白色の自己主張

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月と水

白色の自己主張
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photo credit:susivinh via Flickr (license)



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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                  353通目



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其の水が何処にあろうとも
亦其の水が清くとも
或いは澱みたるものでも
皆同様に月を映す

小説『波の窓辺』著者 九条ちひろ

TVアニメ『恋は雨上がりのように』第9話『愁雨』
http://www.koiame-anime.com/




                    *



水曜ドラマ『anone』#8に、こんな場面があった。
https://www.ntv.co.jp/anone/



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『どうしてみんなと同じようにできないの?』
『みんなが誰だか判らないから同じようになんてできない』

なにかといえば口答えする娘にほとほと手を焼いた両親によって
幼少期森の中に建つ更生施設へと捨てられるように入れられ

虐待による人格矯正の躾を行う施設長から
規格外を意味する『ハズレ』と呼ばれ続けた。

退所後は清掃会社で日銭を稼ぎながら
もう一年近くネットカフェ暮らし。

ここから抜け出そうという気持ちがないわけでもない。
無気力というわけでもない。

スマートフォンのチャットゲームで知り合った友人カノンと
文字でやりとりするのを楽しみに生きる少女 辻沢(つじさわ)ハリカ。



夫の浮気相手の子どもを自身の子どものように育てながらも
二十歳を前にその娘が母を捨てて失踪。

行方を知らないふりをしつつ実は夫は娘と何度も会っていたが
ふたりとも母親とは思っていないために一言も告げなかった。

そればかりか印刷所を営む夫が元従業員と共に
偽札造りに手を染めていたことが他界後判明。

印刷所床下から見つかった偽札を海岸で焼却処分する一方
重罪である偽札造りを正直に警察へ話すべきか思い悩む

法律事務所職員 林田亜乃音(はやしだ あのね)。



高校時代バンドマンになる夢を叶えるためバンドを組んだが
練習中仲間から押し倒され妊娠。

合意のないことにも心を痛めたが
流産してなおも心を痛めた。

社会に出れば女性というだけでどれだけ仕事を頑張っても
いつだって出世していくのは男性ばかり。

十数年が経ち、たまりかねて上司に思いを打ち明けるとようやく昇進。
部下が居ない倉庫。
書類整理の部署への配置転換だった。

結婚後は高校生の痛み以来子宝に恵まれたが
夫の母との生活では子育てにあれやこれやと口出しされ
夫は味方になってくれない。

あげくには甘やかし過ぎて親を奴隷扱いして命令し
母が体調不良で倒れてもその上をまたいで出掛けていく
人の痛みをまるで感じない子どもに育ってしまった。

職場でも居場所をなくし
家庭でも居場所をなくし

死に場所を求めるように会社も家も飛び出した青羽(あおば)るい子。



子どもを育てたい婚約者から病院で検査してほしいと頼まれ受診。
無精子症だと判ると音信不通になり、婚約破棄。

勤めていた工事会社で年度末の国の予算消化のため
発注された意味のない工事を繰り返す日々。

別の日の病院では
青天の霹靂の余命宣告半年。

男性としても
会社員としてもよのなかになにも遺せていない。

会社を退職後なにかを遺したいと
飲食店を営む父が他界後に残した咖喱ハウス Bon Bon を引き継ぎ
一旗揚げようと目論むものの閑古鳥が鳴くばかり。

そこへ小学校時代からの友人 西海(さいかい)が現れ
自分が働くカレー会社のフランチャイズになるよう勧誘。

儲かるという甘言に乗せられホイホイサインしハンコを押すが
案の定儲かることなどなく閉店を余儀なくされたばかりか
契約に伴う費用を払えなくなり土地も建物も明け渡しに。

