白色の自己主張

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世界で一番短い手紙

白色の自己主張
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Photo:Hope By:through the lens 2012
Photo:Hope By through the lens 2012



白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



                    *



                  354通目



                    *




『走ってると、耳が風の音でいっぱいになって、空に溶けてるみたいになる』


風の音を聴く少女 橘(たちばな)あきらは
http://www.koiame-anime.com/character.html

風見沢高校陸上競技部の選手になっていた。



                    *



『小説は恋人』

早稲田大学文芸サークルで小説家を志し
書いて書いて追って追った青年 近藤正巳(こんどう まさみ)は

ファミリーレストラン『Cafe レストラン ガーデン』の店長になっていた。



                    *



TVアニメ『恋は雨上がりのように』第10話『白雨』に、こんな場面があった。
http://www.koiame-anime.com/



                    *



幼少期からの変わらぬ俊足ぶりで
陸上部のエースと目されるまでになったあきら。

ある日の練習

右足首に違和感を覚えてテーピングをしていたが
大したことはないと自己判断。

大会が近いことからも
周囲の期待からも

練習に臨んだ。



だが

スタートしてしばらくすると
パン!という鋭い音とともに失速。

その場に倒れ込んだ。



右脚が動かない。
すぐに病院へと運ばれた。



アキレス腱の断裂だった。



医師からの説明に涙する母の隣で
表情ひとつ変えずに説明を聴くあきら。

車椅子生活を余儀なくされ
松葉杖で歩けるようになってからも

教室では誰とも交わらず
心は死んだようになっていた。



陸上部は退部。



リハビリを行う整骨院へと通い始めても
からっぽの心は晴れぬままだった。



                    *



ある日の整骨院帰り

自身の心と似て
どんよりした曇り空の下を歩いていると

ぽつぽつと雨が降ってきた。



家へと帰る気持ちになれず
かといって何処かへ行きたいわけでもない。

行く宛もなく
傘もささず街を濡れ歩いていると

視線の先にファミリーレストラン
『Cafe レストラン ガーデン』があった。



雨が降ると傷が痛む。

それだけでも憂鬱なうえ居場所もなく
心の置き所もない。

そんな自分を持て余すかのようにお店へと入ったあきら。

なにか注文しなければと
ストロベリーパフェを頼んだ。



とりあえず頼んだもの。

味もせず
ただただ平らげ
雨が降りしきる様をぼぉっと眺めていると

湯気と香りがあきらにそっと寄り添ってきた。



テーブルに差し出されたホットコーヒー。




『あの・・アタシこれ、頼んでませんけど』


運んできてくれた店長と思しき制服を着た店員は
戸惑うあきらにこう言ってくれた。

近藤との出逢いだった。




『サービスです。ただ雨が止むのを待ってるだけじゃ、つまらないでしょう?』




それでも口をつけないあきらを見た近藤はブラックが苦手かと思い

即興の手品を披露して
手からコーヒーフレッシュをパッと出し置くと

あきらの顔にほんのり花が咲いた。




『きっと、すぐ止みますよ』




笑顔を添えて言い
立ち去る近藤の後ろ姿をあきらは見つめていた。



筆でまあるく円を描くようにフレッシュを注ぎ
コーヒーがキャラメル色に染まっていくと
テーブルに陽が差した。



『あの人の言ったとおりだ』



立ち去ったバックヤードの方へと顔を向けると
暖簾の合間からスタッフになにやら小言を言われ
ぺこぺこしている近藤の姿が見えた。



どこまでも良い人のようだ。



お店を出て空を見上げると
雨はすっかり上がり青空が広がっていた。



陽の光に街が包まれ
あきらもまた包まれていた。



                    *



陸上を失った心の雨はいつしか止んでいた。



                    *



心の雨に傘をくれた近藤。
あきらの胸にはときめきが宿っていた。



近藤の傍に居たい。
近藤のことをもっと知りたい。



お店の案内でアルバイトを募集していることを知ったあきらは
横浜からわざわざ通ってガーデンで働き始め

パートの久保が『バツイチ子持ち』『一生店長止まり』
いつでも何処でも誰にでもぺこぺこ頭を下げてばかりで
うだつが上がらない45歳の男と評するなかでも

アルバイトの西田から加齢臭で『臭い』
『話す時は口呼吸してる』と言われるなかでも

自分だけの魅力を密かに見つけては
近藤への恋心を募らせていった。



そうして募りに募った恋心を『好きです』とストレートにぶつけるが
人として好意を持ってくれていると勘違いされたり

募りに募った恋心を再度『好きです』とストレートにぶつけても

傍からどう見えるか(援助交際 or パパ活)であったり
若さ眩しいあきらに比べて夢も希望もないからっぽの中年だし

また従業員の関係との立場から近藤は
あきらの想いに正面切って応えることはできず

袖にするでもなく
大人の対応という落とし所

『友人』という形で応えることを選んでいた。



                    *



『友人』を選んだのは、周りの眼だけが理由ではない。
若さと純粋さを持ち合わせない近藤。
自分が傷つきたくなかったのだ。



                    *



何の気なしに口にしたデートや連れ子とのふれあい
自宅を訪れたりして近藤のことを知ってくなかで

本の虫であり
純文学が好きだと知ったあきらは

自宅にあった古紙回収に出す古新聞の束に
横浜赤レンガ倉庫で開かれる青空古本市のチラシを見つけると


『友人として、オススメの本を教えていただければ』


もっともっとお近づきになりたいと近藤を誘った。




『任せてよ』


晴天の下嬉々としてやって来て胸を張る近藤だったが
古本市に学生時代の馴染みの店主が出店していて
意気投合して学生時代へとタイムスリップすると

誘ってくれたあきらをほったらかしにしてお願いも忘れ
店主がここぞとばかりに持ってきた本に夢中になったり

(店主曰く眼鏡をかけて読みだしたら周りが見えなくなる)

