

毛利らは割り出していた管理人宅へと急行した。



突如閉鎖した理由を管理人は
集団自殺が起きて怖くなったことを挙げたが

それ以上に掲示板にヤバイネカマが来ていて
(ネカマ=インターネット上で女性のふりをする男性)

あちこちの SNS でも死にたがっている女の子に声を掛けていたのを知って
さらに自殺が広がる恐怖から閉鎖したという。



ネカマの名前は『ユキ』



住まいの提供など言葉巧みに誘い出し自宅に監禁。

所持品一切を取り上げて処分し
激しい暴力を加えて服従させ

最後には殺す計画だった。



冷凍倉庫が空振りに終わったミコトだったが
冷凍倉庫に向かう道すがら目にした一台のトラックが気になっていた。

来た道を戻りトラックの荷台を見ると、『-20℃』の文字。
傍にある外仕事用の蛇口に吊るされた板には、『温泉』の文字。

荷台を開けて中に入ると
黒い結束バンドが二本落ちていた。



女性の手首にあった擦り傷と合致するものだった。



懐中電灯を手にした久部と一緒に中をさらに調べると

仕事のチェックシートと共に
メモ帳が吊り下げられていた。

女性の胃から見つかった紙の大きさと同じだ。



メモ帳にカタカナの文字が目に入った。



ミコトが持って来たメッセージを取り出し合わせると


ユキ オトコノイ エ
タスケテ 花 イル


ダイイングメッセージに欠けていた
『エ』『イル』の文字と合わさった。



『ユキ オトコ』の意味は判らない。

だが、片方の手首だけに擦り傷があったこと。
売店で見つけた商品量が胃の内容物の量と合わないこと。

もうひとり居る。
どこかに監禁されている松倉花を助けてほしい。



花と思われていた女性『ミケ』が
自分の命と引き換えにしてでも伝えたかったことだった。



突然荷台の扉が閉まった。
ユキの仕業だった。

久部の抵抗むなしくロックされ
完全に閉じ込められた。

スイッチが入り
-20℃の冷気がミコトと久部を襲った。



だがミコトの胸には自身の心配よりも
同じ状況に置かれたからこそ判ったミケの想いが広がっていた。



自宅での監禁から花を独り残して連れ出され

-20℃の真っ暗な荷台に閉じ込められ
行き先も告げられずにどこかへと運ばれていく。

不安と恐怖と暗闇で凍えながら
手探りで必死で書いたメッセージ。

犯人に見つかったら捨てられてしまう。

だから絶対に見つからない方法として飲み込み
警察が解剖して見つけてくれると一縷の望みを託した。



死を覚悟してなおも花を思って託した。
そんな想いをなかったことにはできなかった。



                    *



久部の荷物とスマートフォンは外に置いたまま。

閉じ込められた荷台で震えながらガラケーを取り出し
久部に時間を計るよう指示するミコト。

トラックが止めてあった場所は圏外だが
18分ほど走った所では電波が入る。



どこかへと動き出したトラックが止まったこと。
時間を確認してすぐさまラボへと電話。

しばらくコールするが誰も出ない。

こんな時に限ってなかなか出てくれないなか出た声の主は
ラボ内に寝泊まりする天敵 中堂。

電話の相手がミコトだと判るとすぐに切ろうとするが

『切ったら一生恨む』電話口で叫ぶと
『なにを非科学的な』ぶつくさ言いながらもなんとか聞いてくれた。

だがその直後
事件を知りすぎたことで

ユキによってトラックごと池へと落とされ浸水。



それでも狼狽せず検査キットを取り出し
浸水する水の成分を電話口で読み上げるミコト。

そんな姿を見て自分もこのまま死ぬわけにはいないと
散乱する荷物の中に浮かぶ発泡スチロール箱にあった納品書から

久部がユキの本当の名前を
『大沼悟(おおぬま さとる)』だと告げた瞬間電話は切れた。



                    *



久部の胸にはなぜこんな状況でもミコトは絶望しないのかという想いと共に
背徳と綯い交ぜになった複雑な想いがあった。



ミコトは幼少期に浦和市で起きた
雨宮総合病院院長夫妻と男児が死亡した
練炭自殺による一家四人無理心中事件の生き残りだった。



母が主導し
紅茶に睡眠薬を入れ
父と長男に飲ませて練炭を焚いた。



焚くことをミコトに手伝わせて。



それが終わると母親は

睡眠薬をラムネ菓子と偽って
ミコトに手渡し食べるよう命令。

だがミコトは不味くて吐き出し
眠る母をよそに練炭の暑さに耐えかね部屋を出て自室に戻った。



目を醒ました時、世界が一変しているとも知らずに。



ラボにアルバイトとして入った久部は
実は知り合いの週刊誌編集長にそそのかされ
ミコトのことを調べるネズミ(=スパイ)でもあった。



意識不明の重症から生き残った後
院長の妹夫婦に養子として引き取られ

『雨宮ミコト』から
『三澄ミコト』になったことを編集長から知らされていた久部。

ミコトが自身の経験を土台にした論文

症例報告 練炭による殺人および自殺に関する検討
ー 浦和市で起きた一家四人無理心中事件の検討 ー

も読み

長女であるミコトが助かったのは
母が娘だけは助けたかったからだと感じた久部だったが

閉じ込められた荷台で
ミコトの過去を知っていることは伏せて尋ねると

そんな美談ではないと
当人しか知り得ないであろうことを話した。



親に殺されかけた絶望するには充分すぎる境遇。

でも
だから
ミコトには

人の命を簡単に奪う者への憤りが熾火のように心奥にある。

心中に人一倍嫌悪感を抱く。
心中を、『身勝手な殺人』と忌み嫌う。