なにかを遺せる頼みの綱もなくなって死に場所を求めている
『努力は裏切るけど諦めは裏切らない』が口癖の持本舵(もちもと かじ)。



交わるはずのない4人の人生が
林田の夫が遺した偽札を巡って交わり
奇妙な共同生活を始めることになっていく。



                    *



年商400億円のIT系アパレル企業社長の座を追われた中世古理市(なかせこ りいち)は
https://www.ntv.co.jp/anone/chart/

居を構える団地近くの弁当屋で働き
妻子を養う暮らしを細々と送っていた。



ある日

頭からすっぽりフードを被った全身黒ずくめの男が
うつむき加減で竜田揚げ弁当を一つ買いに来た。

異様な風貌を除けば
よくある注文にすぎない。

410円の竜田揚げ弁当の支払いに
男は黒の長財布から一万円札を取り出し

9,590円のお釣りを受け取ると
無言で店を後にした。



10分ほどしてまた同じ男がやって来た。
注文は、竜田揚げ弁当を一つ。

410円の竜田揚げ弁当の支払いに
黒の長財布から先程と同じ様に一万円札を取り出し

9,590円のお釣りを受け取ると
またも無言で店を後にした。



中世古と目を合わせることは一度もなかった。



まるでなにかを試すかのような行動に
勘の良い中世古もなにかが引っかかった。

支払いに受け取った一万円札2枚を
レジから取り出してじっと眺めた。



透かしもある。
ホログラムもある。
凹凸もある。



ただ一点、記番号が同じだった。



社長の座を追われ
生活は一変した。

妻は今の生活に不満を漏らすことはないが

何不自由ない暮らしから
妻子を養うだけで精一杯の暮らし向きになった。



お金への執着が中世古に取り憑いていた。



あの男が使った一万円札は偽札。
しかも、完璧ともいえる完成度だった。
邪な囁きが中世古の心に響いた。



自分の財布から本物の一万円札2枚をレジに入れ
代わりに偽札を持ち帰った。

ところが

妻が集金が立て続けに来たと言って
中世古が留守にしている時

財布から偽札で支払ってしまった。



自分と妻は逮捕されるのではないか。

来る日も来る日も怯えたが
警察が来ることはなかった。

ニュースにも四六時中張り付いたが
偽札が見つかったという報道はなかった。

まるで何事もなかったように。



あれはやはり完璧な偽札だった。
完璧な偽札を作ることは可能なのだと思った。



もう社長の座に返り咲くことはない。
一発逆転があるとすれば偽札以外にない。

技術を身に着けるために
仲間に引き込みやすいようにと

零細企業の印刷所をあえて探し出し潜り込んだ。



林田亜乃音が事務を務め
夫が印刷を手掛ける『林田印刷所』だった。



弁当屋とのダブルワークをしながら

妻には内緒で安い一軒家を借り
偽札作りの研究拠点にし

またITにも詳しいことから
一年かけてありとあらゆる紙幣識別機を調べあげ

完璧な偽札作りへの準備を着々と始めていた。



                    *



同じ頃

住居も兼ねる林田の家を飛び出した娘の玲(れい)は
前の夫との間にできた子ども 陽人(はると)と暮らすシングルマザーとなっていて

亜乃音に隠れて逢いに行くなかで
零細企業にも関わらず熱心に働く中世古を亜乃音の夫 京介(きょうすけ)は

玲が仕事で遅くなる時に陽人の迎えに行かせたり
玲が帰ってくるまで家で待つ陽人の相手をさせたりしていた。



そんなある日、玲と陽人が暮らすアパートが火事になった。



出火原因は特定されなかったが中世古は

京介

陽人

3人を見ていてある可能性に目を向けていた。



亜乃音が宛先が判らないままに書いていた玲への手紙を
京介が黙って持ってきて玲に手渡した時だった。

亜乃音のことなど母親とは微塵も思っていない玲は

『読んでやれよ』

懇願する京介の言葉など聞こえないとばかりに台所に立ち
ライターで手紙の束を淡々と燃やすのだった。



じりじりと玲の指先で燃えていく手紙の束を
部屋から陽人がなにかに取り憑かれるように見つめていた。



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幼稚園に通っていた陽人は変わり者で
思ったことをすぐ口にしては質問攻めにしたり
みんなと同じようにできずに先生たちを困らせていた。



