白色の自己主張

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あうん、つうかあ、余白

白色の自己主張
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You are the reason why I write. あなたがいる、それがわたしの書く理由。
Donna Jo Napori (ドナ・ジョー・ナポリ)http://www.donnajonapoli.com/about.html



     白色の自己主張 ~ 何色にも染まるたおやかさ 染まらない凛凛しさ ~



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親愛なる アンに

ぼくには、『愛してる』と伝えるのがずっと怖かったことがありました。東京 ←→ 名古屋 日本 ←→ アメリカ 13年間の遠距離恋愛の末婚約した愛しき女性に『愛してる』と伝えた後、挙式直前に病気で亡くしたからです。

『伝えたらまた大切な人を亡くすんじゃないか』
そんなはずはないのだけれどそう思ってしまう自分が、怖くて仕方がない自分が居ました。

馬鹿げていると思うでしょう、そんなことありえないって。
でも、そう思ってしまうほどの喪失感でした。


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NHK連続テレビ小説『半分、青い。』に、こんな場面がありました。

著名な漫画家 秋風羽織(あきかぜ はおり http://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/cast/index.html)の元へ弟子入りするため、岐阜から上京した楡野鈴愛(にれの すずめ)。

同じ日に同じ病院で産まれた幼馴染み 萩尾律(はぎお りつ)が、上京後通う大学で高校時代の初恋の相手 伊藤清(いとう さや)と運命的な再会を果たして交際へと発展すると、気づきつつも気づかないようにしてきた律への想いを揺さぶられ、想いを爆発させ、『律は自分のものだ』ふたりの関係に割って入るかのようなことを言ってしまいます。

今までなら笑って許された。
今までなら、周囲がしょうがないなとフォローしてくれた。
でももう天真爛漫では済まされないことでした。

清には、律が鈴愛と二股をかけているように映ります。
清には、自分が律を鈴愛から奪ったように映ります。

清を哀しませてしまったことに温厚で優しい律もさすがに腹に据えかね、静かながらも、言葉を選びながらも怒りをぶつけ、鈴愛に別れを切り出しました。


数年後。

ふたりを取りあげてくれた町医者 岡田貴美香(おかだ きみか)先生の還暦祝いが催されることになり、帰郷した鈴愛と律。会場では逢えませんでしたが、律が現在暮らす京都へと帰る電車に間に合い、再会を果たすと、律からプロポーズが。

唐突なもので、戸惑う鈴愛。
答えは、『無理だ』でした。
言い方も実に素っ気ないものでした。


律は、『自分とは結婚できない』と受け取りました。
他に好きな人が居るとも思いましたが、拒絶にも近いものでした。

一方鈴愛は、今は漫画家として大事な時期。
仕事に専念していたいから『今は無理』。

東京に拠点があるため、『京都へ引っ越すのは無理』。
ふたつの意味での『無理』と伝えたつもりでした。

それからまた月日が流れたある日。律の結婚を知らせる葉書が秋風や鈴愛の元へと届き、そこでようやくふたりは互いに思っていたことが違うと知ることになるのです。


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鈴愛と律は同じ日に同じ病院で産まれ、家族ぐるみでの付き合いがあることから、高校を卒業するまでいつも鈴愛の隣には律が、律の隣には鈴愛が居ました。あまりに長い時間を共にしてきたことで鈴愛は律のことを、律は鈴愛のことを誰よりも、ひょっとしたら両親よりもわかっているという思い上がりがあったのかもしれません。

あうんの呼吸
つうと言えばかあ

こう表現すれば聞こえはいいですが、見方を変えれば言葉を尽くしていないということ。誰よりも鈴愛のことをわかっている。誰よりも律のことをわかっている。そんな近すぎる関係が『きっとこうだろう』頭の中で勝手に答えを出したり、勝手に変換したりしてしまったのだと思います。『言ったつもり』を生んでしまったのだと思います。若さ故ではない、関係に胡座をかいた甘えのようなものが横たわっているように映ります。

もしあの電車を待つ間に、やけに物分りよくぶらずに、『無理だ』の省略されてしまった部分や本当はどうなのかを言葉にして聞いたりしていたなら、ふたりの一方通行の人生は変わっていたかもしれません。

それが叶わなかったのは、鈴愛にとってみれば長年秘めてきた想いが思わぬ形で成就することへの戸惑いがあり、律にとっては『無理だ』の真意を尋ねるのが怖かったのかもしれません。


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『愛してる』
言葉に代わる伝え方はあまたあるでしょう。

手をつなぐ。
髪を撫でる。
肩を抱く。
抱きしめる。
キスをする。
セックスをする。

でもそこには鈴愛と律のようなプロポーズを巡る『伝えたつもり』『伝わったつもり』『勝手な変換』があるように思えてもどかしかった。


結婚したパートナーはぼくと出逢う前遠距離恋愛をしていました。けれど、恋人の住む福岡で酷い仕打ちに遭って数ヶ月も寝こむほどの痛手を心に負ったのに、その後出逢ったぼくに惜しみなく愛情を注いでくれました。エクリア ブランドCM『しなやかなヒト篇 https://youtu.be/DkOI8K6wRZY』では『オンナは断ち切る オトコは引きずる』なんて言われていましたが、まだ癒えていなかったと思います。

彼女からは『大好きだよ』『愛してるよ』と言ってくれているのに、ぼくからは『ぼくも大好きだよ』とは言えても、『愛してる』とは言ってもらえないことに不安を感じていただろうに、それでも惜しみなく愛情を注いでくれていました。

理由は判らない。でも、それでいいと思っていました。人を好きになることに理由なんてないのだから。人を愛することに理由なんてないのだから。理由があるからなにかをするんじゃない。したいからする。そんなことだってあるから。

『こういうところが好き』
『こういうことだから愛している』

そんな理由を後付けであげようと思えばいくらでもあげられるけれど、理由があって好きになって、理由があって愛して、理由がなくなったら好きじゃなくなるわけじゃない。愛せなくなるわけじゃない。恋も、愛も、論理的なものじゃないし、そんなのは嫌だ。

なぜだかわからないけれど好き。
なぜだかわからないけれど心惹かれる。

そんな彼女の愛に応えたい。これからもずっと彼女と生きていきたい。ぼくが抱える心の傷を彼女が愛で包み込んでくれたように、彼女が抱える心の傷もぼくが愛で包み込んであげたいと思いました。

言わなくてもわかるは、彼女の想いを軽んじることだと思いました。
言葉を尽くすことから逃げたくないと思いました。


思い切って言葉にしました。
言えなかった『愛してる』を。

『伝えたらまた大切な人を亡くすんじゃないか』
現実にはなりませんでした。


日本には察する文化があり、日本人は余白で語り合えることが得意だと言われます。言わずとも伝わること、秘めた想いも素敵です。でもそれが『伝えたつもり』『伝わったつもり』『勝手な変換』だったなら。『言わなくてもわかる』『わかれよ』そんな傲慢さでしかなかったなら。一歩通行の人生で交わる機会を自ら捨てているのかもしれません。


親しき仲にも礼儀あり。
親しき仲にも言葉あり。

ヒロより。
2018.6.29






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