『生きる』をかんがえる ~ バケットリスト篇 ~ - 白色の自己主張
~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

『生きる』をかんがえる ~ バケットリスト篇 ~

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photo credit:mclcbooks via Flickr (license)



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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                  349通目



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NHK ドラマ10『ブランケット・キャッツ』
http://www.nhk.or.jp/drama10/blanketcats/

第6話『助手席のブランケット・キャット』(前編)
最終話『さよならのブランケット・キャット』(後編)

に、こんな場面があった。



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有限会社椎名家具製作所を営む椎名秀亮(しいな しゅうすけ)は

藤村動物病院院長の獣医師で
幼馴染みの藤村美咲(ふじむら みさき)に協力してもらい

家具店の前
動物病院の前
町内会の掲示板

それぞれに猫の写真と案内を掲示した看板やチラシを置いたり貼ったりして
秀亮の亡き妻が遺した猫7匹のあたらしい飼い主を探しているが

秀亮の偏屈な性格故に
案内を見て家具店を訪ねて来た人がちょっとでも気に入らないと
ねちねち嫌味を言ってその場で帰してしまい

呆れるほど一向に飼い主と巡り会えないでいた。



美咲がやきもきするそんな第一関門を熱意で突破しても
引き取りを希望する人には命を預かる責任があるかどうか

1.相性や飼えるかどうかを判断する3日間のトライアル期間
2.秀亮が用意する決められたキャットフード以外を与えないこと
3.環境の変化に弱いので各猫が愛用しているブランケットを傍に置いておくこと
4.飼う環境を秀亮自身が確かめに出向くこと

この4条件を課しさらに見極めるのだが

第1話『身代わりのブランケット ・ キャット』では
http://www.nhk.or.jp/drama10/blanketcats/html_blanketcats_story_01.html

初の良い感じではあったものの飼うことは出来ないと
トライアル期間で帰ってくることとなってしまった。



最初こそ亡き妻が遺してくれた猫だと時間を惜しまずお世話していたが
7匹ものごはんやトイレの準備やらが次第に負担となってきたことや

猫は躾けられているとはいえ自由気ままに動きまわり
仕事場でも猫に囲まれてしまって仕事が滞ることから

疎ましく思う感情も芽生えてしまっていた。



だが、トライアル期間で帰ってきてしまったとはいえ

猫があたらしい家族として迎えられ共に暮らすなかで
家族の関係や感情に変化が訪れる様を見た秀亮は

亡き妻への想い
妻が遺してくれた猫への想い

自身の中にも心境の変化が訪れているのを感じ始めていた。



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馴染みの食堂『さくら食堂』を
娘とともに切り盛りする女将 佐伯奈緒子(さえき なおこ)は

秀亮と美咲が互いを想い合っているのに告白もせず
じれったいほどに進展しないことや

幼い頃から秀亮を知り
妻を交通事故で亡くしてから独り身で居ることを気に掛け

店を訪れる度に町内で頼まれた見合い話を持ち掛けては
その気がない秀亮に毎度毎度あしらわれていた。



ある日の夜も頼まれたと言って

近所の文具店『永島文具』に勤める経理一筋のアラフィフ女性
『桜井(さくらい)たえ子』のお見合い写真を見せられたが

相変わらず気持ちに変わりはなく断った翌日
そのたえ子が家具店を訪ねてきた。



写真で見た時とはイメージが違った。



パーマをかけ
ネイルアートもしていて
自分から訪ねてくるなんて積極的な女性だなと思ったが

二度結婚に失敗しており
三度目の正直を信じられるほど若くはないと言って

結婚する気はないとたえ子から断られた。



訪ねてきたのは

さくら食堂の女将から
ここで猫を譲ってくれると聞いてきたからだと言い

今まで住んでいたところはペット不可だったが
今住んでいるところは最近規約が変わりペット可になった。

これを機に『死ぬまでにしたい10のこと』のひとつ
『猫を飼う』を形にしたいと話した。



店内に居る猫たちをぐるりと見渡すと
目が合った『クロ』を一目惚れのように選んだ。
http://www.nhk.or.jp/drama10/blanketcats/html_blanketcats_cast.html




