白色の自己主張

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行く、来る、帰る

白色の自己主張
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白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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水曜ドラマ『anone』#5に、こんな場面があった。
https://www.ntv.co.jp/anone/



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『どうしてみんなと同じようにできないの?』
『みんなが誰だか判らないから同じようになんてできない』

なにかといえば口答えする娘にほとほと手を焼いた両親によって
幼少期森の中に建つ更生施設へと捨てられるように入れられ

虐待による人格矯正の躾を行う施設長から
規格外を意味する『ハズレ』と呼ばれ続けた。

退所後は清掃会社で日銭を稼ぎながら
もう一年近くネットカフェ暮らし。

ここから抜け出そうという気持ちがないわけでもない。
無気力というわけでもない。

スマートフォンのチャットゲームで知り合った友人カノンと
文字でやりとりするのを楽しみに生きる少女 辻沢(つじさわ)ハリカ。
https://www.ntv.co.jp/anone/chart/



夫の浮気相手の子どもを自身の子どものように育てながらも
二十歳を前にその娘が母を捨てて失踪。

行方を知らないふりをしつつ実は夫は娘と何度も会っていたが
ふたりとも母親とは思っていないために一言も告げなかった。

そればかりか印刷所を営む夫が元従業員と共に
偽札造りに手を染めていたことが他界後判明。

印刷所床下から見つかった偽札を海岸で焼却処分する一方
重罪である偽札造りを正直に警察へ話すべきか思い悩む

法律事務所職員 林田亜乃音(はやしだ あのね)。



高校時代バンドマンになる夢を叶えるためバンドを組んだが
練習中仲間から押し倒され妊娠。

合意のないことにも心を痛めたが
流産してなおも心を痛めた。

社会に出れば女性というだけでどれだけ仕事を頑張っても
いつだって出世していくのは男性ばかり。

十数年が経ち、たまりかねて上司に思いを打ち明けるとようやく昇進。
部下が居ない倉庫。
書類整理の部署への配置転換だった。

結婚後は高校生の痛み以来子宝に恵まれたが
夫の母との生活では子育てにあれやこれやと口出しされ
夫は味方になってくれない。

あげくには甘やかし過ぎて親を奴隷扱いして命令し
母が体調不良で倒れてもその上をまたいで出掛けていく
人の痛みをまるで感じない子どもに育ってしまった。

職場でも居場所をなくし
家庭でも居場所をなくし

死に場所を求めるように会社も家も飛び出した青羽(あおば)るい子。



子どもを育てたい婚約者から病院で検査してほしいと頼まれ受診。
無精子症だと判ると音信不通になり、婚約破棄。

勤めていた工事会社で年度末の国の予算消化のため
発注された意味のない工事を繰り返す日々。

別の日の病院では
青天の霹靂の余命宣告半年。

男性としても
会社員としてもよのなかになにも遺せていない。

会社を退職後なにかを遺したいと
飲食店を営む父が他界後に残した咖喱ハウス Bon Bon を引き継ぎ
一旗揚げようと目論むものの閑古鳥が鳴くばかり。

そこへ小学校時代からの友人 西海(さいかい)が現れ
自分が働くカレー会社のフランチャイズになるよう勧誘。

儲かるという甘言に乗せられホイホイサインしハンコを押すが
案の定儲かることなどなく閉店を余儀なくされたばかりか
契約に伴う費用を払えなくなり土地も建物も明け渡しに。

なにかを遺せる頼みの綱もなくなって死に場所を求めている
『努力は裏切るけど諦めは裏切らない』が口癖の持本舵(もちもと かじ)。



交わるはずのない4人の人生が
林田の夫が遺した偽札を巡って交わり
奇妙な共同生活を始めることになっていく。



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カノンが実は自身が入れられていた更生施設で共に過ごした
紙野彦星(かみの ひこぼし)だと共通の記憶から知ったハリカは
心の距離がぐっと縮まっていた。



ある日のやりとりで彦星が

入院している病室の窓から見える動物
ハシビロコウの看板を話題に出したとき

偶然ハリカは街なかで同じ看板を見つける。



看板の近くへと夢中で駆け寄り振り返ると、そこには病院があった。
窓際に、ベッドで上半身を起こしている男性の姿が見えた。



半信半疑ではあったがその場所からいつものようにチャットゲームで
外へ出掛けられない彦星にあれこれ愉快な話を聞かせると
文字での反応と同じ反応を窓際の男性がしている。