店主が古道具屋から頼まれて置いているという古葉書を
あきらが見ている間にひとり何処かへと消えてしまい

店主ともども呆れさせる。



ただそんな近藤をあきらは怒るでもなく
むしろ微笑ましく思って待つことにした。



                    *



『?』一文字だけのメールを送って。



                    *



馴染みの店主が居る場所へとやって来た時近藤は
物珍しげに古葉書を手に取るあきらに店主とこんな話をしていた。



フランスの作家ヴィクトル・ユーゴーが
自身の本の売れ行きが気になり出版社へと
『?』とだけ書いた手紙を送った。

すると出版社からは売れ行き好調を意味する
『!』とだけ書かれた手紙が届いた。



いまいち意味がつかめずきょとんとするあきらに近藤は

これが『世界で一番短い手紙』と言われているもので
ユーゴーと出版社の間に確かな信頼関係があったから
『?』『!』だけでやりとりができたんだと言い

他の人にはどうってことない文面かもしれないが
あきらが手にしている古葉書の短い文面の中にも
本人たちにしか判らない想いが詰まっているんじゃないかなぁ

ロマンチストに話していたことを憶えていたあきらは
近藤に『?』とだけ書いたメールを送ったのだった。



                    *



代る代る古葉書を手に待つあきらのスマートフォンに
メールが届いたことを知らせるベルが鳴った。



『!』の文字。
『通じた』あきらの胸は躍っていた。



                    *



すっ飛んで帰ってきた近藤は
ほったらかしにして自分だけ楽しんでしまったことを平謝り。


『そういうことって、誰でもあると思うので』


鷹揚なあきらに近藤は
店主が持ってきた本の中からどうしても欲しい本があり
値切って買うための条件に出されたセットの古葉書一枚を

お詫び代わりにあきらにプレゼントすることにした。


『さっきから気になっていて』


手にした古葉書には
こんな言葉が綴られていた。



                    *




お手紙拝見。
忘れることのできないものは
無理に忘れることはないと思います。

季節が巡ったら、
またお会い致しませう。




                    *



数日後の Cafe レストラン ガーデン
オフィスで休憩に入ったあきらが
デスクでパソコンに向かう近藤に声を掛けた。



あの時の古本市で近藤を待つ間にタイトルが気になって手にした
夏目漱石(なつめそうせき)の小説『それから』。

文庫の中に使い込まれた栞が入っていて
お店に返した方がいいのかと問うあきらに

近藤はこれも本の一部であり
これもまた古本の魅力だからこのままにしていいと

あきらに文庫を渡そうとした時だった。




『大発見!』


思わず声をあげると
栞を陽に透かした。

クローバーが添えられた栞に
燕のシルエットが浮かんでいた。