ある日迎えに行った中世古に
幼稚園の先生から玲に渡してほしいと頼まれた手紙を見せた。



『幼稚園を辞めてほしい』と書かれていた。



大好きな玲に見せたくない陽人は
玲を困らせたくない陽人は

いつものように部屋で玲の帰りを一緒に待つ中世古が
京介から呼び出されて独りになった時

あの時玲がしたように
幼稚園の先生から預かった手紙をライターで燃やした。



熱くなって手を放し
火が点いたままの手紙をゴミ箱へと放り投げた。



くだんのアパート火災の原因は陽人だった。



だが、現実は違っていた。

住人の男性が逃げ遅れた陽人を助け出しながらも亡くなり
メディアの注目を浴びてヒーローとなっていた。

出火原因が特定されなかった報道は
小さな記事としてヒーロー報道に埋もれていた。



中世古は知っていた。

この男を普段から街でよく見かけていて
家出した少女に殴る蹴るの暴力を加えたうえ売り飛ばす

鬼畜だったことを。



幼稚園帰りの陽人とふたりきりになった時
それとなく水を向けた。

本当はどうだったのか
聞き出した様子をスマートフォンで撮影した。



印刷所で動画を京介に見せ

揺さぶり
『玲に言わないでほしい』という言葉を引き出すと

前に一度提案して
『このままでいい』と設備投資を渋った京介から

優れた技術と共に偽札作りへ引き込むこと
そのための設備投資を引き出すことに成功した。



                    *



中世古の黒い心はこれに留まらなかった。



京介が他界し偽札作りが頓挫したが諦めきれない中世古は
印刷所の設備を所有する亜乃音の前に再び姿を現すと

亜乃音の心のいちばんやわらかい部分
玲と陽人のことをちらつかせ揺さぶりを掛けた。



ハリカと人生が交わったことで

偽札が見つかった床下から
京介・玲・陽人3人の映ったデジタルカメラをハリカが見つけ

映っていた景色から玲や陽人に逢うことが叶った亜乃音。



探し出されたことに玲は苛立ちや嫌悪感を隠せないが
亜乃音はふたりが幸せに暮らしているのを知ったことや
遠くから見守れるだけで充分だった。



そんな関係に中世古は土足でずかずかと踏み込み
陽人の動画を亜乃音に見せ
偽札作りへと引きずり込んでいく。



告白当時まだ5歳で
事の重大さを理解していない陽人が本当のことを今知れば
一生人殺しとして生きていかなければならなくなるのだからと。

ヒーロー報道で加熱した世間やメディアが
本当のことを知ったらどうなるかと暗に脅して。



中世古のお金への異常な執着心はもう
誰にも止めることができなくなっていた。



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そんな中世古の態度は玲にも向けられ始めていた。



偽札作りに利用するため近づいたわけではなかったが

京介に代わり
玲や陽人と暮らすうちにいつしか親密な関係になっていき

妻子がありながらも入り浸る二重生活を送るようになり
玲には結婚の約束までちらつかせていた。



ふたりの関係に気づいた亜乃音は

実母ではないが
育ての母として

『こういうのは良くないと思う』

中世古に告げた。



その日から中世古の足が遠のいた。
もう用済みという意識もあったのだろう。
玲や陽人の元に姿を現さなくなった。



中世古を知る亜乃音が余計なことをしたのではないか。

中世古の裏の顔や偽札作りの事情を知らない玲が
陽人を連れて印刷所を訪れると中世古が居た。

もちろん偽札作りのためだが
玲の目には関係を引き裂こうとしているようにしか映らなかった。

(印刷所は、偽札作りの真っ只中。急に誰か訪ねてきて、ドアをドンドン激しくノック。ノックの主は陽人だったが、居合わせた青羽・持本・ハリカは警察かと思い、偽札に関するものを洗いざらい持って事務所に隠れていた)



中世古は、玲を避けているようだった。
もう無関心と言ってもいい。

亜乃音から住居のある2階にあがらないかと誘われても断り
一階で陽人と遊んで待っていると告げ

亜乃音は玲とふたり
親子だけが2階へと上がっていった。



                    *




(食器棚から玲が愛用していたカップを取り出して洗う亜乃音)
(仏壇に手を合わせる玲の後ろ姿に声を掛ける)

亜乃音:上着、そこにハンガー置いたから。
玲子: なにも・・結構ですから。

亜乃音:珈琲だけ。
玲:いい。

亜乃音:そう?

(洗ったカップを拭きながらけんもほろろに断られ声を落とす)
(立ち上がって部屋を見渡す玲)

亜乃音:

この部屋も随分変わったでしょ。あれは・・(壁に掛けた鏡に玲の視線があるのを見て)そうだね、あそこにあったね。学校行く前にね、あなたそこ立って、髪の毛変だから学校行きたくないって。

玲:彼になに言ったの?
亜乃音:ん?
玲:中世古さんになにか言ったでしょ。

亜乃音:『あなた、奥さんいるでしょ?そういうの、良くないんじゃないの?』って。

玲:

やっぱりね。
あなたに関係ないことでしょ。

亜乃音:だってつい・・

玲:

勘違いしないで。
まだ別にわたしたち、 そういうふうな関係になってたわけじゃないから。

亜乃音:そうなの?