生きることへの執念にも似た想い
生きている者の声や死してなおも訴える声を
決してなかったことにしてはならないという想いがあるのだと

久部は知るのだった。



                    *



傾くトラック荷台の中。
胸のあたりまで水位が迫っていた。

電話は非情にも切れてしまい
助けが間に合うかは判らない。



『絶望するくらいなら美味しいものを食べに行きたい』

ミコトが久部に巻き込んだお詫びにと
明日の夜ごはんをごちそうすると誘い

久部の恐怖を和らげようとなにが食べたいか
『あったかいものがいいな』などと互いに話していた時だった。



ドンドンドンドン
荷台を激しくノックする音が聞こえた。



天敵中堂が所長と協力し
わずかな情報から死力を尽くして調べ上げ
スマートフォンなき現在地を割り出していた。



ミコトと久部はレスキューに救出。
大沼は逮捕。



花は監禁場所だった大沼の自宅から
大怪我をした状態で救出された。



                    *



ミケと花は逢ったことのないインターネット上の友達だった。
ユキの仲介で逢うことになったもののそれは罠だった。



ミケは、生前花にこんな想いを吐露していた。




ミケ:こんなところで死ぬならさぁ、見たかったなぁ、白夜。
花:白夜?

ミケ:

北の方のどっかに、陽が沈まない国があるんだって。
一日中、ずっと明るいんだって。

花:いいなぁ・・

ミケ:行こうよ、ここを出られたら。
花:うん、約束。

(結束バンドで縛られた互いの手で指切りげんまん)

ミケ:

ここを出て、白夜を見に行く・・
ここを出て、白夜を見に行く。

(ミケはネットカフェで振り返り見上げた白夜の写真を思い出していた)




                    *



『ここを出て、白夜を見に行く。』
ミケの最期の言葉だった。



一度目の『見に行く・・』は、願望だった。
二度目の『見に行く。』は、決意だった。



ミコト
久部

3人だけの斎場。



逢ったことのないインターネット上の友達。

出逢ってからも監禁状態に置かれ
互いをよく知ることはできなかった。

それでも自分の命と引き換えにしてでも助けてくれたミケ。



車椅子から荼毘に付されるのを見送る花は


いつか行きます。
絶対行きます。


二度目の『見に行く』に重ね合わせるかのようにミケに誓った。



                    *



世界でたったひとりの人のために
世界で一冊だけの絵本を手創りするライフワーク

『絵本工房 心の温度 +2℃』は
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-14.html

18歳のときこころを病んでしまった友人を励ますため

彼の魅力を100個
イラストとともにポストカードに綴り製本。

絵本にして贈ったのが産声となって本格的に創りはじめ
今も一年に平均4冊ほど創りつづけているものです。



ぼくにとって初めて誰かにプレゼントした絵本のはじまりともいえるもの。
今年で25年目。
贈った絵本は、100冊を優に超えるまでになりました。



そんな絵本を最初に贈った友人は闘病生活の真っ只中。

先日お見舞いに行ったとき
今も大切にしてくれている25年前に贈った絵本を手にしながら

こんなことを話してくれました。



                    *




この絵本はね、ヒロ、手にとって開くとね、太陽を届けてくれるの僕に。どこを開いてもいいことしか書いてないの。どこを開いても心がぽかぽかするの。自信がなくなった時もね、不安でたまらない夜もね、死にたくなった月曜日の朝もね、開くとね、太陽が顔を見せてくれるの。だからね、この本もね、書いてくれたヒロもね、太陽なの、僕にとって沈まない。




                    *



ミケが白夜への想いを吐露するシーンは
何度でも観たくなってしまいます。

何度観ても
どのことばにも

胸が苦しくなります。




帰る家はない
心配する人もいない
私が死んでも誰も気づかない
あっという間に忘れられる


こんな遺書をしたためるミケにとって
陽が沈むことは耐えられないのだと思います。



かつてのぼくも同じ心境で生きた時代がありました。



太陽は

単に朝を告げるものではなく
あのまばゆい光とぬくもりに包まれることは

誰かと繋がることと同じでした。



風を感じるように
雨に打たれたときのように
自分という存在を感じられるものでもありました。



でも、誰とも繋がれない。
一日中陽が沈まない白夜に恋い焦がれるように憧れる気持ちが痛いほど判ります。



それでもミケは最期に
夢を叶えられたのではないでしょうか。


帰る家はない
心配する人もいない
私が死んでも誰も気づかない
あっという間に忘れられる


帰る家はないかもしれません。
本名も判らない。

でも、花が決して忘れないと思うのです。



たとえ世間や警察が身元不明者として片付けようとも。



白夜を見に行った花は
ミケにとっての白夜だったことに気づくでしょう。

そして花にとってもミケが
白夜だったことに気づくでしょう。



友人がぼくのことを沈まぬ太陽だと言ってくれたように。




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photo credit:Oceans of Lilim via Flickr (license)