透かしとして最初から入っていたというよりも
箔が剥がれてこんな姿が浮かびあがったのだと思うと

あきらの心はプレゼントしてもらった古葉書の文面と併せて
巡り逢いになにかを感じずにはいられなかった。



                    *




近藤:燕と言えば、そこのドアの所に燕の巣があったんだけど
あきら:え?そうなんですか?

近藤:久保さんが壊しちゃったんだぁ・・
あきら:えっ!!

近藤:

糞が酷くてねぇ。
飲食店だから仕方ないけどね。
悲しかったなぁ。

(慌てて窓を開け巣を確かめようとするあきら)

近藤:

あぁ、いやいや。
雛が皆巣立った後ね。

(あきらの視線の先には既に壊された巣の跡)

近藤:

一羽だけ、なかなか飛び立たなくてねぇ。
ひやひやしたもんだけど、無事みんな巣立っていったよ。


(栞を手に風に吹かれ空を見上げるあきら)

あきら:もしも
近藤:ん?

あきら:仲間と一緒に飛び立てなかったら、その燕はどうなってしまうんでしょうか?

(近藤の眼に、あきらの怪我をした右脚が映った。燕の巣は陸上部、飛び立てなかった最後の一羽はあきらなのだろうと思った。『飛び立たなかった』のか、『飛び立てなかった』のか。言葉を選びながら、恋い焦がれていたものを失った、報われない挫折を知るからこその自分だけの言葉を紡いだ)


(近藤は小説家になりたいと学生時代から小説を書いて書いて書きまくってきた。だが芽が出ない。同じサークルで仲の良かった同級生 九条ちひろが学生時代に書き上げた作品で文壇デビューし、才能というものを嫌というほど見せつけられた。それでも諦めきれずに追いかけて、追いかけて、周りの人間も傷つけて、離婚しても、今もまだ諦めきれずに人知れず書いている。あきらと出逢ったことで沸沸としたなにかが自身の中で芽生えたこともおおきいが、『俺の文学への想いは誰も救うことができないのか』そんな鬱屈した想いにも独り苦しめられていた)


近藤:

飛び立てなくても、其の地に留まって得る幸せもあるかもしれないねぇ。仲間たちのことも忘れて。でも、その燕の飛び立たなかった理由がただの諦めであったとしたら、きっと毎日空を見上げることになる。ずっと・・永遠に。

なんてな・・ははははは。
いや、ごめん。
喋りすぎたね。

(持ったままの文庫と栞をあきらに返して)
ああ、これ、ありがとう。

もう、古本市の時といい、最悪だな俺は。

(デスクへと戻り、椅子に腰掛ける近藤。受け取った栞と文庫を手にしたあきらの胸には、出逢った時のこと、出逢ってから近藤が贈ってくれた言葉が綺羅星の如く湧きあがっていた。そして、古本市で近藤を待つ間店主から近藤が小説家を目指し、自分でも書いているはずだと聞いたこと。以前連れ子を送り届けるために近藤の自宅を訪れた折、障子の隙間から偶然目にした書斎。机の上の書きかけの小説と思われる原稿用紙を思い出していた)


(あきらの持ってきたドリンクの氷がカタリと音を立てた)

あきら:店長。
近藤:ん?