猫は人に媚びないでしょ?いや、ちょっと違うか。本当は人間が好きだし甘えたいのに、そんな素振りを見せない強がりなところが好きなの。




まるで自分を重ね合わせるかのように
猫への想いを吐露したたえ子はクロを連れ帰ると
手帳の最後のページにあるリストを開いた。



クロを抱っこし
スマートフォンで写真を撮ると SNS にアップ。


どうせ誰も見てないけどね。
知り合いは居ても、友達は居ないし。


既に両親も他界しており
淋しげにつぶやいては

叶ったやりたいことを消していった。




死ぬまでにやりたい10のこと

1 髪にパーマをかける
2 ネイルアートをする
3 猫を飼う
4 SNS をやる

5 有給休暇を使う
6 外車に乗る
7 高級温泉旅館に泊まる
8 あいつに文句を言う

10




アップした写真には
『旅に出ます』言葉を添えた。

最初で最後のドライブだからと思い切って外車を借り
クロを助手席に乗せて一路大阪へと向かった。



猫を飼いたいという言葉に嘘はなかったが
本当は相棒が欲しかった。



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ドライブしながらたえ子は
今まで誰にも打ち明けたことのない想いを

クロだけに
クロだからこそ

打ち明けた。



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ねぇ、クロ。なんであんたを選んだか、教えてあげよっか。名前がクロだったからよ。黒猫だからクロ。見たまんま、あたしと一緒。あたしの名前、『たえ子』って言うんだけどね。『たえ』はひらがな。でも、たえ子って『耐える子』なんだよね。名前のまんまだったの、あたしの人生って。

両親は仲が悪くて、いつも喧嘩ばっかりで、早く家を出たいってずっと思ってた。だから、高校卒業したらすぐ就職して家を出たの。就職したのは、永島文具。30年間ずっと永島文具。

(ドライブインへ入って缶コーヒーを手にひと休みしながら)

最初の結婚は、25歳の時。飽きっぽくて怠け者で、すぐ仕事辞めちゃう人だったの。そのうえギャンブルで借金つくって、3年持たずに離婚。でもその借金も、あたしが全部返すことになっちゃって。

(呆れるようにぷっと吹き出して笑い)馬鹿だよねぇ、あたし。

2回目の結婚は、33歳の時。交際してる時は優しかったのに、結婚した途端暴力振るうようになって。それでも2回目だし、耐えたわよ、たえ子だからね。だけど・・(遠い目をしながら)外に子どもができちゃったのよ。あたしには子どもは居なかったし、それじゃあ勝てないよね。

(つくづく嫌になるとばかりに)ほんとあたしって、男見る目ないよね。

・・一時間も走ってないのに、ほんとに体力落ちたなぁ。こんなんで大阪まで行けるのかしらねぇ・・。あっ、その前に、今夜伊豆の旅館に泊まるからね。部屋に露天風呂が付いてんのよぉ。奮発しちゃったぁ。

贅沢だよね・・生まれて初めての贅沢。
きっと、最初で最後の・・(再びの遠い目)

あたしのお給料、手取りで20万円。安いけど、働きやすい会社なのよ。社長も、奥さん(=専務)も、社員も、みんなが家族みたいで

(会社で社長が買ってきたたい焼きをみんなで囲んでいる回想)

社長も、奥さんも、みんな優しくしてくれたのに。なにひとつ不満なんかなかったのに。なのに、あたしどうして・・(見つめた後部座席の先には黒いボストンバッグ)あんなこと・・




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罪悪感に押し潰されそうになり
外の空気を吸おうと車外に出たたえ子。