彦星だった。



いつしかハリカは病室が見られるこの場所から
彦星を見つめながらチャットゲームをするのが心のオアシスになっていた。



そんな心潤す日々を重ねていたある日

チャットゲームが突如一方的に切られ
直後に慌ただしく病室が片付けられていく様子を目の当たりにしたハリカは

重病を抱える彦星のことが気が気でない。



病院へと息切らし駆けつけ彦星の病室を訪ねようとするが
そのさなかに患者さんと看護師さんの会話から
彦星が集中治療室へと入っていることを知った。



逢うことが叶わない。

アルバイトで貯めたお金では彦星を救う保険適用外の
高額な治療を受けさせてあげられない。

自分にはなにもしてあげられない。
でも、ここを離れたくはない。



世間様や他人様から見ればニセモノではあったが

林田(おばあちゃん)
青羽(母親)
持本(父親)

ネットカフェを出て3人といつしか家族のように暮らし始めていたハリカは
いつもならアルバイト終わりにする林田への連絡をしないで

いつもの場所から彦星が戻ってくるであろう病室をいつまでも見つめていた。



帰りが遅くなって心配する林田が何度も電話してみるが出ない。

なにかあったのではと
住まいのある印刷所から

車で迎えに行こうとしたときだった。



エンジンを掛けた車内で電話が鳴った。
ハリカからだった。



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林田:もしもし?
ハリカ:あっ、亜乃音さん?

林田:うん。
ハリカ:電話もらってた。
林田:うん、大丈夫。

ハリカ:えっと・・きょう 、そっち行けないかも。
林田:あぁそう。

ハリカ:

う・・うん・・前の友達に会ってね。
『カラオケ行こう』って言われて。

林田:そう。
ハリカ:歌ってきちゃうね。
林田:うん。

ハリカ:

連絡遅くなってごめんね。
また明日とか、そっち行くから。
じゃあ。

(電話を切ろうとして)

林田:ハリカちゃん?
ハリカ:ん?

林田:一個だけいいかな?
ハリカ:うん。

林田:

今、ハリカちゃん、『そっち行けないかも』とか『明日行くから』とか言ったけど、ここはもう行く所じゃないからね。ここはもう、ハリカちゃんが帰る所だからね。

布団並べて寝てるでしょ?

今度からは、『行く』じゃなくて『帰る』って言いなさい。
帰れない日は、『帰れない』って言いなさい。

ハリカ:

・・亜乃音さん・・
きょうは・・帰れない。

林田:今どこに居るの?




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闇夜に独り佇み病室を見つめるハリカの隣に林田の姿があった。



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幼いころ

『甘えるな』の自己責任
『頼るな』の自助努力
『正社員で家族を養って一人前』の男らしさ・自立

この3点セットを両親から厳しく躾けられ
出来の良い姉といつもいつも比べられ

どう頑張っても3点セットからかけ離れるぼくは
やれることはやり尽くすほど努力しても出来の悪いぼくは

いつもいつも両親から否定されつづけて育ちました。



365日皆勤賞でした。



否定されるときはきまって問答無用で大声で叱責され

頬を何度も往復させて平手打ちされたり
耳を上に引っ張りあげられたり

髪の毛を引っ張られて引き倒されるなどしていました。



当時は躾の範疇だったろうけれど
今の感覚で言えば虐待で通報されることでしょう。



365日皆勤賞でした。



幼いころの両親との記憶は

硬い板の間に年がら年中正座して下を向き
じぶんの太ももが涙で滲んで見えないくらいに泣きに泣き

顔を真っ赤にしながら

『ごめんなさい』
『ごめんなさい』

決して許してもらえないのですが
なんとか許してもらおうと痛みでぎゃあぎゃあ叫びながら何度でも謝りつづける。

そんな記憶しかありません。



ぼくにとって『家』とは、『行く』ところでした。
ぼくにとって『親』『姉』とは、『来る』ものでした。



だから

高校を卒業し
社会人になり
実家を出てひとり暮らしをはじめて

遠距離恋愛でおつきあいすることになった女性のおうちへお泊まりしたり
やがて同棲をはじめたとき

『おかえりなさい』と迎えてくれる人が居ることがうれしかったです。



『ただいま』と言える人が居ることがうれしかったです。



彼女がぼくのおうちにお泊まりに来てくれて
仕事から帰ってきたぼくを玄関で接吻し抱擁し
『おかえりなさい』と迎えてくれたことがうれしかったです。



『ただいま』と言えることがうれしかったです。



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ぼくにとって『家』が『帰る』ところになりました。



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拝啓 冬歌さま

お母様の体調はいかがでしょうか。
冬歌さまご自身もお加減いかがでしょうか。

久方ぶりにいただいたお便りが、わたしの実父と同じくお母様が緩和ケア病棟へと転院された胸の内。驚き、心の痛みを禁じえませんでした。『なにもできることがない』とお嘆きになる胸の内を拝読し、差し出がましくも誠に微力ではありますが、なにかお力添えできることがあればと思い筆を執った次第です。


