~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~

嫌いな自分を嫌いになったりしていたあの頃





You are the reason why I write. あなたがいる、それがわたしの書く理由。
Donna Jo Napori (ドナ・ジョー・ナポリ)http://www.donnajonapoli.com/about.html



     白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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親愛なる 蓮に

TVアニメ『鹿楓堂よついろ日和』第八話『エスプレッソ・エスプレッシーヴォ』に、こんな場面がありました。

店主で、お茶を担当するスイ(東極 京水 http://rokuhoudou-anime.jp/character/)。料理担当のときたか(永江 ときたか)。スイーツ担当の椿(中尾 椿)が働く和風喫茶 鹿楓堂(ろくほうどう)で、珈琲を担当するイタリア出身のバリスタ ぐれ(グレゴーリオ・ヴァレンティノ)。

(味はピカイチだが、ラテアートは微妙。時にホラーのようでさえあり、毎度お客様をフリーズさせる。ただ、クチコミサイトではファン多し http://rokuhoudou-anime.jp/story/

毎朝ジョギングするのが日課となっていて、ある日公園を走っていると、ベンチに学生服を来た男の子『渡辺洋(わたなべ よう)』が居るのが見えた。どこかもの憂げ。その姿は、かつての自分と重なって見えた。

フレンドリーに声を掛け、元気づけようと公園内の池にあるアヒルボートへと半ば強引に誘い、『オレは池のスピードスター!』雄叫びを上げると、ノリノリで爆走。気の合った仲間とアヒルボート同好会を結成しているほどで、きょうも気分爽快ハッピーだったと満足気なぐれに対し洋は底抜けな陽気さにまったくついていけず、かえってぐったりするばかり。

ずかずかと心に入ってくるぐれが無神経に映った。
一秒でも早くこの場を離れたいと去っていった。


鹿楓堂でみんなにこの出逢いを嬉々として語ると、出逢った時間を尋ねられた。『8時半から9時頃だった』と話すと、学校へ行っている時間に公園のベンチに独りで居るということは行きたくない訳があるのではと教えられ気に掛かる。

案の定、この日を境に洋は姿を見せなくなった。
ぐれは『学校へ行けたんだ』ポジティブだったが、洋は不登校だった。

家庭では腫れ物に触るような両親との距離感に悩んでいる。自分のことを巡って両親が言い争いをしているのを目にしたのも一度や二度ではない。勉強が出来るわけでもない。根暗で、友だちがいるわけでもない。なにか熱中出来るものがあるわけでもなかった。

あの公園は学校にも家庭にも居場所がない自分にとってやっと見つけた居場所だったが、ぐれが良かれと思って声を掛け、ぐいぐい関わろうとしたことで気圧され、居づらくなってしまったのだった。

両親には学校へ行っているふりをして不登校のことを黙っていたり、時には図書館で勉強などと嘘をついてその場しのぎを繰り返してきたが、学校から連絡があり、先生も訪ねてきて、抜き差しならないところまできてしまった。

もうどこにも自分の居場所がなくなり、観念して久し振りに登校したが、そんな洋をいじめっ子たちが放って置くわけがない。下校の時、下駄箱で囲まれてしまった。

学校でのことを帰宅して両親に話そうとしたが、言い争いをしているのを見てしまって、言えずに家を飛び出した。

ぐれは姿を見なくなって以降も気に掛け、時間をずらして見に来たりもしてみた。だが、何度来てももう姿はない。学校へ行っている時間に公園のベンチに独りで居るということは行きたくない訳があるのでは?あの言葉が棘のように刺さって抜けなかったが、ここにもう来ないということは洋にとっては良いことなんだと、気持ちを切り替えようと、スイらを食事に誘った。

洋が不登校であることや、家族との関係に悩んでいることなど知る由もなく。


その帰り道。ぐれと張り合って食べ過ぎた椿のために、ショートカットして住まいを兼ねている鹿楓堂へと戻ろうと公園を通っていた時だった。

夜のベンチに、膝を抱いている洋の姿があった。
ぐれは、鹿楓堂へと誘った。

『さてと、なんか飲む?』呼び掛けても反応のない洋に、ぐれは鼻歌を歌いながら『じゃあ、勝手に作るよ』レバー式のエスプレッソマシンへ(全自動式が主流ななか、レバー式にこだわっているのにはある理由がある)。初めて声を掛けてきた時同様自分勝手、マイペースなぐれに、洋が口を開いた。


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洋:

どうして・・
なんで・・
おれなんか放って置けばいいのに。

ぐれ:こんな時間にひとりで居たら危ないし、第一、オレの夢に反するからね。
洋:夢?

ぐれ:

そう!
オレの夢は、人類全員を笑顔にすることなんだぁ♫
Love&Peace!
笑顔は地球を救う!