(背を向けながら聞いていたのに顔を向けぱっと顔が明るくなった)

玲:

嬉しそうな顔して。
違うから。
『傍に居て』って、『結婚したい』って頼んでるのはわたしの方だから。

亜乃音:

馬鹿・・
そんなことしても幸せになん

玲:

幸せとかじゃないの。
支えがいるの、わたしも陽人も。
陽人は彼のこと大好きだし、彼も陽人のこと判ってくれるし。
この人がパパになってくれたら最高だなって。

(一階で中世古、そして訪問客が陽人だと判ったハリカらと紙飛行機を飛ばして遊んでいた陽人。はずみでジュースをこぼしてしまい、ハリカが2階へと取りに来る)

亜乃音:

違う。
彼は、あなたが思っているような人じゃないよ。
陽人くんのパパになんてならない。

玲:(なにを知っているんだかとばかりに)へぇ。
亜乃音:彼はそういう人じゃ

玲:

だからわたしの勝手な・・バカな、願望だって。願望をいちいち否定しないでよ。旦那に見捨てられて、将来不安で、わたしと陽人がどれだけ我慢してきたか、知らないでしょ?彼に出会えて、どれだけホッとしたか、知らないでしょ?彼に救われたんだよ。

やっぱりあなたは自分の気持ちばっかり。
わたしのことなんてなにも考えてくれてない。

(立ち聞きするつもりはなかったが想いが溢れたハリカ)
(家族に捨てられた自分を家族のように迎えてくれた亜乃音に代わって)

ハリカ:

違います。
亜乃音さんは違います。
亜乃音さんは自分のことじゃなくて、陽人くんと玲さんのために言ってて。
亜乃音さんはあの人から

亜乃音:(口止めするように)ハリカちゃん。


(亜乃音は、ハリカだけは偽札作りに引き込みたくないと思っていた。だが中世古は、触っただけで中世古と京介が作った精巧な偽札を見抜いたり、偽札用の紙サンプルを膨大な数の中から選びだしたハリカを仲間に引き入れたかった。そこで亜乃音を介し陽人と仲良くなっていたことに漬け込み、例の動画を見せた。そして、陽人に動画を見せないことを約束する代わりに、ハリカのチャットゲームの友達カノンが重病の治療で多額のお金を必要としているという心のいちばんやわらかい部分に甘く囁きかけ、失うものがなにもない青羽・持本らと共に仲間に引き入れていた)


(それまで離れて話していたがぐっと歩み寄る玲)
(それは他人だと突っぱねていた亜乃音との心の距離でもあった)

玲:

あのね・・間違ってるの判ってるんだよ。許されないことしてるの判ってるよ。でも、もしかしたら(おかあさんと言いたかったが言葉にできない「・・」と表現・亜乃音の両肩に手を置き判ってよと揺すって)・・だけは認めてくれるかなって、ちょっと思っちゃってたの。

(なんとか想いを重ねたいと、玲が肩に置いた両手に左手・右手と順に自分の手を重ねる亜乃音)

『好きになったんなら仕方ないね』『応援するから、けじめだけはしっかりしなさいね』とか、ウソでもそういうこと言ってくれるかなって思っちゃって。そしたらまた、昔みたいに話せるようになるかな?あの頃に戻れるのかなって・・そしたらそれはそれで、わたしの支えになるかなって。

(置いていた両手をぞんざいに下ろして)

勘違いしてた・・
やっぱりあなたは、おかあさんじゃなかった。
あ~あ・・なんで来ちゃったんだろ。

(目も合わせることなくバッグを持って一階へと下りていく玲)

(止めることもできず、なにもできず、差し出そうとした手が宙を泳ぎ、母としてなにもできなかった、なにも言ってあげられなかった情けなさから溢れてきた涙をカップを拭いていたタオルで抑える亜乃音)

(亜乃音に寄り添うハリカ)
(すぐに顔を上げる亜乃音だが)

亜乃音:駄目なおかあさんだね・・

ハリカ:

ううん。
亜乃音さん、今、すごくおかあさんだったよ。
やさしいおかあさんだったよ。




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玲を見ていて重ねた女性が居ます。



出産後間もなく名前を授けた赤ちゃんを亡くし
その後おつきあいしたぼくを結婚式に招待した『あきちゃん』です。



あきちゃんのおうちに初めて呼ばれたとき

産まれて間もないときの赤ちゃんの写真と
骨壷に入ったお骨が置かれていて

おちゃらけた言動の裏にある哀しい過去を知りました。



あきちゃんとは

13年間の遠距離恋愛で婚約した女性を挙式直前に亡くした後
今のパートナーと出逢うまでの間に

一年間ほどおつきあいしていました。



あきちゃんは

女の子の赤ちゃんを亡くした後
心身ともに疲弊して離婚。

その後は『オトコが途切れたことがない』と豪語し
男性をとっかえひっかえしていたらしく

不倫したり
二股かけたりする女性だと

周囲から忠告混じりにそんな話を聞かされていました。



事情が事情とはいえ

『なんだ、つなぎか』
『大学の滑り止めみたいなもの』
『保険ってとこか』

落胆したりもしました。



『いいように使われたな』
お別れしたときにはそんなことも思いました。



でも、彼女からあるとき結婚式への招待状が届いて

『そっか。アイツ、しあわせになったんだな』

と判ったとき、あのときとは違う想いが湧きあがっていました。



                    *



ぼくには死産の経験はありませんから
ただただあきちゃんを思い
こころを痛めることしかできません。



無力だと思いました。
『あきちゃんの哀しみを癒やすことなんてできなかったな』と思いました。



ただ、たとえ無力であっても

『なんだ、つなぎか』
『大学の滑り止めみたいなもの』
『保険ってとこか』
『いいように使われたな』

だったとしても
それはそれでよかったんじゃないかなと思えました。



ぼくの他にも同じように
つなぎやいいように使われた男性も居ました。



でも

そうして一緒に過ごした日々の先に
今のあきちゃんのしあわせがあるのなら

それはそれでよかったんじゃないかなと思うのです。



きっとあのときのあきちゃんは

とっかえひっかえしながらであっても誰かに寄りかかっていないと
赤ちゃんを亡くした辛い出来事で

自分が壊れてしまったんじゃないかなと思うから。



『赤ちゃんを亡くしたことを餌に男を釣ってる』
『男を漁るふしだらな女だ』
『淫乱ぱくぱくオンナ』

なんと言われようと
そうしていないとこころが壊れてしまったんだろうと思うのです。



壊れそうな自分を守るには
なんとか踏みとどまるには
そうせざるをえなかったんだと思うのです。



とっかえひっかえに映ったのも
寄りかかりすぎて共倒れにならないようにと

『もう飽きた』
『他に好きな人ができちゃった』

自ら身を引いたからなのだと思うのです。



                    *



あきちゃんは
赤ちゃんを亡くした後におつきあいした今までの元カレ全員に
結婚式への招待状を送っていました。



最初は、『図太い神経してんなぁ』と思いました。



でも

式場の一角に『元カレ席』なるテーブル席を設けていて
最初はお笑い好きのあきちゃんの冗談かと思ったのですが

そこに集った気風が良い男性陣は
『華麗なる男性遍歴』いう場を盛りあげるネタではなく

『今のわたしがあるのは彼らのおかげ』

そんな想いを伝えたいから招待したのだと知って

『柄にもないことすんなよな』

なんて思いながらも
なんだかじんときたことを今でもよく憶えています。



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其の水が何処にあろうとも
亦其の水が清くとも
或いは澱みたるものでも
皆同様に月を映す

小説『波の窓辺』著者 九条ちひろ

TVアニメ『恋は雨上がりのように 』第9話『愁雨』
http://www.koiame-anime.com/




玲にとって亜乃音は
月と水のように居てほしかったのではないでしょうか。



『産まれてくる子どもに罪はない』なんて綺麗事
浮気相手の子どもという選ぶことを許されない境遇
母親だと思っていた人が実は赤の他人だったという衝撃

中世古の事情があったとはいえ亜乃音も不器用で
自分は家族として偽物なのかという複雑な想いを抱えていたとは思うけれど

それでも『母』として頼った亜乃音にだけは。



『仕事とわたし、どっちが大事なの?』と聞かれて

生真面目に『どっちも』だったりいずれかを選ぶのではなく
その奥にある淋しさのサインに目を向けるように

『不倫』というだけで感情的になるのではなく
善悪で一刀両断するのでもなく

その奥にある哀しみや苦しみに目を向けられたらなと思います。



誰もがおおらかに居られるわけではありませんが
そういう生きかたしかできないときがあり
そうせざるをえないときがある。



人は、弱いものですから。



ぼくは、そちら側に居たいと思います。


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