白色の自己主張

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あなた

キリトリ
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Photo by Tron Le

「あなた」の話を聞く

そんなときにふと思い出したのは、編集プロダクション時代に取材した作家の森瑤子さんがおっしゃっていたことだ。

森さんは、作詞家の安井かずみさんと知り合って電話でよく話すようになったとき、切ったあといつも、心が満たされる感じがしたという。

「どうしてなのか考えてみて、あるとき気がついたの。彼女は会話の中で " あなた " という言葉を発することがとても多いことに」

あなた、先週どうしてた? この間のあなたの帽子、似合っていたわ。 あなたいま、どんなものを書いているの? あなたきっと、子供の頃から大人っぽい女の子だったでしょうね。

「会話の中で " 私 " を少なくして " あなた " を多くするように心がける。それだけで、もっと会いたい、話したいと相手に思ってもらえることを、私は安井さんに教わったの」

その話を聞いたとき、私はなるほどと納得したのだが、自分では実践していなかった。何を言っても大丈夫で、長い「自分語り」も許してくれる親友とばかり付き合ってきたから、人間関係に関する感度が鈍り、同時に節度も失っていたのだと思う。

それからは、人と話すとき " 私 " より " あなた " を多くするように気をつけるようになった。すると、少しずつだけれど、この人と仲良くなりたいと思った相手との距離を縮められるようになっていった。そして気がつくと、四十代で何人かの友だちを作ることができていた。

雑誌PHP 令和二年三月号
特集『人づきあい 上手な距離の取り方』
「私」より「あなた」を多く
ノンフィクション作家 梯 久美子
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  • posted by コウノトリの噛み痕