(ミュージカル調のぐれにドン引きの洋)

ぐれ:えっ・・なぜそこで引く・・
洋:まさか、おとながそんな夢堂々と語るとは思わなかったから。

ぐれ:

ハッハッハッハッ。
でっかい夢だろう?
だからまず、オレが関わる人たちから笑顔にしたいんだ。

洋:

無理だよ。結局、笑顔で暮らせるのなんて恵まれた人だけじゃん。あなたみたいに明るくて、友だちも居て、自分の居場所もある。そんな人にはわからない。わかるはずない。どう頑張ってもなにも変わらない。毎日辛くて、疲れて、虚しくて、笑顔になんてなれるわけないじゃないか。

ぐれ:オレも昔はそうだったよ。
洋:えっ?

ぐれ:

自分を取り巻くものすべてが気に入らなくて、暴れてた時期があったんだ。
家族にすら耐えられなくて、逃げ出して。
そんな時、あの人に出逢ったんだ。



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心を込めて洋に淹れるエスプレッソを準備しながら、イタリア時代にあったことを思い出し語った。

10代のぐれ。家族と喧嘩し、薄着のまま、雨の降る冬の街へと傘もささずに飛び出した。とあるバールの軒先で雨宿りをしていると、扉が開いた。ぶっきらぼうな物言いの店主に中に入るよう促される。

突っ立ったまま投げつけるように『金はない』と告げても、店主は背を向け、エスプレッソマシンの前に立ってなにかをしている。ぐれの眼光は鋭く、おとなを寄せ付けない眼だった。

後ろ姿を見ていると、レバー式のマシンでエスプレッソを淹れる準備をしているのだとわかった。どこの馬の骨だか知れない奴のために、ひとつひとつの工程を、丁寧に、心を込めて。


味わったことのない優しい時間が流れていた。


香りが誘ってくる。
顔を向けると、店主がぶっきらぼうにエスプレッソを差し出した。

『飲め』

戸惑い、眼光は鋭さを増した。『要らねぇよ。施しを受けるほど落ちぶれちゃいねぇ』そっぽを向くぐれに、なおも店主は勧めた。

『飲め。おまえに淹れた』



ぐれ:オレに?

店主:

他に誰が居る。
エスプレッソの飲み方くらい知っているだろう、この街の男なら。



そうまで言われて『要らねぇよ』とは言えない。
だったら飲んでやるよと口にした。


心を射抜いた。
舌を虜にした。


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ぐれ:

忘れられない味だったよ。それからマスターの店で働き始めたんだ。どうしてか、自分でもよくわからなかったけど。あんな珈琲を淹れられるようになったら、なにかが変わるような気がして。

(テーブルで待つ洋の元へ)

はい。
お待たせ。
店では出さないんだけど、これがオレの故郷のエスプレッソ。

(うなだれたままの洋へ、あの時店主が淹れてくれたようにエスプレッソを差し出した)

ぐれ:砂糖が入ってるから、よ~くかきまわして。
洋:え・・あ・・はい。

(言われた通り、素直に、ぐるぐるとかきまわす)

ぐれ:

その時、マスターが言ってたんだ。『坊主、周りが変わってくれることを望むな。世の中は不公平だ。どうにもならないことは山とある。それを恨んだってなにも変わらない。悔しかったら、まず自分を変えてみろ』

(回想:自分のために淹れてくれたエスプレッソを見つめるぐれ)
(そんなぐれに濡れた頭を拭けと、ぶっきらぼうにタオルを乗せてくれた店主)

ぐれ:

よし!飲み頃だねぇ。
淹れたてが美味しいから、さっ、ぐぅっと飲んで。

洋:え・・あぁ・・いただきます。

(ぐっと飲み干すと心を射抜かれた。舌が虜になった)

あ・・
えっ!?
珈琲なのに、チョコみたいな味がする。
なんで?

ぐれ:

なっ!
美味いだろ?

(洋の視線の先にあったぐれの笑顔が、自分のためだけに、営業時間外なのに淹れてくれたエスプレッソが、洋の心を解かした。泪とともに誰にも言えなかった想いが流れ出た)

洋:

世の中のさ、嫌なところばかり見えるんだ。どうして自分だけ、不公平だろって。許せなくて、苛ついて。本当は、わかってる。父さんも母さんも悪くない。おれのために働いてくれて、喧嘩するのだって。けど、いきなり夢とか、やりたいこととか言われても、そんなのわかんないよ!辛い思いして学校に行ったって、頑張る意味なんか・・わかんないよ!

期待されると、重くて、苦しくて。だから逃げて、諦めたふりして・・でも・・でも・・ほんとはおれ・・ほんとはそんな自分が・・一番・・一・・一番・・嫌いだったぁ!