クロを連れてベンチで
リストにある叶えたことを消していると

別れてしまったおかあさんに逢って
誕生日プレゼントを渡したい妹と付き添う兄

家出してきた幼い兄妹に出逢った。



トラックの荷台に隠れて乗って

ヒッチハイクのように
滋賀県まで行こうとしてこのドライブインまで来ていたが

次に乗るトラックを見つけたものの
乗り込んだところで運転手に見つかり
こっぴどく怒られているのを目にした縁から

また自身に子どもが居ないことから
母性本能に訴えかけられるようで

たえ子は方向が同じだからと声を掛け
旅を共にすることとなった。



死ぬまでにやりたい10のこと

たった10のことさえも埋められない
つまらない人間だと思っていたけれど

幼い兄妹に出逢えたことで
9番目のやりたいことに


『二人をお母さんのところへ連れて行く』


書き入れることができた。



その頃

猫が店内の家具の下に
なにか隠そうとしているのを見つけた秀亮。

それはたえ子が最初に家具店を訪れた折
譲渡手続きの書類を記入していると電話が掛かってきて

スマートフォンを取り出そうとし
先に鞄から出してそのまま置き忘れた巾着袋。

振ると、シャカシャカと音がした。



たえ子の持ち物だったことを思い出し
断りもなく開けるのはと思いながらも開けると薬箱が出てきた。



『きっと大事なものに違いない』

書類に書かれた番号に電話を掛けるが
何度掛けても出ない。

書類に記入していた時に掛かってきたのは永島文具。
早鐘を打つたえ子の心。

本来ならすぐにでも出ていい。
出たい番号だった。



『知らない番号だから出なくていい』
やましさから嘘を言った。



永島文具とは違う番号から頻繁に掛かってきている。

しでかしたことが発覚し
警察からではと不安になり
とても電話に出ることができなかったのだが

事情を知る由もない秀亮は心配になり
トライアル環境の下見に行ったたえ子の自宅を訪ねるが不在。

そこへ同じように心配して駆けつけた永島文具の社長夫妻から

体調が悪いので2~3日休ませてほしいと電話があったこと
去年胃がんの手術を受けているから中で倒れてやしないか

事情を聞いた秀亮は
アパートの管理人に話して中へと入るが居ない。



入院したんだろうか。
行方は判らぬままだった。



会社へと戻った社長夫妻は
金庫のお金が空になっていることに驚きを隠せない。



『死ぬまでにしたい10のこと』

たえ子が口にしていたことと胃がんが
秀亮の中で結びつく。

胃がんが再発しているのかもしれない。
自殺するのではと居ても立っても居られない。

でもなぜクロを連れて行ったんだ?
自殺の道連れ?

脳裏にある想いが浮かんだ。



交通事故で亡くした妻。

飼っていた猫クロの様子がおかしくなり
すぐに病院へ行きたいから車を出してほしいと頼んだが

家具のデザインコンペを明日に控えていた
会社員時代の秀亮は拒んでしまう。

一晩動物病院へ入院した翌日夜
ひとりでクロを迎えに行った帰り道

妻は交通事故で亡くなった。



傍に居てくれる人
守ってくれる人が居なかったからではないか。



妻と向き合わなかったことへの後悔とも重なり
薬とともにこの想いも届けたいと思った。



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おかあさんの家の近くに赤い橋がある。
おかあさんの名前は『みやけ かおる』。

旅館に一泊後
まるで自身の子どものように旅先で出逢った兄妹と接したたえ子は

子どもができたように思えたことで
2番目の夫(=リストの8番目にある『あいつ』)に
当時は言えなかった想いを勢いに任せて言えたことで吹っ切れ

滋賀県までただ送っていくのではなく
おかあさん探しも手伝おうと幼い兄妹から詳しい話を聞き

赤い橋という橋を奔走した。



だがどんなに赤い橋の近辺で探しても
『みやけ かおる』が見つからない。

ひと休みしようと次の赤い橋の近くで車を停めると
助手席のクロの様子がおかしい。

昨晩旅館に居た時も元気がなかったが
今はさらに元気がないようだ。



不安になり

譲渡書類にあった『守っていただきたいこと』を見ると
目に入ったのは何度も着信のあった番号。

警察ではなく秀亮の店の番号だった。



安心して掛け直すと秀亮は

たえ子の薬箱のことや
永島文具の社長夫妻が心配していることは伏せ

クロには持病があり(=嘘も方便)
環境の変化も影響しているため薬を届けたいこと
永年一緒に暮らした自分を見ればクロも安心すると話し

たえ子から居場所を聞き出すと
クロを心配する美咲も乗せて向かった。



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駆けつけた秀亮と美咲にクロと幼い兄妹を託すと
たえ子はひとり車に乗り込み走り去ってしまった。



自殺の心配をする秀亮が車で後を追う。



海の見える公園にたえ子の車が停まっていた。
海岸へ降りると、入水自殺しようとするたえ子の姿。

駆け寄る秀亮の心には
妻と向き合わなかった後悔の日々が蘇っていた。




『死ぬな!死んじゃだめだ!』
『だめだ!行っちゃだめだ!』


海の中へと入り
たえ子を力ずくで連れ戻す。



やっとの思いで浜辺に倒れ込むとたえ子は涙ながらに
恨み節と綯い交ぜになった心の叫びを鋭くぶつけた。




たえ子:

どうして・・どうして死なせてくれないの!
もうヤダよ・・耐えるだけの人生なんて・・
なんのために生きなきゃいけないの・・

秀亮:

誰かのためだ。
アンタが死んだらずっと後悔する、誰かのために。




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助け出され、毛布を羽織った公園のベンチ。
秀亮のまっすぐな想いとは裏腹に、たえ子は虚ろな表情だった。



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たえ子:

あたしが死んでも、後悔する誰かなんて居ませんから。そりゃあ死んだ時くらいは可哀想にって思ってくれる人くらいは居るかもしれないけど。人は独りで生まれて、独りで死んでいくんです。だから、自分のために生きて、自分のために死んだっていいじゃない・・

秀亮:

人は、独りで生きてるわけじゃない。アンタがあの子たちを大切に思ったように、アンタのことを大切に思ってくれる誰かが居るんだ。人は独りで生きてない。だけど、そんな当たり前のことに後で気付いても、取り返しのつかないことだってあるんだ。

(妻のことを見ているようで見ていない風景の一部としか見ていなかった日々の後悔。そんな妻を亡くして初めて存在の大切さや秀亮の人生に光を与えてくれていたことに気付き、生きているのか死んでいるのか判らないようなその後の日々を回想)

・・だから死ぬな。
アンタのことを心の底から心配してる誰かのために。

たえ子:(そんなわけないと苦笑し)そんな人、あたしには・・

(そこへ秀亮と美咲から連絡を受けた社長夫妻が駆けつけた)

社長:たえちゃん!
奥さん:たえちゃん!
たえ子:(驚いて立ち上がり)社長!奥様!

奥さん:どうしてそんなことするのよ!

社長:

俺たちそんなに頼りないか?
そんなに信用できないか?
えぇ?

(うなだれ詰問にじっと耐えるたえ子を見て)

いや・・頼りなかったんだよな。
信用できなかったんだよな。
だから、たった独りで苦しんで・・

たえ子:

(何度もかぶりを振り)違います・・
違うんです・・

(頭を深く下げ)申し訳ありません。
(土下座し)申し訳ありませんでした。

あたし・・あたしは、お金を盗りました。
会社のお金を。
申し訳ありません。

(顔を地面に付けるほど土下座したまま顔を上げないたえ子)
(そんな姿を見て互いを見遣る社長夫妻)

社長:

だったら、たえちゃん、病院行こ。
元気になって、働いて、使った金返してくれ。

(思いもかけない言葉に顔を上げるたえ子)
(髪に砂や葉っぱを付けながら見た視線の先には夫妻の笑顔があった)

たえ子:社長・・

奥さん:ふふふ。嫌って言わせないわよ。
社長:よかった、たえちゃんが生きててくれて。

(永年の恩を仇で返してもなおもあたたかく迎えてくれた社長夫妻)
(自分のことを心の底から心配し涙まで流してくれる人の姿がそこにはあった)
(抱き寄せられ安堵したたえ子は嗚咽した)




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たえ子が、耐える子でなくなった。



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入院した病室

奥さんが着替えを持ってきてくれると
併せて『届いていた』と言って

一通の手紙を渡してくれた。



差出人は『小宮山エミ』。
おかあさんを一緒に探したあの時の女の子だった。



うれしくて
うれしくて
たまらず開封した手紙にはこうあった。



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たえこおばあちゃん、おんせんたのしかったよ。
おいしいごはんもありがとう。
またクロちゃんにあわせてね。
はやくげんきになってね。
プレゼントおくるね。




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手書きの

『まっさーじけん』
『おてつだいけん』

が同封されていた。



エミがおかあさんにプレゼントしたいといって手作りしたものを
たえ子にも作ってくれたのだった。



自分にも家族ができたようだった。



社長夫妻の想いとともに
じんわりと心に広がるぬくもりを逃してなるものかと
手紙を胸に当てるたえ子。



手帳と万年筆を手に取ると
死ぬまでにやりたい10のこと10番目に
想いを込めて一文字一文字静かに書き入れた。



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死ぬまでにやりたい10のこと

1 髪にパーマをかける
2 ネイルアートをする
3 猫を飼う
4 SNS をやる
5 有給休暇を使う
6 外車に乗る
7 高級温泉旅館に泊まる
8 あいつに文句を言う