あきら:アタシは、店長の言葉が聞けてうれしいです。
近藤:え?お、俺の?

あきら:店長の言葉をもっと聞きたいですし、いつか店長の言葉を読んでみたいです。
近藤:お、俺の言葉を?

(デスクに置かれた黒い手帖を見て)
(いつも店長のことを見ていたから)

あきら:店長がメモを取るのは、いつか書く小説のためですよね。

(立っていた窓際から一歩歩み寄って)

近藤:こ、こんな俺の?
あきら:そんな店長だからです。


あきら:

それから、本当に飛ぶことを諦めた燕は、きっと空を見上げることも忘れてしまうでしょうから。

(空を見上げるあきら)
(そっと手帖に手を乗せた近藤は心の中で呟いた)

近藤:

燕は知っている。
雨の当たらぬ場所は、陽も当たらぬ場所だと。


(自分で持ってきた飲みかけのドリンクの入ったグラスと近藤が飲み干したコーヒーカップをお盆で片付けながら、あきらはこう言って仕事へと戻っていった)

あきら:アタシ、店長の書く小説、きっと好きです。

(一礼してオフィスを出るあきら。姿が見えなくなると、45歳、男、店長、小説への未練、才能無き自分、同級生への嫉妬、傷つけてしまった人たちのこと、強がっていた心の紐が緩んだ。まさかこんな形で言ってもらえる機会が訪れるなんてという苦笑いと綯い交ぜになって)


近藤:

ふっ・・
はは・・

『許されたい』、なんてそんな大袈裟なことじゃない。
けれどずっと、誰かに言って欲しかった。
『それでもいい』と。


ありがとう。




                    *



近藤は、空を見上げていた。



                    *



空を見上げる近藤を見ながらぼくは
児童文学作家 松谷(まつたに)みよ子さんの民話絵本
『さるのひとりごと』を思い出していました。



                    *



たくさんの仲間の猿に囲まれて山で暮らす一匹の猿。

ずっと山の中に居るから
たまには海でも見てみたいなぁと出掛けた。

浜辺に凛と立つ松の木に登り海を見渡すと
なんとも気持ちが良い。

あまりに気持ちが良くて
思わず独り言を言ってしまうほどだった。




海は ええなあ

かぜは ぶうぶう ふくなり
なみは どんどと うつなり
さかなは ぴらぴら およぐなり

海は ええなあ




すると

どこからともなく
『うん』と返事が聞こえてきた。

周りを見渡してみるが
声の主は見当たらない。



気のせいかとまた呟くと
またまた『うん』と返事が聞こえてきた。



せっかく独りで海を眺めていい気持ちでいるのに
勝手に返事をするなんて誰だと猿は怒り
木から降りて『うん』と言ったやつを探しだそうとする。



すると、石の陰にちいさなカニが居た。



それが声の主だと判ると
猿は怒りに任せて石でカニを潰してしまう。



もうこれで勝手に返事をするやつは居なくなったと

ふたたび松の木に登り
海を独り眺め

あまりの気持ち良さに独り言を呟く。



でも、もう『うん』という声は聞こえない。
ひとりぼっちの静かすぎる世界。



とたんに猿は寂しくなり

木から降りて
潰してしまったカニを丸めて団子を作り
石の上にちょこんと座らせると

松の木に登り
海を眺め

独り言を呟く。



すると、『うん』と返事が聞こえてくる。



何度独り言を呟いても
『うん』と返事が聞こえてくる。

猿はそれがうれしくて
うれしくてたまらなくて

陽が暮れるまで繰り返すのだった。



                    *



『うん』
『それでもいい』

じぶんの想いを判ってくれる人が居るということ
じぶんの想いを受け止めてくれる人が居るということ

それもまた世界で一番短い手紙なのだと思う。


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