(思いの丈を打ち明け嗚咽する背中に、ぐれの手があった)
(あの時寄り添ってくれた店主とエスプレッソのように)



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夜も遅い。付き合わせてしまったからと、自宅近くまで送り届けていると、名前を呼ぶ声がした。『洋』と。顔を上げた先には、懐中電灯を手に捜す両親の姿があった。



洋:ねぇ。変わるのって怖くなかった?
ぐれ:最初の一歩さえ踏み出せば、あとはなんとかなるもんだよ。



イタリアのお菓子『フロランタン http://home.tokyo-gas.co.jp/shoku/recipe/conro_oven/dessert/32/index.html』を、洋、そして両親の分と合わせお土産として手渡すと、『行って来い』背中を押した。


出逢ってからきょうまで笑顔のなかった洋。
その笑みは、自分にOKを出せた笑みだった。


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幼少期から青年期にかけて理想の子どもになるよう躾と称した虐待を受けて育った出来の悪いぼくは、ある時ふたりの落胆がMAXに達して『失敗作』と罵られたうえ、『生きててごめんなさい』『産まれてきてごめんなさい』至らない罰として執拗な平手打ちを食らった朦朧とした意識の中、両親から『言え!』と言われ、言わされました。生きるためには、言わなければ許してもらえなかったからです(https://ippunkan.blog.fc2.com/blog-entry-443.html)。

あの時、ぼくが立っている地面が無くなったようでした。
自尊心っていうものが無くなったんだと思います。

以来ずっと超低空飛行の自己肯定感で生きてきて、ちょっとした躓きですべてをぶち壊して人生を終わらせてしまいたくなる衝動『リセット癖』が発動するように。自分ができる精一杯のことを続けてきて、もうちょっとで形になるというところで両親から気に入らないとばかりに壊されていたことも衝動の根っこにはあったのだろうと思います。

そうしてリセット癖が発動すると最悪自殺未遂に至り、今までに7度も繰り返してきました。


自殺未遂をする前も後も、もう生きていたくないという気持ちがMAXに達しているから、とにかく自分を粗末にするわけです。

ドラマ『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』で、莫大な資産を得て復讐鬼と化すモンテ・クリスト・真海(しんかい)となる前の漁師 柴門暖(さいもん だん)が、裏切りと罠に嵌められたことにより、見ず知らずの異国ラデル共和国の監獄へ投獄(https://youtu.be/mhc0PEP_Y6k 【公式】モンテ・クリスト伯のすべてが分かる5分動画!最終章直前、一挙振り返りSP!)。一生牢獄。拷問や衰弱で死ねば海に捨てられ、魚の餌という最期が待っている。

粗末な食事、劣悪な環境の中で絶望し、無気力になり、時間がただただ過ぎるのを待ち、孤独と闘う姿のように、お風呂に入らない、顔を洗わない、服も下着も替えない、髭も伸び放題、髪もぼさぼさ。社会と断絶しているから、こんな自分をなんとかしようとも思わない。カーテンも窓も閉め切り、朝だか昼だか夜だかもわからない部屋の床に倒れたまま動かない。動けない。一点を見つめたまま、死んだように生きる。ただただ時間が過ぎるのを待つ日々。

いつしかお手洗いにも行く気力さえなくなり、食べなければ、飲まなければ行かなくていいと、食べない、飲まないに。そうすると歯を磨く必要もなくなり、磨かない。掃除もしない。ゴミはほったらかし。噎せ返る悪臭、厚みを増す埃、皮脂や汗などの汚れでますます自分のことが嫌いになり、もうどうでもいいやとますます自暴自棄へと堕ちていく。

宙を舞う埃が隙間から差し込む僅かな光に照らされ、スターダストのようでした。
これがぼくが見るこの世で最期の景色なのかなと思いました。

でも、消えかかった命の炎に照らされるなかで、『汚いままで死にたくない』って思っちゃったんですよね。こんな姿で発見されて、見ず知らずの人たちの晒し者になりたくないって。

家では虐待、学校ではいじめ、社会に出てもいじめや暴力。
惨めに生きてきて、最期も惨めだなんてそんなの嫌だなって。

怒りがふつふつと煮えたぎってきて、きょうを生きぬくためにベッドでしっかり眠るようになり、ごはんを食べるようになり、お手洗いにも行くようになり、部屋の掃除をするようになり、お風呂に入るようになり、顔を洗うようになり、服も下着も替えるようになり、髭も剃るようになり、歯も磨くようになり、髪も整えるようになって、ぼくは度重なる自殺未遂から再起を果たしていきました。


先日名古屋に一時間半かけて逢いに来てくれた時、蓮は身支度が整っていましたよね。
顔の色艶も思っていたより良かったです。

きっと、食べてきてくれたのでしょう。
きっと、よく眠ってきてくれたのでしょう。
きっと、歯を磨いてきてくれたのでしょう。
きっと、お風呂に入ってきてくれたのでしょう。
きっと、髭を剃ってきてくれたのでしょう。
きっと、顔を洗ってきてくれたのでしょう。
きっと、下着も洋服も着替えてきてくれたのでしょう。

そうして出掛けてきてくれた。
これって、全部自分のことを大切にしているからなんですよね。

もし自分のことが本当に大嫌いだったなら食べないし、歯も磨かないし、お風呂にも入らないし、顔も洗わないし、髭も剃らないし、洗濯もしないし、服なんて裸でなけりゃいいやって適当になっていると思うんですよね。でも、蓮はそうじゃなかった。


『自分のことが嫌い』ってつい言ってしまう。
でも、嫌いになるのって難しい。
やっぱり、どこかで、信じたい、信じていたいんだと思う、自分だけは。


ヒロより。
2018.6.13