9 二人をお母さんのところへ連れて行く
10 生きる




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『明日死ぬかもよ』
『きょうが人生最後の日だとしたら』

やりたいことが浮かばないとき
こんな質問を投げかければ出てくる

なんてことをよく見聞きします。



でも

じぶんを脅すような
追い込むような質問から出てくるやりたいことは

ほんとうにこころの底からやりたいことなのでしょうか。




1 髪にパーマをかける
2 ネイルアートをする
3 猫を飼う
4 SNS をやる
5 有給休暇を使う
6 外車に乗る
7 高級温泉旅館に泊まる
8 あいつに文句を言う
9 二人をお母さんのところへ連れて行く
10 生きる


ドラマを逆再生するように観ていくと
願いややりたいことが叶わないのは

願いがほんとうの願い(=10番目の願い)を妨げているのではないか。



『もうすぐ死ぬ』
『死ぬしかない』

そんな想いから出発したたえ子の『死ぬまでにやりたい10のこと』を眺めながら
ぼくはそんなことを思いました。



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【シリーズ】 『がん』をかんがえる
http://ippunkan.blog.fc2.com/blog-category-64.html

ドラマをあらためて観ながら
昨年11月17日に末期がんで逝った父のことを思い出していました。



去年8月末に救急搬送され入院した父は

各種検査結果を踏まえ
主治医から『肺腺がん』であることを告げられていました。

ただ

ステージⅣ(=末期がん)であること
この時点での余命が三ヶ月から半年と告知されたこと

これらは父には伏せられ
家族だけに伝えられました。



ですが、永年連れ添った身体です。
伏せられてもうすうす判っていたのだと思います。



それでも父は自身の周りに

介護保険の申請と認定
退院支援看護師さんとの面談(=自宅へ戻れるかもという期待)

主治医からリハビリの指示(=回復の見込みがある)
作業療法士さんが定期的に病室まで来てくれてのリハビリ

リハビリ室へ向かってリハビリするときに備えて買ってきてほしいと頼まれた
ベッド下に置いてある脱ぎ履きしやすい靴

酸素吸入器が取れないとがんの治療は難しいと言われながらも
(=治療効果は一定のコンディションと引き換えなので)
原発や全身への転移のうち脳転移への放射線治療が始まったこと

10段階ある酸素レベルが一時『5』まで上がったが
『3』まで下がり落ち着いていること

嚥下障害があって飲むことも食べることも出来なかったけれど
昼食時のみ栄養価の高いゼリーが食べられたり
とろみ剤を混ぜてのお茶や水が飲めるようになったこと

このまま順調にいけば流動食あたりが食べられるようになるから
お茶を飲むのに使う軽くて落としても安心なプラスチック製のカップを
買ってきてほしいと頼まれ買い置いてあること

一昨年のクリスマスに大好評で
その日のうちに訪れた幼稚園や保育園から指名されてまた是非にと
子どもたちが心待ちにしているサンタクロースのボランティアなど

『人生への期待』『希望』を散りばめることができました。



そして

治療効果が芳しくないなかでなされた再告知では
『早ければ余命三週間』と告げられながらも

9週間も自己ベストを更新して生ききりました。



きっと父のこころのバケットリスト1番目に
『生きる』と書かれていたからなのだと思いました。



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バケットリスト(=死ぬまでにしたい○○のこと)

今までにご縁あってお逢いした方百人近くでしょうか
彼らから想いの詰まったリストを見せていただきましたが

誰ひとりとして『生きる』と書いている人は居ませんでした。



当たり前すぎるからでしょうか。
当然のように明日は来ると思うからでしょうか。
たえ子が10番目に『生きる』と書いたのを観てハッとしたのはぼくだけでしょうか。



『生きる』ことなしにバケットリストなど意味を持ちません。



そんな当たり前すぎて誰も書かないことに
父とたえ子は気づかせてくれたのかもしれません。



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あなたの願いを妨げているのは願いではありませんか?
あなたのバケットリストに『生きる』は入っていますか?