昨年10月末に父は入院していた救急病院から緩和ケア病棟へと転院しました。遡ること約一ヶ月前には、二度目の余命告知で『早ければ三週間』と言われておりました。

人生の最期に良い感情・幸せな記憶を心に刻んだ父を見送りたい。

最初の余命告知の時から最後の親孝行として、幼少期の虐待の恨み辛みを赦すでもなく赦さないでもなくという心の置き所を見つけたことで家族をやり直した実父になにができるのか考え、逢いたい人に逢ってもらったり、やりたいことをやってもらったりと形にしてまいりました。

父が一番楽しみにしていた願いは、二年前から始めたサンタクロースのボランティアでした。幼稚園、保育園、福祉施設、育児サークルなどを訪れてプレゼントを渡したり、こどもたちの無邪気な質問に答えたりするものです。こどもたちの夢を壊してはならないと、児童書専門店を経営する旧知の友人を何度も訪ね、サンタクロースの勉強を生真面目にするなど万全の準備を怠らず、おかげでゆく先々で父は大歓迎と大好評。ボランティアを終えたその日に園長先生や施設長様、サークルの主宰者様から『また来年も是非』熱烈なラブコールを贈られ、黙っていると怖い顔をゆるめておりました。


来たるべくサンタクロースボランティア出番の日まで父の願いを救急病院入院時から緩和ケア病棟へと移ってからも叶えてまいりましたが、ある時ふと気が付くと、叶えてあげたいことをやり尽くしてしまっていました。燃え尽きてしまっている自分が居ました。

今までできなかった親孝行、恩返しができることが嬉しくて、飛ばし過ぎてしまったのかもしれません。余命宣告はあくまでも目安でしかありませんから、早まることもある。まだあると思い、できなかった悔いを、母親の時のように残したくないという焦りもあったのだろうと思います。


サンタクロースボランティアの出番の日は12月。やり尽くした時は、まだ11月も頭でした。一ヶ月半近くもあるのに、なにもやってあげられることがない。燃え尽きてしまっている。

看護師さんの中にお母様をがんで亡くされた方がいらして、痛みや苦悩が判るのでしょう。誰よりも寄り添って話を聞いてくださっていたので、相談してみました。


転院当初してくださった話になった時でした。

『ここは病室ではあるけれど、お父様のお部屋のように使ってくださっていいんですよ』あのときのことばを思い出してみますと、そういえばひとつ屋根の下に暮らしているからといって四六時中父に話したり、なにかしているわけではないよなと気持ちが楽になり、わたしは気が付くとクスクスと笑っていました。

そして、こうも思いました。

ここが父の家、実家だとするなら、病室を訪れた時『来たよ』と言うのはおかしいよな。帰る時、『また来るね』と言うのもおかしいよなと。

救急病院の時、まだ父が会話できた時ですが、思い返しますと、『また来るね』と言って手を握り、手を振って病室を後にする時の父の顔がなんとも淋しそう。帰り道、胸が締め付けられそうでした。『あれが最期になったらやだな』と思いました。会話もままならなくなった緩和ケア病棟での父も、同じ気持ちなのかなと思いました。

『また来るね』は、『来ないかもしれない』。
そんな淋しさを、父の心に芽生えさせてしまったのかもしれません。

ですから相談したこの日から、病室を訪れた時は『ただいま』。病室を後にする時は、『いってきます』。父への声掛けを変えました。『いってきます』は、必ず帰ってくることを意味しますから。

すると今までは『来たよ』『また来るね』の時目を閉じたままだったのが、目を開いて、顔をわたしの方に向け、もうささやき声にも満たないのですが口をパクパク動かし、なにかを伝えてくれるようになりました。

きっと『おかえり』『いってらっしゃい』なのだと、わたしは勝手に思っています。


病院は、『行く』場所ではないのかもしれません。
訪ねる人は、『来る』ものではないのかもしれません。


人には、『いってきます』と言える人が必要なのだと思います。
『いってきます』と言える場所が必要なのだと思います。

人には、『ただいま』と言える人が必要なのだと思います。
『ただいま』と言える場所が必要なのだと思います。

人には、『いってらっしゃい』と言える人が必要なのだと思います。
『いってらっしゃい』と言える場所が必要なのだと思います。

人には、『おかえり』と言える人が必要なのだと思います。
『おかえり』と言える場所が必要なのだと思います。


家から病院へと変わっても。


本日も、いとをかし。
ヒロより。




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